歩く速度に軽度認知障害の予兆が表れることを示した研究

皆さんはどんなときに「年を取ったな…」と、感じますか? 夜更かしがつらいと感じるとき、運動した二日後になって筋肉痛が出たとき、それとも買い物にきたのに何を買うんだったか思い出せないときでしょうか? 年をとるにつれて、誰でも大なり小なり体力や記憶力の衰えを感じるものです。でも、「若い頃に比べてずいぶん歩くのが遅くなった…」と感じているのでしたら、少し注意が必要かもしれません。

今回は、歩行速度と軽度認知障害との関係について調べた論文をご紹介します。

アメリカのオレゴン健康科学大学の研究グループは、動きが鈍くなることと認知機能低下との関係について調査を行いました。調査に参加したのは健康な65歳以上の204人です。被験者には毎年、健康チェックや認知機能のテスト、そして歩行速度の測定を行ってもらいました。歩行速度は、9メートルほどの距離を歩いて往復するのにかかる時間を測るというものです。またその他にも、10秒間の間に人差し指で何回ボタンを押せるかを測定しました。平均して9年にわたる追跡調査が行われました。

軽度認知障害(MCI)は、軽度の記憶障害はあるものの、一般的な認知機能には問題がなく、日常の生活に支障がない状態です。認知症の一歩手前の状態とされ、軽度認知障害になると高い確率で認知症になることがわかっています。

追跡調査期間中に軽度認知障害と診断された人は95人でした。軽度認知障害と診断されたグループと健康なグループでは、調査開始時の歩行速度に有意な差はありませんでした。どちらのグループも年を経るごとに歩く速さは遅くなりましたが、毎年の歩行速度の変化を両グループで比べたところ、軽度認知障害のグループのほうが健康なグループよりも、毎年0.01メートル/秒遅いことがわかりました。

また、歩行速度の低下は軽度認知障害と診断されるどれくらい以前から表れるのかを調べたところ、平均して約12年前ごろからその兆候が表れることがわかりました。性別に分けると、女性では診断の約6年前から毎年0.025メートル/秒ずつ歩行速度が低下していました。男性では約14年前から毎年0.023メートル/秒ずつ低下していました。

ボタンを使ったテストでも、10秒間にボタンを押す回数は毎年減る傾向にありました。そして、軽度認知障害のグループのほうが健康なグループよりも、回数の低下が著しいことがわかりました。

以上の結果から、歩くことや指の動きなどの衰えは、後に軽度認知障害の診断を受けるグループのほうが早く表れ、またその兆候は約10年も前から表れることがわかりました。

「歩く」という行為は、注意力や実行機能、また視覚で空間をとらえる機能など複合した能力を必要とします。これらの機能それぞれは、脳のいくつかの領域で処理されています。歩くためにはこれらの異なる脳の領域がうまく連動している必要があり、歩く速度の低下はこれらの脳の機能の低下と密接に関わっていると考えられます。そのため、歩行速度の変化は認知機能の変化を表す指標になるといえます。

しかし、脳のどのような変化によって、動きが鈍くなるのかについて明らかになっているわけではありません。今後、歩行速度と認知機能との関係がより詳細に明らかになれば、早期に認知症の予兆をとらえる指標となると期待されます。

▼ご紹介した論文
The trajectory of gait speed preceding MCI
Teresa Buracchio et al., Arch Neurol. 2010 Aug; 67(8): 980?986.
doi: 10.1001/archneurol.2010.159

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