ママが人生を諦めず生きられる社会に 医療的ケア児の母が写真展

 日常的に医療的ケアが必要な子(医ケア児)の母で東京都府中市の写真家、山本美里さん(41)が、学校での親の付き添いをテーマにした写真展「透明人間―Invisible Mom―」を26日から港区南青山3の「林和美写真画廊」で開く。主に子どもの付き添いで感じた疑問や違和感などを自分の姿の写真などで表現している。介護や育児などの主な担い手とされる母親の普遍的な訴えでもあり、山本さんは「どんな子でも当たり前に学校に通え、母親も人生を諦めずに生きられる社会になることを願っています」と話す。【首都圏取材班/賀川智子】

看護師がいても日中の付き添いが求められ

 医療的ケア児をめぐっては今年6月に親の負担を減らすため学校に看護師などを置くことを自治体に求める支援法が成立した。ただ、一部のケア行為は保護者しかできなかったり、看護師がいても学校の要請で、付き添いが求められたりする。全国の医ケア児約2万人のうち公立特別支援学校に約6300人が通学しているが、付き添いしている保護者は460人いる(2018年度、文部科学省調べ)。

 山本さんの4人きょうだいの次男、瑞樹さん(13)は都内の特別支援学校中学部1年で、生まれつき脳や体に重度の障害があり、歩いたり話したりができない。気管切開をして1時間に2〜3回のたんの吸引や経管栄養の注入などをするほか、脳の疾患が原因で呼吸が不規則になることがある。そのため、日中は常に誰かが同じ部屋にいてケアをしなければならない。

「気配を消してください」と言われ

 山本さんの付き添いは、瑞樹さんが特別支援学校小学部に入学した2015年4月に始まった。呼吸介助で使う手動の人工呼吸器「アンビューバッグ」が学校の医療的ケアとして認められておらず、万一それによる介助が必要になった際に保護者が対応する必要があるためだ。瑞樹さんの出産以前はフルタイムで雑貨店の仕入れの仕事をし、復帰を考えていたが、諦めざるをえなかった。

 週1日のデイサービスを除く週4日の朝9時半から午後3時半ごろまでの6時間、最初の3年間は教室内で、その後も校舎内で待機を求められた。自分が体調を崩しても病院にも行けず、学校からは「お母さんは必要な時以外は気配を消してください」と言われ、理不尽さも感じた。やがて「いつか何かの形でこの思いを表現できないか」と考えるようになったという。

 以前から写真に興味があった山本さんは、17年に京都芸術大学の通信の写真コースに入学した。付き添いの空き時間に校内を撮影しようと考えたが、担当教授から「あなた自身にフォーカスを当てた方が見えてくるものがあるのでは」とアドバイスされた。そして、以前から抱いていた思いを表現しようと、学校と交渉して撮影許可をもらった。

学校との信頼関係の大切さ

 「自分の身の上に起きたことをそのまま撮影しては悲壮感が漂う」。撮影では瞬間を切り取るのではなく、あらかじめ構図を決めて三脚にカメラをセットし、スマートフォンでタイマー設定してシャッターを切った。そして、撮影を進めるうち、「どうして長時間の待機が必要なの」という個人の不満がやがて「どうして育児や介護は全部お母さんがやらないといけないの」という、多くの母親が抱える普遍的な悩みにもつながっていった。そして写真が「子どもへの医療的ケアの関係者だけでなく、幅広い人たちにも共感してもらえるのでは」とも思えてきた。

 撮影には思わぬ副産物もあった。教員たちと接する時間が増え、規定に従わないといけない学校現場の葛藤も理解できるようになってきたという。その後、担任らの働きかけや理解もあって、今年5月から、瑞樹さんは週5日付き添いなしで通学している。

 「規則だからできないと決めつけるのではなく、やれる範囲でできることを話し合うなどお互いの信頼関係が大事だと感じました」

 展覧会では校内で撮影した8枚をパネル展示し、写真集も販売する予定だ。山本さんは「医ケア児の付き添いの現実を知らない人や、特別支援学校の先生にもぜひ見てもらい、保護者の思いを知ってもらえれば」と話す。

 28日まで、12〜19時(最終日は18時まで)。

関連記事(外部サイト)