来月89歳仲代達矢が挑む気迫の「左の腕」 ワケありの男、熱く演じ

来月89歳仲代達矢が挑む気迫の「左の腕」 ワケありの男、熱く演じ

俳優の仲代達矢さん=東京都世田谷区の「無名塾」で2017年7月10日、手塚耕一郎撮影

 すさまじい気迫が伝わってくる。そして客席も熱い。無名塾を率い、来月で89歳になる仲代達矢が、役者生活70周年記念作品として舞台「左の腕」をゆかりの能登演劇堂(石川県七尾市)からスタートさせた。全国87ステージのロングラン公演。緩急の利いた芝居でワケありの男を演じている。新型コロナウイルスの感染対策を徹底し緊張が続く。「どうにか頑張りたい」との言葉に万感がこもる。【濱田元子】

第一線を疾走 役者生活70年記念

 1952年、19歳で俳優座養成所に4期生として入った。舞台では師・千田是也のもとで頭角を現し、映像では小林正樹や黒澤明ら名だたる巨匠の作品で大役を担ってきた。無名塾では若い俳優を育てながら、第一線を疾走してきた70年だ。

 今回の「左の腕」は、2019〜20年の無名塾公演「ぺてん師 タルチュフ」(モリエール作)以来で、原作は松本清張の時代短編小説。前進座の中村翫右衛門が演じ、受け継がれてきたことで知られる。今回は仲代と岡山矢が上演台本・演出を手掛ける。

 舞台は江戸・深川の料理屋「松葉屋」。肉体的にきつい、あめ細工売りをしていた卯助(仲代)は、娘おあき(円地晶子)とともに料理人の銀次(進藤健太郎)の計らいにより松葉屋で働くことになり、窮状を救われる。父娘共々、律義で働き者とあって店での評判もいい。だが、タチの悪い目明し・稲荷の麻吉(長森雅人)が、卯助の左腕に巻かれた白い布に目を留め、執拗(しつよう)につけ狙う。

 背筋がピンと伸びた仲代の立ち姿は、年齢をまったく感じさせない。声にはハリがあり、せりふ回しは調子がいい。娘や店のおかみのお千代(西山知佐)らとのやりとりは、好々爺(こうこうや)然として愛嬌(あいきょう)がある。それだけに、背負った過去の陰とのコントラスト濃く浮かび、「おい、稲荷の」という一言にもすごみがある。ラスト近くの棒を手にした立ち回りでは、眼光鋭く切れ味もある。

 カーテンコールでは舞台奥の扉が開き、紅葉した木々とかがり火という絵のような光景が広がる。能登ならではの醍醐味(だいごみ)といえよう。

「不寛容」の時代に危機感

 「肝っ玉おっ母と子供たち」(ブレヒト作)では、反戦への思いを込め、「タルチュフ」は権力者への皮肉をたっぷり利かせた。常に演劇と時代とのかかわりを考えてきた仲代である。なぜいま「左の腕」なのか。

 公演パンフレットには、過去を背負う卯助と社会とのかかわりに触れ、「不寛容」がはびこる時代への危機感を記す。「何よりも怖れるのは、『不寛容』が常に戦争に道を開いて来たという事実である」

 戦争体験者だからこその思いであろう。卯助と周囲の人々を通し、現代社会に深い問いを投げかけてもいる。

 能登演劇堂では28日まで。その後、近畿や九州を回り、来年3月5〜13日の東京・シアター1010での公演を経て、4月の名古屋で締めくくる。

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