世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第357回 国民を守る国境を取り戻す

2020年1月31日、イギリスが欧州連合(EU)から正式に離脱した。ロンドンの首相官邸では、プロジェクションマッピングを用いたカウントダウンが開催され、離脱の瞬間、ウェストミンスター宮殿の時計台の大時鐘が鳴り響いた。集まった人々は大歓声を上げ、ユニオン・フラッグ(連合王国国旗)を振りかざし、英国国歌『God Save the Queen(神よ、女王陛下を守り給え)』を合唱。ブリュッセルでは、EU本部からユニオン・フラッグが取り外され、イギリスは「主権」を取り戻すことになった。

 無論、イギリスにはEU残留派も多い。同日、ロンドンの議会広場では欧州旗を掲げた残留派の抗議デモが行われた。残留派の中には「私たちは必ず戻ってくる」と書かれたプラカードを手にする人もいたが、やがては終息していくことだろう。歴史の流れは、明らかに「反グローバリズム」である。

 さて、主権を取り戻した英国であるが、2月4日、英外務省は新型コロナウイルス感染拡大を受け、イギリス国民は可能な限り中国から退避するよう勧告を出した。各国の渡航制限や航空会社の中国便運航停止が相次いでいるため、今後は中国からの出国が困難になるとのことである。

 イギリスの大手航空会社ブリティッシュ・エアウェイズなどは、すでに中国便の運航を中止している。となると、今後、事態がより深刻化した際(可能性は十分にある)には、「武漢のように都市が封鎖されているわけではないにも関わらず中国から出国できない」ケースが出てくると「想定」する必要がある。

 日本の外務省の海外在留邦人数調査統計によると、在中邦人(日本国籍保有者)数は12万人(!)。政府のチャーター便で救出できる人数ではない。

 外務省は、即刻、イギリスに倣い、「退避勧告」だけでも出すべきだ。

 現在、日本の外務省は中国について、
 中国湖北省全域「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」
 上記以外の地域「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」
 と、湖北省であってもレベル3にとどめている。これを即刻、中国全土について、
「レベル4:退避してください。渡航は止めてください。この状況では、当然のことながら、どのような目的であれ新たな渡航は止めてください(退避勧告)」
 に引き上げるのだ。

 レベル4が出れば、逡巡している日本企業が率先して社員を退避させる。何しろ、12万もの「同じ国民」が中国に在留しているのだ。「最悪のケース」を考え、先手、先手を打ち、日本国民の安全を守ることは日本政府の義務である。

 もっとも、日本政府は「中国人のインバウンド消費」とやらに足をすくわれたのか、新型コロナウイルス蔓延という「非常事態」への対応が遅れに遅れた。安倍総理大臣は中国の春節を祝うメッセージを送り、
〈日本で活躍されている華僑・華人の皆様、謹んで2020年の春節の御挨拶を申し上げます。

 今春、桜の咲く頃に、習近平国家主席が国賓として訪日される予定です。日本と中国は、アジアや世界の平和、安定、繁栄に共に大きな責任を有しています。習主席の訪日を、日中両国がその責任を果たしていくとの意思を明確に示す機会にしたいと思います。(中略)

 春節に際して、そしてまた、オリンピック・パラリンピック等の機会を通じて、更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています。その際、ぜひ東京以外の場所にも足を運び、その土地ならではの日本らしさを感じて頂ければ幸いです。(後略)〉

 という「安倍晋三内閣総理大臣春節祝辞」が在日中国大使館の公式ホームページに掲載された。信じがたい話だが、上記「祝辞」は1月30日まで削除されずに残っていたのである。

「祝辞」が掲載されたのは、1月24日。この時点で、中国国内の新型コロナウイルス感染者は1000人近くに達していた(その後、激増したのはご存じの通り)。

 ちなみに、今回の震源地となった武漢市の空港や駅から出る飛行機や列車を一時停止する措置が取られたのは、1月23日。1月26日からは自動車の通行も止められ、武漢や湖北省は封鎖状態に突入した。

 そのタイミングで、
〈春節に際して、更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています〉
 という安倍総理大臣の「祝辞」が掲載されたわけだ。恐ろしいほどの危機感のなさ。

 ちなみに、太平洋のミクロネシア連邦は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、感染者が確認された日本からの直接入国を禁止した。中国からの入国禁止ではない。我が国からの入国禁止措置がとられたのだ。すべては、日本政府の責任である。

 新型コロナウイルス問題で改めて理解できるのは、「国境」の重要性だ。無論「鎖国しろ」といった極端な話ではなく「国民が安全に豊かに暮らせる国境の高さ」を模索する必要があるという話だ。

 我が国は、内需大国であるにも関わらず、長引くデフレで内需が振るわず、企業はよりにもよって「あの中国」の市場や生産能力への依存度を高めていった。第二次安倍政権発足以降に至っては、本来は内需産業であるはずの観光業までもが中国依存を高め、結果が今回の有様だ。

 日本が中国人の入国禁止や、中国渡航レベル4への引き上げを躊躇している一因は、間違いなく「中国人のインバウンド」にある。

 こういった事態にならないよう、インバウンドを抑制し、中国「様」ではなく、日本国民の需要、市場で成長しなければならない。日本はそれが可能である、と筆者は訴えてきたわけである。

 嫌な話だが、今回の問題がひと段落した途端、安倍政権がまたもや「インバウンド! 中国人様!」とやりだすのは決定事項だ。理由はもちろん「緊縮財政」。緊縮である限り、デフレ脱却できず、中国をはじめとする「外国様」に頼らざるを得ない。

 緊縮財政、プライマリーバランス黒字化目標が「扇の要」となり、すべてを狂わせる。

 緊縮財政から脱却し、「国民を守る国境」を取り戻す。日本国民がイギリスに倣い「反グローバリズム」の要求を政治家に突き付けない限り、安倍政権の亡国路線は終わらない。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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