森禮子さんの小説「五島崩れ」を舞台化 長崎・五島のキリシタン弾圧描く

森禮子さんの小説「五島崩れ」を舞台化 長崎・五島のキリシタン弾圧描く

舞台「五島崩れ」の稽古をする主人公役の春日遥香さん(左から2人目)ら=福岡市中央区で、矢頭智剛撮影

 福岡市出身の芥川賞作家、森禮子(れいこ)さん(1928〜2014年)が長崎・五島列島でのキリシタン弾圧を描いた小説「五島崩れ」が12月13日、博多座(同市博多区)で舞台化される。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が昨年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されたのを機に、市民ら有志が企画。森さんの晩年にも一度舞台化の話があり、作者も楽しみにしていたが幻に終わった経緯があっただけに、関係者は「森さんとの約束を果たす」と意気込む。

 明治の初めに五島列島で潜伏キリシタンが次々に拷問に遭い処刑された史実を指す「五島崩れ」は、1868年に久賀島(ひさかじま)の小さな集落で始まった。捕らえられた信者約200人が、わずか12畳ほどの牢屋(ろうや)に押し込められた「牢屋の窄(さこ)」事件。密集した状態で信者たちの体はせり上がり、飢えと責め苦で42人が殉教した。クリスチャンでもある森さんは1972年に初めて五島列島を訪れ、8年後、名著「五島崩れ」を世に送り出した。

 森さんの小説を基にした舞台「五島崩れ〜椿(つばき)の島のアヴェ・マリア〜」は、久賀島で生まれ育った潜伏キリシタンのミツが主人公。不慮の事故で婚約者を亡くし信仰を失いかけたミツは、隣の福江島で奉行所の役人に見初められる。素性を隠し、弾圧する側の武家に嫁いだミツだが、古里の島で家族らが投獄されたのを知り帰郷する――という物語だ。

 「信じられない。こんな狭い場所に200人も閉じ込められたなんて」。ミツ役を演じる春日遥香さんは今年9月、久賀島に今も残る牢屋跡の前に立ち息をのんだ。物語の背景を知ってより良い舞台にしようと、他の出演者ら4人で島を訪れたのだった。

 前回舞台化の話が出たのは森さんが亡くなる3年前の2011年。当時のメンバーの一人、舟越節(たかし)さん(88)=福岡市城南区=によると、舟越さんたちが舞台化のあいさつに行くと、森さんは「ありがたい」と喜んだという。その後、森さんからは「芸どころ博多で実現していただきたい」と書いた手紙も届いた。財政的な問題などで最終的に流れたが、世界遺産登録を機に、当時のメンバーを中心に「今度こそ」という声が上がった。

 9年越しで実現した舞台には福岡を中心に活動する役者の他、オーディションで選ばれた演技経験がない市民も出演する。ミツ役の春日さんは福岡市を拠点に活躍するダンサーだが、芝居は初めてだ。「弾圧の厳しさを実感し、こんな悲劇が歴史上あったことを伝えなくてはいけないと思った」。春日さんは島で受けた衝撃を胸に、本番に向け稽古(けいこ)に励む。

 脚本と演出を担当する田中はくどうさん(68)は「時の政府はクリスチャンを弾圧したが、今も世界中で人の尊厳が損なわれるようなことが起きている。人間の尊厳とは何かを問いたい」と舞台化の意義を語る。

 公演は午後1時半と6時半の2回。A席5500円、B席3500円(いずれも前売り)で、ローソンチケットなどで購入できる。問い合わせは「森禮子さんの小説『五島崩れ』を舞台化する会」(092・752・8880)。【山崎あずさ】

森禮子さん

 旧制福岡高等女学校を卒業後、図書館勤務などを経て同人誌「九州文学」に参加。1956年に上京し、同人誌「文芸首都」で小説、戯曲を発表した。80年に「モッキングバードのいる町」で第82回芥川賞受賞。2004年に福岡市に戻った後も執筆を続け、九州のキリシタン史跡の探訪記などを刊行。「五島崩れ」(80年)は絶版になっていたが、舞台化を機に今年10月、里文出版(東京)から新装版が復刊された。

関連記事(外部サイト)