いじめで自殺した娘 学校側「責任ない」 遺族、後悔と憤りの5年

いじめで自殺した娘 学校側「責任ない」 遺族、後悔と憤りの5年

亡くなった瑞菜さんの遺影を見る両親=北九州市小倉北区で2022年4月9日午後3時31分、平塚雄太撮影

 「あの時、ハグしてあげれば……」。母親は涙で声を詰まらせた。「学校から謝罪は一切無い。ここまでバカにされるいわれはない」。父親は怒りで声を震わせた。無料通信アプリ「LINE(ライン)」に、学校でのいじめをうかがわせる書き込みを残した16歳の娘が、自ら命を絶ってから5年。その心の内を、両親が明かした。

 北九州市の私立高2年で、当時16歳だった瑞菜(みずな)さん。2017年4月17日の通学途中、「私に何かあったらAとBとC(いずれも同級生の名前)のせい」などと記したラインを友人に送信し、自殺した。

 「チャイムが鳴ると同時に、みんな瑞菜を置いて走り出すとか。同級生から後で聞くと、ひどいことをされていた」。瑞菜さんの母親(45)が明かす。瑞菜さんからは「友達から仲間外れにされている」と悩みを打ち明けられていたが「『そんな友達とは離れたら』という話をしたが、クラスも少なく難しかったのだと思う。そこまで長引くとは思わなかった」と悔やむ。

 「いじめが自殺の原因とその時から分かっていた。最初は生徒が謝りに来てくれればそれでいい、と学校には話した」。父親(45)も振り返る。だが学校側は、いじめをうかがわせるラインの存在を知りながらも、瑞菜さんが亡くなってから1カ月もたたずに「トラブルはあったが、いじめはない」と両親に伝えてきた。いじめたとされる生徒も「カウンセリングを受けている」として、学校側は謝罪しに行かせることを拒否した。納得できない両親は学校に調査を要望したが、学校側の動きは鈍かった。

 両親が学校側への不信を募らせる中、学校は同年5月、両親に事前連絡をしないまま、保護者会を緊急で開催しようとする。直前に聞きつけた父親が出席したが、学校側はここでも「いじめはなかった」と説明した。瑞菜さんが仲間外れにされていた実態を父親が訴えると、保護者たちから「いじめでは」と疑問の声が上がり、学校側は調査の実施に追い込まれる。なぜ自分たちを呼ばなかったのか、と父親が当時の教頭に問いただすと「連絡を忘れていた」と答えたという。

 そんな両親を救ってくれたのは、瑞菜さんの同級生たちだった。「瑞菜はいじめられていた」などと打ち明けてくれたほか、保護者会の開催を事前に知らせてくれたのも同級生だった。同級生たちの証言もあって学校は同年7月に第三者委員会を設置し、ようやく重い腰を上げる。

 翌18年6月、第三者委の報告がまとまる。「いじめはあった」とした一方、瑞菜さんの自殺の原因は部活動の人間関係などと判断。初めて学校側が「いじめ」の存在を認める格好となったが、それ以上の説明は「法的義務は果たした」と両親にすることはなかった。納得できない両親は福岡県の再調査委員会に再調査を申し立てたが、再調査委は19年8月、いじめの存在を認めながらも、自殺の主な原因とは判断しなかった。

 司法の判断を仰ごうと、両親は20年11月、学校管理下の事故などに災害共済金を給付する独立行政法人「日本スポーツ振興センター」に対し、死亡見舞金2800万円の給付を求めて福岡地裁に提訴。判決が下されたのは、そこから更に1年後の21年11月だった。

 判決によると、瑞菜さんは16年11月ごろから約半年間、仲の良かった同級生4人からうそをつかれたり、仲間外れにされたりしていた。自殺直前の17年3〜4月には、4人が瑞菜さんを除いて終業式の記念撮影をし、昼食をとるなどしていた。これらの行為について地裁は「いじめ」と認定、自殺は「いじめが主な原因」として見舞金の支払いを命じた。センター側は控訴せず、21年12月に判決が確定したが、既に約4年8カ月の歳月が過ぎていた。

 「結論が出るまで長すぎた」。父親がため息をつく。両親は学校側に改めて見解をただしたが、学校側は今回の訴訟が同センターを相手取ったものとして「本校は今回の判決に全く関与していない」と説明。瑞菜さんにではなく「生徒間」にいじめがあったとして「今後の生徒指導に反映させていきたい。再発防止に努める」としながらも、両親に「説明の機会を別途、設けることはない」と答えてきた。

 学校側によると、今回の事案を受け、毎学期に個人面談や定期的なアンケート、スクールカウンセラーによる個別面談などを実施。外部委員も交えた、いじめ防止対策委員会も定期的に開催しているという。学校側は毎日新聞の取材に、瑞菜さんの自殺について「真摯(しんし)に受け止め、再発防止策を実施している」としつつ、判決については「訴訟手続きに全く関与していないので、見解は差し控える」と回答。福岡県の再調査委員会が報告書で学校側の責任を否定しているとして「判決に、当校の責任に関する記載は一切存在しない」との見解を示した。

 瑞菜さんが自殺した当時も、学校はいじめの実態把握に向けたアンケートを既に実施していた。父親は「責任逃れを続ける学校が、いじめ防止なんて到底できない」と断言。「学校からの謝罪は一切無い。ここまでバカにされる必要はないと思う」と語気を強め「いじめがあったという判決が出ても、学校が『訴訟は関係ない』として全く遺族と向き合っていない。学校はしっかり向き合ってほしい」と力を込める。

 瑞菜さんの死を防げなかったことに、父親は「『少しの気付き』ができなかった責任は親にある」と今でも自分を責める。母親は瑞菜さんを最後に見送った、あの日の朝のことを悔やむ。「あの時、ちょっとハグしてあげれば。部活の道具を持っていなかったことに気付いてあげれば……」。母親が声を落とした。

いじめ複雑化「透明化」で把握困難

 学校での「いじめ」が多様化する中、保護者や学校側がいじめの実態を把握しにくい状況が生まれている。瑞菜さんが自殺した事案でも暴力などはなく、同級生らによる長期間の仲間外れが、いじめとして認められた。専門家は「いじめの『透明化』が進んでいる」と警鐘を鳴らす。

 文部科学省によると、2020年度に全国の小中高校と特別支援学校で認知されたいじめは約51万件。新型コロナウイルス禍で対面の機会が減ったが、15年度(約22万件)の倍以上と高止まりが続く。いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」も20年度は514件と、15年度の314件と比べると依然高水準にある。

 一方、いじめの実態は複雑化している。文科省がまとめた全国の学校などからの報告によると、高校でのいじめの態様(複数回答)で最多となったのは「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」の61・0%。次いで「パソコンや携帯電話等でひぼう・中傷、嫌なことをされる」が19・8%、「仲間外れ、集団による無視」が15・4%と続く。「たたかれたり、蹴られたりする」という身体的ないじめは11・1%と比較的少ない。

尾木直樹さん「SNS分析丁寧に」

 瑞菜さんの訴訟で原告代理人を務めた迫田登紀子弁護士は、今回のケースのように仲間内で無視されるのは「現代型いじめだ」と指摘する。教育評論家の尾木直樹さんは瑞菜さんのように、いじめの実態が大人から分かりにくくなっているケースを「いじめの透明化」と呼ぶ。瑞菜さんは「LINE(ライン)」にいじめをうかがわせる書き込みを残しており、尾木さんは「だからこそラインの分析を丁寧にする必要があり、亡くなった命をしっかり受け止めることが大事だ」と訴える。【平塚雄太】

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・児童相談所虐待対応ダイヤル

189=年中無休、24時間。

・24時間子供SOSダイヤル

0120-0-78310=年中無休、24時間。

・子どもの人権110番

0120-007-110=平日午前8時半〜午後5時15分。

・チャイルドライン

0120-99-7777=午後4〜9時(対象は18歳まで)、12月29日〜1月3日は休み。

https://childline.or.jp/

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