駅まるごとアート 9日間、ペンで描いた異世界 読字障害の作家

駅まるごとアート 9日間、ペンで描いた異世界 読字障害の作家

弘南鉄道田舎館駅の作品の中に立つGOMAさん=青森県田舎館村で2021年12月19日、江沢雄志撮影

 青森県田舎館村にある弘南鉄道の田舎館駅。足を踏み入れると古い外観からは想像できない「異世界」に引きずり込まれる。天井には大きな目玉。独特のタッチで描かれた花や生き物、ビル……。床以外の全てに黒い線でビッシリと描き込まれ、息をのむ力強さだ。

 作品は同県平川市の現代アート作家、GOMAさん(35)がコロナ禍の地元の人たちを励まそうと2020年春に手がけた。「すごい迫力で出来上がってから自分でも驚いた」と笑う。この制作を機に各地から依頼を受けるようになった。人を元気にする――。そんなアートの力を信じ、創作活動を続けている。

 GOMAさんは、読み書きに困難が伴う発達障害の一つディスレクシア(読字障害)を抱え、印刷された文字が図形に見える。絵を描く時は下書きはせず、「頭に浮かんだイメージを右手が勝手に描き上げる」のだという。短大卒業後、3年間の保育士生活を経て秋田公立美術工芸短大(秋田市)に入学。デザインを学ぶなどし、卒業後すぐに独立した。

 最初は仕事が入らなかったが、転機は29歳の時に訪れた。パリで日本文化を紹介する博覧会に参加し、来場客らに頼まれて100人を超える人たちを犬や猫などのキャラクターにデフォルメして会場の壁にペンで描き上げた。周囲から歓声が上がり、「世界で勝負できる」と感じた。

 帰国後はライブペインティングを中心に活動を重ねた。仕事が増え、個展も開催するなど順調に進み始めていた。新型コロナウイルスの感染が広がったのはそんな矢先のことだった。20年3月、イベントや講演会の予定が全て中止になった。

 アーティストとしてどうすべきか――。思い出したのが駅をまるごとアートにする構想だった。以前、弘南鉄道に持ちかけたことがあった。「コロナ禍の地元を活気づけたい」。同社に改めて相談したところ、田舎館駅での制作を提案された。

 駅舎内を白いペンキで塗り9日間、黒の油性ペンで描き続けた。同年5月、完成した作品をツイッターなどに投稿すると瞬く間に拡散し、テレビや新聞でも取り上げられた。「見たい人が来たい時に来て楽しむ。そういう場所を作りたかった」

 コロナ禍とは裏腹に制作の依頼は増え、「今の仕事のほとんどが田舎館駅のアートをきっかけにきている」という。水族館のウォールアート、カラオケ店の内装……。どの依頼にも共通しているのが、感染が収まればたくさんの人に訪れてほしいという思いだ。

 「僕のアートはペンと紙があれば人を楽しませられる。その時代に求められるものを作っていきたい」。いつかいろんな場所に描いた自分の作品を多くの人が見に来られる日が来ることを祈っている。【江沢雄志】

GOMAさん

 1986年、青森県弘前市生まれ。秋田市の秋田公立美術工芸短大で学び、ペンによる作品のほかスプレーアートや立体造形など幅広く手がける。ディスレクシア(読字障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)があり、同じ障害を持つ子どもたちにアートの楽しさを知ってもらい、個性や才能に気付くきっかけを作ろうと特別支援学校などでアートのワークショップを行う活動を続けている。

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