「私のエロは私が決める」 “自撮り熟女”マキエマキさんが作品集にこめた思い

「私のエロは私が決める」 “自撮り熟女”マキエマキさんが作品集にこめた思い

カメラを向けると、自然とポーズが決まるマキエマキさん=中嶋真希撮影

 写真家のマキエマキさん(53)が、自らを「自撮り熟女」と名乗り、昭和を思わせる作風のセルフポートレートの撮影を続けている。芸術的でありながら笑える写真がSNSで話題を呼び、今年2月には大手出版社「集英社インターナショナル」から初の作品集「マキエマキ」が発売された。「私のエロは、私が決める」という彼女の作品には、どんな意味がこめられているのか――。【中嶋真希】

 赤いふんどしで海女にふんした写真や、ホタテのビキニを着て海岸で寝転ぶ写真。花柄のレトロな水着を着て海辺で跳びはねる作品は、まるで昭和の女優のようだ。「昭和のお父さんが大事に持っている水着姿のお母さんの写真がイメージ。私の父も、そうやって母の写真を持っていたから」とマキエさんは言う。

 「団地妻」「おくひだ旅情」などと書かれたピンク映画ポスターのようなシリーズもある。ポスターに書かれた監督の名前にも、遊び心。「『マッチ売りの熟女』という作品は、ハンス・マンデルセン監督なんですよ」。作品のあらすじを考えてから撮影するこだわりようだ。

 商業カメラマンとして風景を撮ることが多かったマキエさんが自撮りを始めたのは2015年。マキエさん自身が構図を決め、シャッターを切るが、撮影は夫と二人三脚。ホタテビキニで横たわる作品は、夫が同じポーズをとって入念にリハーサルした。ピンク映画のポスター風の作品は、デザイナーの夫が題字を入れて作り上げる。「もっとこうしたら」「衣装はそっちのほうがいい」と、アドバイスもくれる。これまで青森から広島まで、2人で日本中を回って撮影してきた。マキエさんがのびのびと表現ができるのは、「夫の存在が大きい。砂が水を吸い込むように私のことを受け入れてくれる」と話す。

 作品について、意図を探ろうとする人たちを「ごちゃごちゃ考えるようなものは作っていない。『バカだなあ』『アホちゃうか』って見てもらえるのが一番うれしい」とマキエさんは笑い飛ばす。熱烈に支持する男性ファンも多いが、その下心を見透かす。「私の作品をアートだと認めることがインテリの仲間入りというような意識を持っていて、『これをアートとして見られないなんて、知性が足りねえんだ』と思っているのかも。おれが見ているのはエロじゃない、アートなんだって」

「マキエマキ」は1日にしてならず

 10代のころは、高校の先生を主役にした舞台を演出して学校中を楽しませた。卒業後、その延長線上で劇団に入ったが、すぐにやめた。「高尚な芸術論を語る劇団員たちが、飲むのはコップ酒。寺山修司がどうのこうのと言う前に、ちゃんと生活しろと思って」。趣味の登山を生かして山岳写真が撮りたいと、コンパニオンで稼いだお金で23歳になってから写真学校へ進んだ。

 写真学校を卒業してからは仕事に追われて、「作品を撮ろう」とは思わなかった。「アシスタント時代は給料もほとんど出ないから、フィルム代がもったいなくて仕事以外ではカメラは持ちたくなかった。写真で生活できるようになるまでは、余裕がなかったですね」。おもしろいものを撮りたいと思うようになったのは30代半ばを過ぎてから。取材で訪れたコペンハーゲンでエロティカミュージアムの作品を撮ったり、「エロおもしろいもの」を撮りためるようになった。

 15年1月、エロスをテーマにしたグループ展に出展したことが転機になった。展示会場のバーで、セーラー服を着て集まる飲み会が企画された。当時、マキエさんは49歳。コスプレ用の安いセーラー服を着たら、「脚がきれい」とほめられた。うれしくて、セーラー服を着て自撮りを始めた。自分がモデルなら、肖像権のことも考えずに気軽にできるのもよかった。

 セーラー服を着て新潟市にある「ドカベン像」におしりをたたかれる写真や、雪山でホタテビキニを着た写真が、数々のアングラ作家を発掘してきた写真家で編集者の都築響一さんの目に留まり、16年春に都築さんのネット番組に出演。18年春に、女性が性を表現するアートコンテスト「東京女子エロ画祭」でグランプリを受賞すると、一気にファンが増えた。作品が広がれば広がるほど、商業カメラマンとしての手堅い仕事は切られてしまい、経済的には大きな打撃になった。それでも、もっと撮りたいという思いにブレーキがかかることはなかった。

 その活躍を目にしたのが、元小学館の名物編集者で、矢沢永吉さんの「成りあがり」や、「日本国憲法」をヒットさせた島本脩二さんだ。女性のヌードといえば荒木経惟さんら男性写真家の作品が有名だったが、マキエさんの写真を見て「アラーキーはいらない。自分でやればいいんだ」と衝撃を受けたという。「昭和のエロがテーマだから、平成が終わる前に写真集を出したい」と島本さんが提案した。マキエさんは「アダルト系出版社ならわかるけど、大手出版社から写真集を出したいといわれて『大丈夫?』と思った」という。

「性的対象として見られることがいやだった」

 マキエさんは若いころ、「女に生まれてきたことが呪わしい」と思っていた。男性からつきまとわれ、性的対象として見られることが嫌だった。カメラマンとして独立すると、今度は「女に写真が撮れるの?」と言われた。

 50代になった今だからこそ、男性の欲望を笑い飛ばし、女性であることを楽しめるようになった。今もマキエさんのSNSには、一部の男性ファンから卑わいなメッセージやコメントが連日届く。マキエさんはひるまずに、「無教養な人ですね」と返信する。

 女性からの支持も厚い。「マキエさんの写真を見て、年をとることが怖くなくなった」と話すのは、ダンサーやアートモデルなどで活躍するウズメゆきこさん(23)。「内面から出る美しさを感じる。男性ファンからセクハラを受けても、負けない姿勢も尊敬している」

 時には、メッセージ性の強いフェミニズムアートとして見られたり、“女性の救世主”と言われることもあるが、「勇気をもらったと言われることはうれしい。でも、そんなつもりじゃない。単なるおもしろいオバハンなんで」とマキエさんは笑う。

 作品集を出してからも、古い銭湯で撮影したりと、変わらず新作の発表に精を出している。次の目標は、パリで撮影、展示をすること。「エッフェル塔の前でホタテビキニを着たいですね。おもしろがってくれると思う。ニューヨークのタイムズスクエアもいいかも」。自撮り熟女は今日もフルスピードで走り抜ける。

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 19日まで東京ドームシティ内ギャラリーアーモで開かれている「櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展」でマキエさんの写真が展示されているほか、個展「マキエマキ@空想ピンク映画ポスター展4」が六本木スペース「ビリオン」で6月20日〜23日に開かれる。入場料500円。21日午後7時半からは、マキエさんと島本さんのギャラリートークもある。前売り1500円、当日2000円。展示入場料含む。申し込みは、https://makiemaki0621.peatix.com

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