新型コロナで苦境に立たされる東日本大震災の伝承活動 「風化の一途をたどるばかり」

新型コロナで苦境に立たされる東日本大震災の伝承活動 「風化の一途をたどるばかり」

今年2月、津波が襲った海岸を案内する「富岡町3・11を語る会」代表で語り部の青木淑子さん=福島県富岡町仏浜で2020年2月17日、乾達撮影

 東日本大震災の伝承活動が苦境に立たされている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、震災の伝承に取り組む広域連携団体が3〜4月、30の団体・個人にアンケートをしたところ、予約されていたツアーなどのキャンセル数は計302件(9235人)に上った。中には、感染拡大のあおりで活動休止に追い込まれた団体・個人もあった。震災発生から来年3月11日でちょうど10年。関係者からは「震災は風化の一途をたどるばかり」「復興した街の姿を見てほしかった」との声が上がった。【小鍜冶孝志】

 アンケートは、震災の伝承活動をする団体、個人で構成する「3・11メモリアルネットワーク」(宮城県石巻市)が実施した。3月24日〜4月7日にウェブで回答を募り、岩手、宮城、福島県を中心に活動する計30の団体・個人が答えた。

 活動状況に関する設問では、活動の規模や回数を縮小したという回答が最多の37%で、受け付け停止や施設休館などにより活動していないという回答が27%で続いた。一方、普段通りに活動しているとの回答は23%だった。3月のツアーや語り部活動などを前年と比較すると、8割近くの団体・個人で参加者が半分以下に落ち込んでいた。

 自由記述欄には、こんな回答が寄せられた。「収束時期が見通せず、行事の企画・開催ができない」「民間の伝承活動は再開の判断が難しい」「事業収入が得られず、経済的に困っている」。ネットワークの事務局は「予約のキャンセルは長期に及び、新規の申し込みもない。活動継続が困難な状況に陥っている」と話している。

語り部も「無念」

 「どうしようもないが、見通しは全く立たない」。石巻市などで語り部ツアーを実施する一般社団法人「防災プロジェクト」(東松島市)の代表理事、中井政義さん(55)は悔しさをにじませる。

 「防災プロジェクト」では毎年3〜11月ごろツアーを実施し、これまで1万4000人超が参加した。助成金を利用せず、ツアーや講演による収益で資金を賄ってきた。しかし、新型コロナの影響によるキャンセルは20件以上。冬季になると参加者が少なくなる。中井さんは「今すぐ収束しても人は来ない。今年度の活動は事実上終わりです」と話す。

 福島県富岡町で、被災の教訓を伝える語り部グループ「富岡町3・11を語る会」は3〜5月、約420人のキャンセルがあった。代表の青木淑子さん(72)によると、例年この時期、1000人を超える参加者が訪れるが、今年は6月まで予約が一切ない。東京電力福島第1原発事故で全町避難を余儀なくされた富岡町も避難指示が徐々に解除され、3月には町を通るJR常磐線が9年ぶりに全線で運転を再開した。青木さんは「復興した姿を現地で見てほしかった。この状況では、別の伝承の形も考えなければ」と考えている。

オンラインを活用

 一方、オンラインでの活動を模索する動きもある。岩手県では感染者が確認されていないが、同県釜石市の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」では4月21日〜5月13日、感染拡大防止のため休館した。休館中はテレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を利用したオンラインガイドを実施した。担当者は「現地に来られない人でも、震災学習ができるよう配慮した」と語る。

 アンケートの作成に携わった東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔・准教授は「震災10年の節目を前に、解散を迫られる団体・個人も出てくる」と危惧。ツアーや語り部活動などは各地の観光業とも密接につながると指摘し「一時給付金の検討など、一般企業のように行政による財政面の支援が必要だ」と提言する。

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