伝説のシンガー、森田童子と「孤独」 作家・朱川湊人さんに聞く

伝説のシンガー、森田童子と「孤独」 作家・朱川湊人さんに聞く

21日に開かれる無観客配信イベント「夜想忌3〜ぼくたちの失敗〜森田童子三回忌」のチラシ

 伝説のシンガー・ソングライター、森田童子。1983年に活動を停止し、2018年に死が伝えられたが、その強烈な個性と歌に影響された人は少なくない。21日に開かれる無観客配信イベント「夜想忌3〜ぼくたちの失敗〜森田童子三回忌」のトークに出演する作家、朱川湊人さんは、森田童子の世界観をイメージした短編小説を書き下ろし、イベントではその小説をもとにした高橋伴明監督のオリジナル映画「夜想忌」が上映される。朱川さんに、森田童子への思いと「孤独」について聞いた。

 −−森田童子とのファーストコンタクトはいつでしたか

 ▼兄が2人いて2歳ずつ離れていて、四つ上の兄がフォークが好きで(吉田)拓郎や(井上)陽水を聴いていたので、僕も中学生の頃にはギターを弾いてました。

 ただ森田童子は存在こそは知っていたけれど、どういう歌を歌っているのか聴く機会がなかった。レンタルレコードもなく、レコードを買うか、せいぜいラジオ。でも、あまり森田童子がかかった記憶がないんです。レコードショップでジャケットを見たことはあったが、何をしている人かわからなかった。

 高校でフォークソング同好会に入り、森田童子が好きな先輩がいたけれど、そういう人に限って貸してくれたりしないんですね(笑い)。「男のくせに泣いてくれた」を歌っていましたね。

 本当に聞いたのは浪人時代、当時20代だった男の先生のところへ遊びに行って、車で移動していたら、カセットでかかったのが「マザー・スカイ」だったか。

 ちょっと言葉悪いですけど、あまりに暗い歌だったんで(笑い)ドン引いてしまって。特に一番印象に残ったのは「伝書鳩」。ショックを感じました。

 高校から大学にかけて、「ネクラとネアカ」というか、「暗いことはダメなことで、明るいことはいいことだ」といった風潮がちょっとあったんですね。

 当時さだまさしさんが好きで、大学生の時、さださん聞いてるよっていうと「軟弱だ」とか「暗い」とか言われました。ポップな曲がはやっていたので、ついていけない感じでした。

 昔は音源を手に入れるのはなかなか難しくて、ドラマ「高校教師」(93年)のおかげでCDが出て、あらためて買うことができ、その後に森田童子にハマったというか。

 高橋和巳(作家、「孤立無援の思想」を出版)とか、昔の人でないと知らないディテールがいっぱいあるじゃないですか(森田童子の「孤立無援の唄」の歌詞には「机の上の高橋和巳はおこった顔してさかさに見える」という部分がある)。あれを聴いた時に「古いけど、そんなに言うほど暗いだけじゃないなと」とよく思ったものです。

 −−私もですが、学生運動が終わった後に学生になった世代で、後々になって「森田童子の時代は学生運動の時代」と知るのですが……

 ▼だいたいそうですよね。アングラのような雰囲気がありました。

 −−活動を停止して30年以上。死してなお、森田童子がひきつけるものはなんでしょう

 ▼一口に言うのは難しいけれど、「男のくせに泣いてくれた」を挙げましたが、森田童子が代わりに泣いてくれていたところがある。人間はどうしても孤独なので、寂しくなった時などは、森田童子を聴くと、どんどん深みにはまりそうなものなのですが、むしろ、そのように歌ってくれた方が、自分の孤独が昇華される、というと言葉が大きいですが、泣いてスッキリする気持ちですね、言ってみれば。

 森田童子は自分と同じ部屋で歌ってくれているような気がするんです。時には泣いちゃうこともあるかもしれないけれど、泣いたらまた元気出せばいいと。森田童子はそう言っているわけではないけれど、自分がそういう気持ちになりましたね

 −−暗い時には明るい歌を聴けば元気になる、というのもわかりますが、ちょっと落ち込んだ時に森田童子の曲を聴きたくなることもあると思います。当時も今も、森田童子のような歌を歌う人はほとんどいません。いないからこそ、森田童子に「こだわる」人が今もいるのではないか、とも思ったりするのですが……

 ▼森田童子と同じとは言えないけれど、かなり近しいところが、中村中(あたる)さんだと思うんです。初期アルバムなど、恨みの歌、怨歌(えんか)が多いけれど、それがちょっと似ているかもしれません。

 今の人たちは、やることがいっぱいありすぎて、考える時間がない。特に、自分一人でものを考えることもできないぐらい忙しくて、仕事ばかりじゃなくて、SNSを見たりテレビを見たり、やたら忙しくて、結局、自分の中を全然耕していない、いじっていない人が多いんですよ。

 ちょっと手前みそのことを言いますと、今の若い人に限らず、一定の人が本を読まない時代になっています。

 それは、自分を耕さないことなので、結局その時の脊髄(せきずい)反射しかできなくなっているわけです。

 だからこそ、今みたいに、区別しかしない、すぐケンカばっかりする、ケンカをして、正しい正しくないは別にして、相手を黙らせれば気が済む、という、僕から言わせると、さもしい連中ばっかりになっちゃったなというか、もう少し頭使った方がいいぞって思うことがたびたびありますね

 −−もう1点、「孤独」という言葉は、先生の作品も森田童子の作品にもテーマにあります。「孤独」についてのお考えをお聞かせください。

 ▼人間死ぬ時はみな一人じゃないですか。基本的に人間は孤独なものなんです。家族がいても、ましてや奥さんや子供がいても、どこかで混ざり合えないところってあるんですよ。

 その混ざり合えないところが、悪いことのように感じる人が多いけれども、孤独は結構大事なんです。

 人間が成長するのって、夜のバスに一人で乗っているときだと思うんです。窓の外をじっと見ていると、どうしてもいろいろ考えちゃうじゃないですか。そういう時、人間って成長するんだと思うんです。うっかりスマホで音楽とか聴いていたら成長できないんですね(笑い)。

 僕の息子はもう20代ですが、ランドセルを買いに行った時、「ともだち100人できるかな」って歌っているんですね。100人も友達いらないと思うんですね(笑い)。仲のいい友達が4、5人もいれば上等だよって思うんですけど。仲良くすることが最上である、という言い方をされていて、でも仲良くできない人も中にはいるわけです。ましてや、何かの事情があって、その中に入れてもらえない人もいる。僕自身、若い頃から思っていました。

 孤独も、いいところもあれば、悪いところもあります。そういうときこそ、森田童子のような、すごく近い感じの人の曲を聴くと、支えられるというか、森田童子が代わりに泣いてくれているので、自分はとりあえず、すぐさま死のうとか考えない、みたいな人はいると思うし、そうあってほしいと思うんです。

 今だって、SNSですごくかわいい顔を撮ってインスタに載っけている女の子がいるでしょう。大変だよなと思います。

 一人でいるほうが楽しいし気楽なところが多いんですよ、やっぱり。それを悪いことだとはあまり思いません。死ぬギリギリまで幸福だったら、孤独でも、一人でも、全然いいんじゃないかなと思います。

 −−孤独という言葉が、イメージも内容も広がっているというか、もっと孤独について考えたほうが、よりよい人生になると思うし、そこで森田童子が手助けになるのかわかりませんが、そこに曲があったら、考えるのにいいかもしれませんね。それを森田童子が望んでいたかどうかはわかりませんが

 ▼パッと言うと、暗い歌とまとめられてしまうのかもしれませんが、人間には暗くて悲しい歌も必要なんですよ。そこから極端な方向にいっちゃまずいんですが、そこで泣いて、また立ち上がることができる人が多いんですよ。森田童子が代わりに泣いてくれて、泣かしてくれたので、今はとりあえず、早く寝ると(笑い)。きょうはこの歌聴いて終わりにして、あしたまた頑張る、でいいじゃないですかって、僕は思うんですけど。

しゅかわ・みなと

 1963年、大阪生まれ。慶応大文学部卒。2005年「花まんま」で直木賞を受賞。著書に「かたみ歌」「満月ケチャップライス」など。

           ◇

 無観客配信イベント「夜想忌3〜ぼくたちの失敗〜森田童子三回忌」は21日午後2時45分から。 映画「夜想忌」上映、トーク(高橋伴明、朱川湊人、佐伯日菜子、宇乃徹)、アコースティック・ライブなど。3800円。アーカイブ視聴は12月5日まで。詳しくは「森田童子 夜想忌」(https://yasoki.net/)。【油井雅和】

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