騒音、相次ぐトラブル…米軍空域「マグナム」上空ルポ 密室交渉で昨年拡大

騒音、相次ぐトラブル…米軍空域「マグナム」上空ルポ 密室交渉で昨年拡大

米軍空域 日米は密室で交渉

騒音、相次ぐトラブル…米軍空域「マグナム」上空ルポ 密室交渉で昨年拡大

2019年6月から拡大した米軍の臨時訓練空域が広がる岩手県北部の沿岸部=岩手県野田村で2020年11月7日、本社機「希望」から後藤由耶撮影

 青森県沿岸部に広がる米軍の臨時訓練空域が2019年6月に拡大されていたことが毎日新聞の取材で判明した。空域は威力のある弾丸や拳銃を意味する「マグナム」と呼ばれる。その面積は約1万平方キロにわたり、東京23区の17個分に相当する広大なものだ。どんな空域なのか。上空からルポした。【大場弘行、松本惇】

 11月の晴れた朝、記者を乗せた小型ジェット機が東京・羽田空港を飛び立った。1時間ほど北上すると、操縦士が高度を下げながら声を張りあげた。「雲を抜けると普代村です!」

 小窓から見下ろすと、太平洋に面した岩手県普代村が視界に入る。マグナム空域はこの村から青森県北部までの沿岸部上空などにわたって帯のように延びている。昨年、この帯の北側と南側がそれぞれ拡大された。その面積だけで東京23区の約3倍に相当する。南側では、普代村を含む岩手県北部に面した南北45キロにわたって空域が広がった。

 この日はマグナム空域が設定されなかったためエリア内を飛行できる。小窓から目を落とすと、コンブが特産という普代村の漁港には小舟が浮かんでいた。訓練のある日は、こののどかな海の上を米軍機がごう音を立てて飛び交うのだろうか。

「貸し借りのようなもの」

 拡大前の空域は13年に設定され、青森県沿岸部にほぼ限られていた。日米両政府は19年6月に拡大した経緯を明らかにしていないものの、その約5カ月前には首都圏上空を覆う米軍管理の「横田空域」を巡る別の日米協議がまとまっていた。民間機が横田空域を通過する時に米側に引き渡している管制を、日本側が継続して担当できるように米側が認める内容だった。これにより日本は羽田空港に至る新たな飛行ルートを確保し、東京オリンピックに向けた増便を実現できた。

 政府関係者への取材や開示された公文書によれば、菅義偉首相の側近とされる和泉洋人首相補佐官も交渉にかかわっていた。訓練空域の拡大は横田空域の管制権を返してもらう見返りだったのではないか――。真相を知ろうと和泉氏に経緯などを文書で尋ねたものの、「相手側との信頼関係を損ねるおそれがあることからお答えを差し控える」と具体的な説明はなかった。

 日米の交渉は密室で行われ、内容は公表されない。横田管制の協議とマグナム空域の拡大について、ある政府関係者は毎日新聞の取材に「貸し借りのようなもの」と独特な表現で説明している。

学校近くに模擬弾落下も

 記者を乗せた飛行機はさらに北上して青森県に入る。巨大な滑走路が見えてきた。戦闘機が並んでいる。米軍三沢基地だ。

 マグナム空域が必要とされるのは、この基地があるためだ。ロシアや北朝鮮ににらみをきかせ、日本の安全保障にも重要な意味をもつ一方、東北防衛局によると青森県は東北6県の中で航空機騒音の苦情が突出して多い。飛行訓練中のトラブルも相次いでいる。

 基地の北にはシジミ漁が盛んな小川原湖が広がる。18年、この湖にF16戦闘機が燃料タンクを投棄して漁が一時全面禁止になった。その翌年には、F16戦闘機が同県六ケ所村の民間牧草地に誤って重さ約230キロの模擬弾を落下させた。現場のすぐ近くに小学校があるのが見える。一歩間違えば大惨事だった。落下地点から北に約10キロの場所には使用済み核燃料の再処理工場もある。機上から危険と隣り合わせの地元住民の不安を思わざるを得なかった。

 小型機は下北半島の先端にたどり着いた。白亜の灯台が見える。観光スポットで有名な尻屋崎だ。マグナム空域はここから北に約20キロの太平洋上空にも広がっている。ここが新たに拡大されたもう一つのエリアだ。拡大後は、札幌から東京などに向かう民間機が従来のルートを事実上使えなくなり、迂回(うかい)を強いられるなどの影響も出ているという。

 終戦から75年たつ今も、米軍の管理下にある日本の領空は数多くある。マグナム空域はその一例に過ぎない。下北半島の先に広がる空は青く澄みわたっていた。その美しさに、やるせなさがこみあげてきた。

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