森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★日本は人手不足ではない

外国人単純労働者の受け入れに道をひらく、出入国管理法の改正案が衆議院を通過した。国の形を変える重要法案であるにもかかわらず、審議時間はわずか17時間余りだった。参議院の審議で、与党は強権を発動してでも、会期内に法案を成立させ、来年4月からの施行を実現させる構えだ。

 なぜそんなに急ぐのか。政府の一貫した答弁は、「人手不足の解消は喫緊の課題で、急がないといけない」というもの。しかし、本当に人手不足なのだろうか。

 経済学では、人手が不足するということは、理論的にあり得ない。不足が発生すれば、賃金が上昇して、働きたい人が増えて、需給のバランスがとれるからだ。

 人手が足りないと言っている経営者の本音は、いまの賃金では、十分な人手が確保できないということなのだ。それでは、いまの単純労働者の賃金は、果たして妥当なものなのだろうか。

 労働政策研究・研修機構が発表している今年の各国の最低賃金を現時点の為替レートで円換算すると、日本の848円に対して、アメリカ823円、イギリス1133円、ドイツ1135円、フランス1269円となっている。つまり、日本の最低賃金は米国と同水準で、欧州は、日本の3割から5割増しなのだ。

 しかも、7月15日付けの朝日新聞によると、韓国の最低賃金は835円と、この10年で2倍に上がっている。さらに、韓国では「週休手当て」が支給されるため、それを含めた実質最低賃金は日本円換算で1010円と、日本を大きく上回っている。

 最低賃金を引き上げたのは、韓国だけではない。イギリスも、この8年間で最低賃金を32%も引き上げているのだ。

 私は、外国人労働者の受け入れをする前に、まず国内で、先進国並みの最低賃金を支払うように変えるべきだと思う。そうすれば、高齢者も女性もニートも、働く人が増えるだろう。介護の分野でも、資格を持ちながら介護現場で働いていない介護福祉士は約62万人も存在している。

 経営者はなぜ国内人材の活用を言わないのか。その理由はたった一つ、高い賃金を支払うのが嫌なのだ。実はいま、大都市中心部では、労働力のひっ迫で、パートやアルバイトの時給が上がっている。東京の深夜帯になると、時給1500円を支払わないと、労働者が集まらなくなっている。それは世界的にみたらごく普通のことなのだが、経営者たちは、外国人単純労働者の受け入れを拡大することによって、それを最低賃金レベルに戻そうというのだ。

 日本の正社員は、先進国と比べて賃金がひどく低いわけではない。低いのは、パート、アルバイト、派遣といった非正社員層だ。しかも、その中には正社員と同じ仕事をしているのに、賃金が半分以下という人が多く含まれている。私が知る限り、世界の中で同一労働同一賃金の原則を守っていないのは、日本だけだ。

 また、正社員の平均労働時間の1972時間と同じ時間を、最低賃金の848円の時給で働いても、年収は167万円にしかならない。それでは、生活が難しい。日本が先進国の一員になるためにも、外国人労働者の受け入れをするのではなく、先進国並みの最低賃金を実現することが、人手不足解消の第一歩なのだ。

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