中国労働者賃金上昇で加速する日本企業のバングラデシュ大移動

 昨年7月、バングラデシュの首都・ダッカのレストランで、食事中だった日本人7人がイスラム過激派のテロの犠牲になった事件は、今も記憶に新しい。しかし、その後も日本企業のバングラデシュへの意欲は削がれることなく、今年に入ってさらに企業の動きが活発になっている。
 「人口は1億6000万人ですが、人口密度は世界第7位。しかも平均年齢が26歳(2016年)。ポイントは、賃金がいまや中国の4分1、労働者も勤勉で、技術水準も高いこと。そのため日本企業は、治安の問題など多少のリスクを犯してでも、進出したいのです」(経済誌記者)

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同国に拠点を持つ日系企業数は'17年6月現在で253社に達し、'08年の約3倍の勢いだ。同国の縫製技術は世界でトップクラスを誇り、例えば、スペインの世界的ファッションメーカーで日本のモデルやタレントにも圧倒的人気の『ZARA』や、スウェーデンの『H&M』など、世界中のアパレル産業が集中。日本専用の工場団地があるサウスダッカを中心に、約130カ国、5000近い縫製工場がある。
 「この縫製技術は、戦前、英国の植民地時代に紳士淑女のための衣料品縫製を担ったことで、培われたのです」(アパレル関係者)

 しかし、日本の縫製企業が定着するまでには、それなりの努力と大きな犠牲があった。
 「一時は若者が劣悪な環境で働かされ、2013年には8階建ての商業ビル兼縫製工場が崩落し、約1200人が死亡するという大惨事が起きたこともある。事故原因は、増築に増築を重ね、そこに縫製工場のミシンの振動が加わったことによるもの。これを機に、日本の縫製工場にも石が投げ込まれるなど、地元の反発が強まったが、日本企業が根気強く環境改善に努め、徐々に信頼を高めていったのです」(同)

 そんなアパレル日本企業の一つに、イオンやイトーヨーカ堂、しまむらなどへ製品を納入する丸久(本社=徳島県鳴門市)がある。
 「同社は'09年にチャイナリスクが顕在化し始めた頃から、徐々にバングラデシュにシフトし、当初8億円を投資して縫製とプリント工場を建設しました。その後、生地作りから染色まで一貫して生産可能な工場を建設。現地生産を進めて地元での信頼を勝ち得てきたのです。'20年にはヨーロッパ向けの製品を作る工場を新設し、現地雇用を今の2倍の5000人に引き上げる予定とのこと」(服飾メーカー関係者)

 また、ユニクロを展開するファーストリテイリング(本社=山口県山口市)も、'08年からバングラデシュに進出。労働安全協定や貧困層融資でノーベル平和賞を受賞した、ムハマド・ユヌス氏が運営するグラミン銀行などとタッグを組み、貧困層に利益が還元できるシステムを導入し、地元の人たちの理解を得る努力を積み重ねてきた。
 ほか、衣料品関連では東レ、YKK、マツオカコーポレーションなどもすでに事業展開をしている。
 「安倍政権も、バングラデシュへの1000億円規模の資金援助などでバックアップし、その流れで住友商事と東芝、IHIの3社は同国の総発電量の1割を担う石炭火力発電所と、港湾の建設工事案件を受注。事業費約5000億円で、'24年7月の完工を目指しています。また、三菱商事と川崎重工業も建設中の都市高速鉄道計画で、車両144両と車両基地設備など約400億円分を受注している。同国のインフラがらみの公共事業は目白押しで、日本のゼネコンや機械関係業者にとっては宝の山です」(ゼネコン関係者)

 同国では、IT関連の人材も注目されている。日本の某人材派遣業者では、日本のIT関連企業向けに、合同就職説明会を開催するという。
 「バングラデシュの工業系大学は、国際的なACM国際大学プログラミングコンテストで、毎年、世界でも上位の成績をおさめており、今や欧米、韓国なども同国の大学の人材引き抜きに躍起なのです。日本も遅ればせながら、その頭脳を求め、動き出しています」(IT企業関係者)

 しかし、日本企業にとって最大の不安は、やはり治安対策だ。
 「各企業とも、日本人家族の帯同や街中での外食などは控えている。さらには、現地スタッフの増強などを含めたフォローも必要です。とはいえ、もともとバングラデシュは世界一と言ってもいいほどの親日国。その意味でも、治安対策をクリアする苦労のしがいがあるということです。両国の絆が一層深まるのを望む声は、産業界ばかりか、同国民の間でも日々、強まっています」(前出・経済誌記者)

 バングラデシュへの日本企業の進出は、ますます拡大しそうだ。

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