世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第304回技術と「豊かさ」

資本主義とは生産者が「技術」に基づく「資本」を生産し、さらなる生産活動に投じることで、生産者1人当たりの生産量を増大させていく経済モデルだ。ここでいう「資本」とはおカネの話ではなく、高速道路や鉄道、電力や水道などのライフライン、工場、機械設備、運搬車両など、生産のために必要な「ハードウエア」を意味している。

 例えば、運送サービスを例にとろう。資本主義以前の世界において、東京―大阪間で運送サービスを提供するとする。何しろ自動車も高速道路もないわけだ。生産者は大八車に荷物を載せ、舗装されていない悪路をえっちら、おっちらと荷物を運ぶしかない。運送サービスの生産性(生産者1人当たりの生産量)は、著しく低い。

 その後、土木・運送業が高速道路という「資本」を生産した。さらに、自動車会社が大型トラックという「資本」を生産。運送サービスは、他の生産者が生産した大型トラックに荷物を積載し、高速道路を走らせる。運送サービスの生産者、つまりはドライバーだが、それまで大八車で何週間もかけて東京から大阪まで荷物を運んでいたのが、わずか数時間に短縮される。しかも、一度に運べる荷物も増やせる。

 運送サービスが高速道路、大型トラックという「資本」を自らの生産活動に投じることで、ドライバー1人当たりのサービス生産量が激増するわけだ。「資本」を用いて生産することで、生産性を高めていくのが「資本」主義の根幹なのである。GDP三面等価の原則により、生産活動における「生産」「需要」「所得」の3つは必ずイコールになる。資本を生産活動に投じ、生産者の生産性が向上すると、イコール「所得の増加」ということになり、人々は豊かになっていく。

 もっとも、効率よく資本を生産するためには「技術」が不可欠である。技術がなければ、高速道路も大型トラックも生産できない。ちなみに、いわゆる発展途上国が貧しいのは、おカネがないためではない。おカネなど、政府や中央銀行がその気になれば、いくらでも発行できる。

 おカネがあったとしても、資本を生産する技術がなければ、その国は低生産性国に甘んじざるを得ない。つまりは、生産者1人当たりの生産量が小さい「貧しい国」のままなのだ。国民が豊かになるためには、資本を生産するための技術の発展が不可欠だ。

 さて、資本主義はインド製綿製品(キャラコ)に対抗するため、イギリスの元・毛織物業界が技術開発、設備投資を始めたことで口火を切った。技術や設備により綿製品の生産性を向上させ、人件費が6分の1のインド綿産業に打ち勝つ。いわゆる、産業革命である。産業革命は、イギリス綿製品の「単位労働コストを引き下げる」生産性向上が目的だったのだ。

 産業革命により、資本が資本を生産し、技術が支援し、生産者1人当たりの生産量が激増する「資本主義経済」が本格的に始まった。資本主義により、人類は初めて「継続的に豊かになる経済」を手に入れた。もっとも、当初はイギリスをはじめとする「一部の国」のみが資本主義国となり、そうではない「低生産性国」との間の格差が開いていく。

 結果的に、資本主義国が自国の高い生産性のもとで生産した商品を低生産性国に売り込み、所得を収奪する「帝国主義」の時代が始まった。それはともかく、歴史を振り返れば、資本主義の肝、生産性向上を実現する最強のツール(あるいは「概念」)が技術であることが理解できる。技術の発展なしでは、豊かな生活は実現できない。

 2019年初頭、建設機器大手のコマツが、2021年までに無人運転の建設機械を商用化するとのニュースが流れた。コマツは国内建設産業で深刻化している技能労働者不足に対応するため、現場の省人化を目指しているわけである。

 具体的には、まずは小型無人機ドローンを飛ばし、地形を計測、撮影し、三次元測量データを作成する。さらに、測量データを活用し、ショベルカーなどの建設機器と連携。AIにより現場の画像を分析したショベルカーは、測量データに基づき土砂を「正確」に掘り、指定の位置に自動的に運ぶ。土砂が積み込まれたダンプカーも全自動で、カメラで障害物などを検知しながら、指定の場所へと運搬する。

 結果的に、建設機器の操縦者の技能のばらつきがなくなり、施工の生産性向上が達成される。さらには、ショベルカーの近場で掘削の目安を示す人手が不要となり、安全性も高まる。

 実は、
「ドローンで測量し、三次元測量データを作成。データを建機にインストールし、ミリ単位で正確に施工する」
 という技術はすでに確立し、現場に導入されつつある。

 もっとも、現在は建機に人が乗り込み、スロットルを動かしているため、完全自動というわけではない。とはいえ、現場で自動建機を活用している企業経営者などに聞くと、生産性効果はすさまじいとのことだ。

 まずは、測量の時点でとてつもない生産性向上になる。その上、自動建機の施工は、ある意味では残念なことだが、「どんな熟練工よりも巧い」というのが現実なのだ。

 当たり前だが、人間には調子の波というものがあり、しかも疲労する。どれだけ熟練した技術者であっても、次第に精度が下がるのは仕方がない話だ。ところが、自動建機は疲れない。測量データやGPSなどを用い、正確に施工を続ける。

 別にコマツに限らず、日本の「民間」の生産性向上のための技術開発、技術進化は始まっているのだ。理由はもちろん、日本には「人手不足」という技術開発に対する膨大な需要があるためである。

 需要こそが、技術を発展させる。わが国は生産年齢人口比率の低下により、人手不足という「資本主義の成長」の絶好の機会を迎えた。それを潰すのが、政府の緊縮財政であり、移民受け入れなのだ。安倍政権は、日本の経済成長を妨害する「ボトルネック(制約)」に落ちぶれてしまった。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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