あやしげな健康食品に翻弄された男の末路@岐阜県各務原市

岐阜県各務原市で健康食品会社を経営していた松井悟(49)はある日、『不思議な波動の石で、もう病など怖くない』(史輝出版)という本を読んだ。監修者は京大医学部卒の薬学博士を名乗る久郷晴彦。その内容は、「ゲルマニウムを含有する『宝永石』はミネラル成分100%で、ガン細胞の増殖を抑えるインターフェロンを体内で産出させる」というものだった。

 これに興味を持った松井は早速、本の巻末に記載されていた「ミネラル研究所」に連絡を取り、静岡県で開かれたセミナーに参加。そこにはガンに苦しむ人たちが大勢いたという。

 「本来、人間には自然治癒力がある。現代医学や健康食品に対する考え方を見つめ直して、自分の病気は自分で治すんだという気持ちを持っていただきたい」

 これに感銘を受けた松井は、そのセミナーで配られたサンプルを自分でも服用してみたところ、目の病気が改善したような気がした。これは「プラシーボ効果」といわれるもので、医者が「この薬は非常に効果がある」と言えば、患者はさも薬が効いたような気になって、実際に調子が良くなることがあるというものだ。

 松井は再びセミナーの事務局に連絡を取り、「自分が代理店になって商品を売りたい」と申し出ると、宝永石からゲルマニウムを抽出する専門家として、「東大卒の工学博士」を紹介された。「ある程度まとまった量でないと、ゲルマニウムを抽出できない」という説明から、80キロ分をまとめて購入する契約を結んだのだ。その粉末に「宝永石ミネラル」と名付け、5グラム3万5000円で売り出すことにした。

 【この宝永石ミネラルはガン、肝硬変、糖尿病の特効薬となるものです。薬学博士が実証済みです。驚異の治癒力を体感してください】

 このような謳い文句で売り出された「宝永石ミネラル」だったが、購入した客から「効果がない」「お腹を壊した」という苦情が寄せられるようになり、その相談を受けたという医師からは「この粉末にはゲルマニウムが含まれていない」と指摘された。岐阜県薬事課からも「これは医薬品に該当します。薬局の開設許可がないなら、販売をやめるか、HPを閉鎖するか、どちらかにしてください」という警告を受けた。

 松井は慌ててセミナー事務局に連絡したが、関係者への連絡は一切つかなくなっていた。騙されたのだ──。

 思案に暮れた松井は、これを売りさばくため、自らが「東大出身の医師」になりすまし、出会い系サイトで再婚相手を探す40代の女性たちにターゲットを絞り、結婚詐欺を仕掛けていくことにした。

 ところが、苦情を受けた愛知県警が摘発に向かったところ、松井の会社から大量の「宝永石ミネラル」が発見された。松井は、詐欺容疑はもとより薬事法違反容疑でも再逮捕されたが、「自分も被害者だ」と訴えた。

「元はと言えば、久郷博士のセミナーに出席し、騙されたのがきっかけだった。みのもんたの『おもいッきりテレビ』(日本テレビ系)に出ている映像などを見せられて、頭から信じ込んでしまった。私を摘発するなら、その人たちも摘発してほしい」

 警察は松井が読んだという本をもとに久郷のことも調べたが、全く架空の人物であることが分かった。だが、久郷による著書は150冊を超えていることも判明。数カ月に1冊のペースで本を出版し、その都度セミナーを開いては特定の健康食品を売りさばく。しばらくすると、連絡先は音信不通になり、また別の本を出版する。

 連中が巧妙なのは、実在するかどうかもはっきりしない“体験者の声”を大量に載せ、「自分たちが言っているわけではない」という体裁を整えていることだ。あとは著者の架空の経歴に騙され、自ら引っかかってくるカモを待つのである。

 人倫にもとる行為だが、明らかな健康被害が出ていないため、詐欺集団は摘発されていない。特定の健康食品の盲信には注意が必要だろう。

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