森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★老後に2000万円必要か

金融庁が6月3日にまとめた「高齢社会における資産形成・管理」という報告書で、95歳まで暮らすには2000万円の貯蓄が必要としたことが大きな論争を呼んでいる。立憲民主党の辻元清美国対委員長は、「政治の責任を放棄したと言わざるを得ない」と糾弾し、野党はこの問題を参議院選挙の争点にする構えだ。

 報告書の推計は、きわめてシンプルなものだ。現在、無職の高齢2人暮らし世帯は、収入が21万円に対して支出が26万5000円と、月5万5000円の赤字となっている。この赤字を65歳から95歳までの30年間積み上げると約2000万円になるという。

 ただ、私はこの試算は甘いと思っている。一つは、95歳で死ぬとは限らないからだ。将来生命表では、2000年生まれ女性の20%が100歳まで生き残る。そして、4%が105歳まで生き残るのだ。

 もう一つは、年金が今後大きく削減されていくことだ。現在の65歳支給開始を守る限り、近い将来、公的年金の給付水準はいまより4割も減少する。この二つを考慮し、年金が今後20年間にわたって2%ずつ減少し、105歳まで生き残ると仮定すると、不足金額は5780万円に達するのだ。

 そうした貯蓄は、ほとんど実現不可能。それではどうしたらよいのか。

 生活の基本は、収入の範囲内で暮らすことだ。だから不可能な額の貯蓄に挑むのではなく、最終的には夫婦で13万円にまで減少する厚生年金の範囲内で暮らすことを考えればよい。それは、不可能なことではない。

 家計で最も大きな支出となる住居費は、都心から離れれば離れるほど安くなる。いま、住居地のトレンドは、都心から近く、かつ駅近だ。現役バリバリのときは、職住接近が必要かもしれないが、定年を迎えたらその必要性はなくなる。

 もちろん、田舎に住めば、タダ同然で家は手に入る。しかし、田舎は人間関係が濃すぎるので、ついていけない人が多い。また、過疎地は物価が高くなるので、生活は厳しい。例えば、水道料金は自治体によって7倍もの格差があり、料金の高い自治体には北海道や東北の市町村が多く並ぶ。一方、郊外の市町村は総じて水道料金が安い。ある程度の人口密度がないと、水道料金を安くできないのだ。そうした傾向は、物価全体でもいえる。家賃や人件費が安く、価格競争が激しい郊外は、物価が低めになる。

 だから私は、老後は都会と田舎の中間“トカイナカ”に住むのが一番よいと思う。東京中心に考えたら、圏央道周辺の都市だ。具体的な地名だと、海老名、八王子、入間、久喜、つくば、茂原といった地域だ。家賃や物価が安く、人間関係も適度の距離感で、しかも都会に行きたければ、さほど時間もコストもかけずに出かけることができる。

 政府は、貯蓄を増やすために70歳まで働き続けろと脅している。しかし、男性の健康寿命は72歳だ。70歳まで働いたら悠々自適の生活はたった2年で終わってしまう。

 都心居住にこだわって、やりたくもない仕事を老体にムチ打って続けるよりも、トカイナカでカネにはならないが楽しい仕事を続けながら、ゆったり暮らすほうが、ずっと幸せな老後なのではないだろうか。私は、昨年から群馬県昭和村で農業の修行を始めている。

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