森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★毎勤統計は「ミス」なのか

1月11日の新聞各紙は、厚生労働省が行う毎月勤労統計が誤った調査方法で行われており、実際よりも賃金が低く集計されていたと報じた。この影響で、15年間で雇用保険や労災保険が本来より567億円少なく支払われていた。過小給付分については、政府はさかのぼって支給する方針だという。

 毎月勤労統計は国の基幹統計で、ここで調べられた賃金水準は、雇用保険や労災保険の計算に用いられるだけでなく、GDPの算出にも用いられている。調査の際、従業員500人未満の事業所は、サンプル調査を行い、500人以上の事業所は、全数を調査する規定だ。ところが、東京都については、全数ではなく3分の1程度の事業所だけを調査していた。その結果、給与水準の高い事業所が調査から漏れていたというのだ。

 もちろん、規定通りに調査をすべきことは当然なのだが、問題は15年間も続けられてきた“ミス”を、なぜ、ここにきて明らかにしたのかということだ。

 実は、毎月勤労統計は昨年も一度物議をかもしている。一昨年までは、調査対象の事業所を2〜3年ごとに全数選び直してきた。しかし昨年から、調査対象の事業所を3分の1ずつ毎年入れ替えることに変更した。

 ところが、この入れ替えによって、賃金水準の高い事業所が新たに選ばれた。その結果、昨年の賃金の伸び率が、本来よりも高く出ることになってしまった。昨年1月から11月までの現金給与総額の対前年伸び率の単純平均は、1・54%と公表されているが、継続調査が行われている3分の2の事業所だけでみると、0・79%にとどまっている。つまり、サンプル替えによって、賃金上昇率が0・75%底上げされているのだ。

 厚生労働省は、賃金の上昇率をみるときには、継続調査されている事業所だけの数字を使うべきとしながらも、賃金上昇率の算定に用いられる賃金指数を、一切修正していない。

 実は、安倍政権の政策運営で一番問題なのは、実質賃金が下がり続けていることだ。実際、政権発足後5年間で、実質賃金は4.1%下落している。ところが、昨年に入って、1月から11月の平均は0・03%増と、実質賃金がわずかながらプラスに転じている。ただし、それはサンプル替えの底上げの成果。底上げ分を除いた実質賃金の伸びは、0・72%減と、実質賃金の下落は、まったく止まっていない。

 ただし、昨年のサンプル替えに伴う賃金上昇の底上げ効果は、1年限りで終わる。今年のサンプル替えで、2年連続で賃金水準の高い事業所が選ばれる保証はない。もしかしたら、賃金水準の低い事業所が選ばれる可能性もある。

 そのリスクを避けるには、どうすればよいのか。実は、今回明らかになった誤った調査手法を修正すれば、確実に賃金を上昇させる効果を持つ。つまり、実質賃金の上昇という統計結果が、今年も続いていく可能性があるのだ。

 もちろん、厚生労働省が、実質賃金の上昇を偽装するために、二度も統計調査手法の変更を行ったという証拠は何もない。しかし、そんな偶然が本当に二度続くのだろうか。

 大切なことは、実質賃金の低下という事態がまったく改善されていないという事実を、国民がしっかり認識することだろう。

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