佐賀県公安委、遺族聴取せず結論 主婦暴行死、県警対応調査要請に

佐賀県公安委、遺族聴取せず結論 主婦暴行死、県警対応調査要請に

佐賀県警本部=佐賀市松原1で2019年02月26日、竹林静撮影

 福岡県太宰府市で2019年10月に主婦の高畑(こうはた)瑠美さん(当時36歳)が暴行を受け死亡した事件に絡み、事件前に被害届を受理しなかった佐賀県警の対応について、遺族から第三者を入れた調査を求められた県公安委員会(委員長・安永恵子弁護士)が、遺族から聞き取りをせずに結論を出し、回答も文書のみで直接説明していなかったことが、関係者への取材で判明した。県公安委は「県警の第三者的管理機関」として回答したと説明するが、専門家からは調査の手法などを巡り疑問の声が出ている。

 遺族は、事件から1年後の20年10月に県警が「適切に対応した」との内部調査結果を公表したため、21年1月13日、第三者委を設置して県警の対応を再調査するよう県公安委に要望書を提出し、同2月1日付の意見書も送付した。

 回答の文書は県公安委員長から遺族宛てで、同2月25日付。お悔やみの言葉の後に「有識者による第三者委での調査を要望されていたが、県警の第三者的管理機関である県公安委が回答することとした」と続き、県公安委が回答する立場にあるとの見解を示した。

 また、要望書提出前から事実関係や内部調査の報告などを県警から受けていたと説明。要望書と意見書の提出を受けて「改めて県警から対応状況を聴取した上で、内容の検討と議論を続けてきた」とするが、この間、県公安委が事情を聴いたのは県警のみで、遺族から話を聴く機会は設けられなかったという。

 文書はそのまま「その結果」と続き「県警が被害者の女性の生命身体に危険が及ぶと認識することや、親族の被害について直ちに事件化の判断に至ることは難しかったと考えられる」と従来の県警の主張を追認する結論を伝えている。遺族は意見書で、相談内容▽被害届の取り扱い▽相談簿の記録――などを巡り県警の主張との相違点を列挙していたが、県公安委の「回答について」と題したA4判1枚にはそれらを個別に検討した記述はなかった。

 県警の松下徹本部長は2月25日の就任記者会見で、県公安委が21年1月から8回議論したことを明かしたが「委員のみで議論した。詳細は差し控える」と話していた。また、松下本部長は3月、県公安委の提言を受けて相談簿の改正や複数人対応とするなど相談業務を見直すと発表した。

 毎日新聞の取材に遺族は「県公安委は意見書の内容をもって遺族の話を聴いたことにしているようだが、一度も委員に会っていない。第三者的というが、県警に偏った考えと思えて仕方がない」とコメントした。

 県公安委は、遺族から聴取せず、回答の説明もしていないことを認めたうえで「他の事件でも対面することはない。平等性を確保するため回答も文書で通知した」とした。【中里顕、山口響】

チェック機関の公安委、透明性確保を

 都道府県公安委員会には警察への苦情を市民が申し立てることができる制度があるが、強い執行力を持つ警察のチェック機関として役目を果たせているか。

 警察を管理する立場にある公安委の形骸化は過去にも指摘され、2000年の警察刷新に関する緊急提言では、警察本部長による監察が十分でないと認める場合は公安委が是正すべきであり、第三者機関的な監察点検機能を果たすことが重要だと求めている。

 5人もしくは3人(佐賀県は3人)の委員は、議会の同意を得て知事が任命する。5年以内に警察や検察の職務にあった人は任命できず、地元の弁護士や元公務員、財界出身者、有識者らが務めているケースが目立つ。その点では警察を管理する第三者的な立場にあるといえそうだ。

 しかし、今回の佐賀県公安委は、遺族から聞き取りをせずに結論を出し、回答もA4判1枚の文書のみだった。文書に詳細な議論の記述はなく、第三者的視点がどう生かされたのか見えないまま県警と同様の結論に至っていた。提言から20年が過ぎたが、近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「公安委は全国的に警察が事務を担っており、明確な第三者とは言えないのではないか」と手厳しい。

 警察寄りではなく、市民のための公安委として信頼を得るにはどうあるべきなのか。辻本教授は「市民から投げかけられた疑問に委員がどのような発言をしたか透明性を確保する必要がある。少なくとも遺族には議論の内容を丁寧に説明しなければいけない」と話している。【中里顕】

福岡県太宰府市で起きた主婦暴行死事件

 2019年10月に太宰府市で主婦の高畑(こうはた)瑠美さん(当時36歳)が遺体で見つかった事件で、福岡県警は同市の無職、山本美幸被告(42)らを逮捕した。高畑さんの家族は事件前に山本被告から高畑さんを引き離してほしいなどと佐賀県警鳥栖署に複数回相談したが、被害届は受理されず、事件化されなかった。傷害致死罪などに問われた山本被告は無罪を主張したが、1審・福岡地裁(21年3月)で懲役22年の判決を受け、控訴している。

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