10万円、受け取れない? 住民票ない路上生活者 自治体も対応に苦慮

10万円、受け取れない? 住民票ない路上生活者 自治体も対応に苦慮

都の事業が休止され、唯一の収入源を失ったという男性(左手前)。奥は男性や支援団体からの要望を聞く都職員=東京都新宿区で2020年5月1日午後1時54分、斎藤文太郎撮影

 新型コロナウイルスの流行で政府が全国民に10万円を配ると決めたが、受け取れないのではないか――。特別定額給付金を巡り、路上生活者の間でそんな不安が広がっている。対象は住民登録のある人だが、長く路上生活を続ける中で住民票がどこにあるか分からなかったり、居住が不明で市区町村の職権で抹消されたりした人もいるためだ。日雇いの仕事も減り、生活の困窮ぶりは深まっている。

 「所持金はもうない。本当に困った」。東京都台東区内の公園で暮らす男性(65)は日銭を稼ぐ唯一の手段だった都の事業が休止され、収入源を失った。政府の給付金に望みを託していたが、路上生活が長年にわたるため住民票がない可能性が高い。住まいを確保すれば改めて住民登録はできるが、手持ち資金がないため難しい。国は路上生活者対策として住居機能があり緊急的に住民票を置くことができる自立支援センターの活用を促しているが、近くに入れそうなセンターはない。

 北海道出身。中学卒業後に建築関係の仕事に就いた。複数の会社を渡り歩き、社員寮付きの会社を辞めた10年以上前に道内で路上生活者になった。5年ほど前に仕事を求めて都内に移った。しかし、年齢もあって思ったほど民間の仕事を受けられず、都が日雇い労働者向けに実施する「特別就労対策事業」で得る月3万円前後の稼ぎが唯一の収入になった。公園などの清掃を都が民間に発注し、労働者は受注企業に雇われ、8000円前後の日当を得る仕組み。求人に比べ求職者が多いため仕事は輪番制で、男性が現場に出るのは月3〜4回だった。

 都は4月以降、求職者の集合場所や現場までのバスが「密」になるなどの理由でこの事業を休止。男性は、体調が悪い日や風雨が強い日だけ利用してきた簡易宿泊所やネットカフェも使えなくなった。炊き出しに通いつつ、即席のラーメンやうどんを自分で買って食べるというささやかな楽しみも失った。「やむを得ないとも思うが、都は日雇い労働者のことなんてどうでもいいと考えているように感じる」と憤る。

 区の担当者は「一時的な資金として社会福祉協議会による貸し付けを利用してもらうことも可能」とするが、男性は「要は借金。仕事がない中で返せるはずがない」と諦め顔だ。生活保護にも拒否反応がある。「体が動くうちは働きたい」との思いに加え、扶養できるかどうかの確認のため区役所から家族に連絡されるのも避けたいという。

 「八方塞がりという感じ。これまでもその日暮らしだったけど、今まで以上にお先真っ暗です」。今は支援団体の炊き出しを頼りに命をつないでいる。

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 一律10万円給付は国の事業だが、実務は市区町村が担う。路上生活者に対して、どのように給付するか。自治体も頭を悩ませる。

 都の2019年夏の調査によると、都内の路上生活者は少なくとも1037人。一方、国が住民票を置く場所として例示する自立支援センターは都内に4カ所あり総定員は約400人。運営する特別区人事・厚生事務組合によると、満床に近い施設が多く、受け入れ可能人数には限りがある。荒川区にも建設中だが完成は7月の予定だ。

 5月8日の新聞各紙には、10万円給付に関する路上生活者の手続きについて「できる限り早く、今お住まいの市区町村に申し出てください」とする政府広報が載った。しかし、台東区の山谷地区に暮らす路上生活者や支援団体がこの日、区役所で給付方法を尋ねると、担当者は口ごもった。「住民登録があれば給付対象になる、という通知しか来ていない。特別な対応が可能かどうかは何とも言えない」。区は近く、職員がチラシを路上生活者に配って住民登録を促す方針という。

 山谷地区を台東区とともに管轄する荒川区の担当職員は「路上生活者を漏らさず把握するのは難しい」と明かす。少なくとも約100人の路上生活者がいるとされる新宿区の担当職員は「住民票がどこにあるかの確認も含め、個別的な対応が必要。どうしたらよいか、庁内で調整する」としている。

 生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事は「重複での給付を避けるため、住民票によらない給付金の手続きは現実的には難しい」と指摘した上で、「新型コロナは災害と同じ。行政は路上生活者も住民登録しやすいよう、災害時の仮設住宅のように大規模な住宅提供を行うべきだ」と話している。【斎藤文太郎】

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