世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第342回 公共投資否定派への怒り

2019年10月12日に静岡県伊豆半島に上陸した台風19号は、長野県から東北地方という広い範囲に、途轍もない災厄をもたらし、太平洋へ去った。

 本稿執筆時点(10月16日)で、台風19号による死者数は74人、行方不明者が11人。人命の損失に加え、今回は55(!)の河川で、79カ所の堤防が決壊し、広範囲に甚大な被害をもたらした。昨日までの「日常」が奪われ、財産(家屋・家財など)が毀損した国民は万を超す。住宅の浸水被害は、少なくとも1万3000棟に達している。

 個人的になじみ深い多摩川が氾濫し、世田谷のマンションで一時は水位が2メートル近くにまで上昇した。対岸の武蔵小杉では排水機能が追いつかず(あるいは多摩川への排出が不可能となり、水が逆流した)、冠水によりタワーマンションで地下の配電盤が壊れ、多くの部屋で停電や断水が発生した。

 千曲川の氾濫では、北陸新幹線の多くの車両が浸水。北陸新幹線は復旧したとしても、しばらくは本数が少なくならざるを得ないだろう。金沢(石川県)など、北陸地方の経済も大打撃を受けることになる。

 中央道は大月ICと八王子JCTが上下線とも通行止めになっており、復旧には1週間以上かかる見込みだ。東京都奥多摩町では、町の西部の日原地区につながる車道が崩落。100人近い住民が孤立状態になった。ちなみに、バックアップ・ルートは存在しない。

 さらに、長野県や福島県などで、広範囲に市街地が水に沈み、泥の海と化した。
 2015年に鬼怒川が氾濫し、街が水に沈んだ光景を見て、ある政治家が、「日本で今更、こんな光景を見るとは思わなかった」と発言し、筆者は激怒した記憶があるのだが(政府が公共投資を削り続けたから、こんな事態になっているんだ!)、今や毎年のように“こんな光景”を、しかもより広範囲で見るようになってしまった。昨年の西日本豪雨災害の記憶は、まだ新しいところだ。

 首都圏では、首都圏外郭放水路や八ッ場ダムといった治水インフラが威力を発揮。これら治水インフラがなければ、利根川や荒川などが氾濫し、東京で大洪水が起きた可能性が濃厚だ(本当にギリギリだったのだ)。我々東京都民は、過去の先人の「公共投資」により救われたことになる。

 当然ながら、日本国内で治水、防災の公共投資拡大の声が高まると思いきや、10月14日、日本経済新聞に〈「もう堤防には頼れない」国頼みの防災から転換を〉という恐るべき記事が掲載された。記事中で、執筆者の久保田啓介編集委員は、
〈堤防の増強が議論になるだろうが、公共工事の安易な積み増しは慎むべきだ。台風の強大化や豪雨の頻発は地球温暖化との関連が疑われ、堤防をかさ上げしても水害を防げる保証はない。人口減少が続くなか、費用対効果の面でも疑問が多い。〉
 と、信じがたいことを書いている。さらに、久保田編集委員は〈自らの命は自ら守る意識を持つべきだ〉という、中央防災会議の有識者会議がまとめた報告を引用している。

 要するに、日本国民はもはや災害についても「自己責任」であり、自らの生命は自ら守れという話だ。ならば、もはや政府など不要なのではないか? 日本国家は、災害から国民を守る「サービス」についても、店じまいという話なのだろうか。

 久保田編集委員がどこに居住しているのか知らないが、今回の台風19号では、過去の公共投資が東京圏の住民3700万人を守ったのだ。防災インフラが不十分で、隅田川の氾濫が発生し、あるいは東京湾大型高潮が起きた場合、日経新聞の本社(東京都千代田区大手町)も被害に遭っていたことだろう。

 自らは過去の先人の投資に救われながら、「公共工事の安易な積み増しは慎むべき」「堤防をかさ上げしても水害を防げる保証はない」「費用対効果の面でも疑問が多い」と、公共投資を全否定する。正直、「狂っている」以外に適切な表現を思いつかない。

 防災・治水の公共投資を増やさなければならない。PB黒字化目標を破棄し、追加的な建設国債発行、長期予算を成立させるのだ。

 防災投資の話となると、すぐに「財源が」と言い出す連中で溢れ返っているが、日本に財政問題はない。さらには、長年の公共投資削減で土木・建設の供給能力が毀損したならば、それこそ「長期的な防災計画」を政府がコミットし、予算を長期で確保すれば済む話である。

 長期の展望が明確ならば、土木・建設業界が本格的な投資に乗り出し、供給能力は回復していく。というより、回復させなければならない。我が国が世界屈指の自然災害大国である以上、「土木・建設の供給能力が落ち込んでいる」では、話は済まないのである。

 ところで、八ッ場ダムと言えば、民主党政権は確かに八ッ場ダムの建設にストップを掛けたが、再開したのは野田政権である。つまりは民主党時代の話になる。

 不思議なことに、SNS上では「民主党が建設中止し、安倍政権が再開した八ッ場ダムが都民を救った」といった“嘘”が普通に広まっている。誤解している人が多いが、安倍政権は民主党政権期以上に公共事業支出を削減しているのだ。日本の「補正予算」を含めた、公共事業支出は、民主党政権(2010年〜2012年)は、6.2兆円。第2次安倍政権(2013年〜2018年)は6.15兆円(※一般会計に移された社会資本特別会計分は除く)。

 この事実が共有されず、「安倍政権は公共事業を増やしている」といった偽情報が広まると、次なる政権で、
「我々は放漫財政の安倍政権とは違い、公共投資を削減する」
 と、更なる緊縮財政が推進されることになる。

 もはや、猶予はない。特に、世界最大のメガロポリス、東京圏3700万の住民に知って欲しい。「次は」荒川や利根川が決壊するかも知れないのだ。これが、目の前の現実だ。

 自分や家族、友人、そして「同じ国民」の生命や財産を守るためにも、公共投資否定論を“否定”して欲しい。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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