山口先生コラム「やさしい家族信託」第5回:大変、お母さんが認知症!?「遺産」が使えなくならないように、元気なお父さんに今すぐしてもらいたいこと

山口先生コラム「やさしい家族信託」第5回:大変、お母さんが認知症!?「遺産」が使えなくならないように、元気なお父さんに今すぐしてもらいたいこと

山口先生コラム「やさしい家族信託」第5回:大変、お母さんが認知症!?「遺産」が使えなくならないように、元気なお父さんに今すぐしてもらいたいこと

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万?になると?われています。認知症になると資産は凍結され、?分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から?切な資産を守るために注?される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


我が国の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.26歳。

女性の方が長寿だからでしょうか、男は仕事、女は家庭との役割分担の名残でしょうか、男性が将来介護を希望する相手は「配偶者」、女性の場合、ヘルパーなど介護サービスの「プロ」が最も多いという結果がでています。(平成30年高齢者白書)

B子さんのお母さんは、77歳。B子さんの家から車で10分のところに、お父さんと2人で住んでいます。

専業主婦でお料理と編み物が得意だったお母さんは、1年前、アルツハイマー型認知症と診断されました。

両親のお金はほとんどがお父さん名義。そのため、財産が凍結することはなく、お父さん名義のお金を使い、お母さんはしっかり介護サービスが受けられます。

デイサービスを利用し、ヘルパーさんなどと協力しながら、お父さんと2人で今まで通りの暮らしを続けています。お父さんも、生活費のやりくりだけでなく、料理や洗濯もするようになり、B子さんも驚くくらいの腕前になっています。

ところが、ある日、お父さんから「風邪をひいて寝ている。」と電話がありました。慌てて実家に戻ってみると、お父さんの熱は既に下がっていて「ちょっと疲れが出ただけ」と言っていました。

しかし、B子さんは、このまま万が一お父さんがお母さんより先に他界してしまったらどうなるのか心配になってきました。

どなたかが他界すると「相続」が発生します。そして、故人が残した財産は、遺言があれば遺言のとおりに、遺言がなければ相続人全員で話し合い(遺産分割協議)をして分けることになります。(民法907、908条)

B子さんのお父さんが、お母さんより先に他界した場合は、B子さんとお母さんの「遺産分割協議」でお父さんの遺産を引き継ぐということになります。

B子さんのお母さんは既に認知症。そのため「遺産分割協議」ができず、折角お父さんが残した遺産を引き継いで使うことができません。

それならば、お父さんが「遺言書」を残してくれていた場合はどうでしょう?

この場合、お父さんの遺産は、「遺言書」の通りにお母さんへ引き継がれます。しかし、既にお母さんは認知症。引き継がれた遺産をお母さんが自分で管理し、使うことができません。

・銀行でのお金の引き出し、支払いや振込、定期預金の解約
・株や投資信託、外貨預金の売却や換金
・不動産の売却、修繕、リフォーム、賃貸、管理
・介護や医療、施設の費用などの支払い

このような場合に効果を発揮するのが「家族信託」です。

「家族信託」は、自分の生きている間の財産の管理だけでなく、自分が他界した後の財産の管理を、2段階で定めておくことができる画期的な制度です。

お父さんとB子さんとの間で「家族信託」の契約をしておくことで、B子さんは、お父さんが元気な間はお父さんのために、他界したあとは、お母さんのために、お父さんから信託された財産を使うことができるのです。

≪信託契約の内容≫
委託者(財産を託する人):お父さん
受託者(財産を託される人): B子さん
受益者(信託の利益を得る人):@お父さん Aお父さんが他界したらお母さん
信託財産(預ける財産):@自宅 Aお父さん名義の3000万円
信託の目的:@お父さんとお母さんの安心な老後の生活を実現すること
受託者の権限:実家の管理、売却、売却代金の管理とお父さんとお母さんの生活・介護・医療費の支払い
信託終了時:お父さんとお母さんが他界したら終了する
      すべての財産を換金して、B子さんへ引き継ぐ

≪メリット≫
@お父さんの体調の変化や認知症になった後も、資産は凍結せず、B子さんが契約内容に従って財産を管理することができる
Aお父さんが他界した場合は、認知症のお母さんのために、お父さんが残した財産を使ってあげることができる
Bお父さんが他界し、お母さんの在宅介護が難しく施設へ入居することになり、実家が空き家になった場合、B子さんが実家を売却して介護費用に充てることができる
Cお父さんが他界した時に、実家の名義をいったんお母さん名義に変更する(相続登記)費用が節約できる
DB子さんは、お父さんの資産を預かっているだけなので、「贈与税」がかかることはない
Eお父さんから信託された財産と、B子さんの個人の財産は「分別して」管理ができるため、お父さん他界後のお母さんのことを安心して任せてもらえる
Fお父さんが他界しても、お父さんの遺産をお母さんのために使えることがわかり、B子さんも安心して生活を送れるようになる

B子さんのように、お母さんが既に認知症である場合でも、財産の名義人であるお父さんが元気なら、「家族信託」を使うことができます。

お父さんに、「自分が先に他界した時は、財産を認知症のお母さんのために使うこと」を託しておいてもらうことで、B子さんは、お父さんが他界した後も安心してお母さんの介護を続けることができるのです。

超長寿社会の日本において、親のどちらかが他界した場合に、片方が既に認知症ということもよくあることです。このような場合でも、両親が2人で築いた遺産が凍結することなく、両親どちらも天国へいくまでしっかり使える仕組みを整えておくことが大切です。

お母さんが認知症になってしまったときは、お父さんと今すぐ「家族信託」を検討されることをオススメします。


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
出典 厚生労働省「平成29年簡易生命表」
出典 内閣府「平成30年高齢者白書」

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