観光復興、何としても 豪雨にコロナ追い打ち 球磨川下り「来年再開を」 熊本

観光復興、何としても 豪雨にコロナ追い打ち 球磨川下り「来年再開を」 熊本

豪雨で下流に流され、損壊した船を見つめる「球磨川くだり」の中川知洋営業部長=熊本県人吉市で2020年7月15日午後5時36分、塩月由香撮影

養殖施設損壊、アユにも打撃

 手こぎ船の川下りに、30センチを超える「尺アユ」。球磨川の恩恵に支えられた熊本県南部の観光業は、7月の豪雨による球磨川氾濫で深刻な打撃を受けた。球磨川下りに使われるすべての船が流され発船場も損壊したため、年内の川下りの再開は絶望的。新型コロナウイルスの感染拡大も追い打ちをかける。【塩月由香】

 「船の待合所に球磨川からの濁流がガラス戸を破って流れ込み、中はめちゃくちゃ。発船場の駐車場に上げるなどしていた12隻の船もすべて流され、1隻は4、5キロ下流の民家のガレージに突っ込んでいた。乗客や船を運ぶ車両10台も水没してしまった」。人吉市などの第三セクター「球磨川くだり」営業部長の中川知洋さん(54)が視線を向ける駐車場には、破損した船が山積みになっていた。

 急流で船頭が巧みにさおを操る球磨川下りは100年以上の歴史があり、年間数万人の客を集める。近年は客が減少傾向だったが、2019年1月、熊本県上天草市でイルカウオッチングなどを営む民間会社から三セクに社長を迎え、経営をてこ入れ。JR九州の人気観光列車を手がける水戸岡鋭治さんがデザインし、座席を船底でなくベンチにするなどした新船も数百万円かけて導入した。

 少人数客にも対応するなど利便性も向上させ、収益が上向き始めたタイミングで新型コロナの感染が広がった。今年4月中旬から5月下旬まで休業。再開後、「Go Toキャンペーン」を見据えて観光バス業者などの予約が入り始めていたところで、今度は豪雨に見舞われた。

 被害の大きさに一時は再建も危ぶまれたが、被災事業者の支援を拡充する補助制度の創設を受けて8月上旬、発船場の2階に仮設事務所を設けた。「再開目標は来年のゴールデンウイーク。人吉のシンボルで熊本の宝である川下りを守りたい」と中川さんは気を張る。一方で「街全体が復旧しないとお客さんが来られない」と新型コロナの影響もあり不安はつきない。

 球磨川支流の清流・川辺川などでは釣り客や宿泊客に人気のアユのシーズンを豪雨が直撃した。アユやヤマメなどが死んだり、養殖施設が損壊したりしたことによる被害額は県内で約2億4000万円(県調べ)。相良(さがら)村のアユ養殖業者、生駒浩一さん(58)は、川辺川沿いの湧き水で養殖するアユ約40万匹の半分ほどが流された。「被害に遭ったのはシーズンに向け大きく育てた出荷直前のもの。元々新型コロナの影響で卸先の旅館や物産館も人が来ず売り上げは前年に比べ3分の1以下だった」と肩を落とす。

 徐々に養殖設備の復旧を進めているが悩ましいのがやはり新型コロナだ。「(得意先の)人吉の旅館もいつ復旧するか分からない。九州内の料理屋にも卸していたが、新型コロナで軒並みだめ。被災前と同じ生産量に戻して売り先があるのか、先の見通しが全く立たず頭が痛い」。天然・養殖アユを販売する市内業者によると、川に土砂が流れ込むなど環境が変わったためか不漁で釣り客の足も遠のいている。

 人吉商工会議所によると、旅館など人吉市内935商工業者の豪雨被害額は8月末現在で273億円に上る。人吉市と芦北町の主要47宿泊施設中、8月末時点で営業を再開したのは県の調べで5施設に過ぎない。

 16年の熊本地震では旅費を助成する国の「九州ふっこう割」などで、同年7〜12月に81万人が県内で宿泊し復興に弾みがついた。だが今回の災害にはコロナ禍も重なり、県観光物産課は「インバウンドや県外客も期待できず厳しい。当面は物産の販路開拓などのための県独自の再興補助金で観光業者の収益確保を支援していく」としている。

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