山口先生コラム「やさしい家族信託」第7回:お父さんが免許証を自主返納したときが「家族信託」のススメ時

山口先生コラム「やさしい家族信託」第7回:お父さんが免許証を自主返納したときが「家族信託」のススメ時

山口先生コラム「やさしい家族信託」第7回:お父さんが免許証を自主返納したときが「家族信託」のススメ時

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万?になると?われています。認知症になると資産は凍結され、?分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から?切な資産を守るために注?される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


高齢ドライバーによる交通事故のニュースが、テレビや新聞で頻繁に取り上げられています。

警察庁によると、75歳以上高齢ドライバーの事故発生件数は、75歳未満の運転者と比較して、2倍以上。平成29年3月12日には、道路交通法が改正され、75歳以上の方が免許を更新するときに「認知機能検査」が実施されることになりました。

また、運転免許の自主返納の制度もスタートし、「運転経歴証明書」が交付されたり、各都道府県での特典も充実してきています。(警察庁「運転免許の自主返納制度について」)

しかし、運転免許を返納してしまうと、今後一切運転ができなくなるので「さみしい気がする」とか「もったいない」とか「それは困る」などの理由で返納まで踏み込めない方も多いようです。

B子さんは、今年、48歳。実家の近くに夫と高校生の子ども2人と4人暮らし。子どもたちのお弁当を作ってからパートに行くのが日課です。子どもの手も離れ、ようやく自分の時間がもてると楽しみにしています。

しかし、最近、パート先での話題は「親の介護や認知症」のことばかり。

いろいろ調べていると、
・親が認知症になったら親の財産が凍結してしまう
・凍結した財産を使うには、裁判所に申立てをし、後見人をつけないといけない
・後見人は、費用がかかる
・親が認知症になる前なら「家族信託」という制度が使える
・家族信託なら、裁判所の関与はなく、家族が親の財産管理をしてあげることができる
ということが分かりました。

そうはいっても、B子さんの両親は、今年76歳と75歳。

夫婦2人で旅行が趣味。お父さんが自分で車を運転してドライブ旅行にも行っているようです。認知症は心配だが、まだまだ若いつもりの二人に「家族信託」なんてとても言い出せない・・・

そんな時、お父さんが「免許証を自主返納したぞ」と「運転経歴証明書」を見せにやってきたのです。

お父さんの話はこういうことでした。
・運転免許の更新で、「認知機能検査」を受けさせられた
・自分は「認知機能が低下しているおそれがない」という結果だった
・しかし、最近カーブをスムーズに曲がれないことや、歩行者、障害物、他の車に注意がいかないことがあるし、若いころとはちょっと違う
・自分で運転するより、バス旅行の方が気楽だし、孫たちも大きくなって、みんなで車で出かけるということもなくなった
・免許証を自主返納しても「運転経歴証明書」がもらえるので身分証明には困らない

お母さんも、「お父さんが自分で運転するより、バスや電車の旅行の方が気楽で楽しい」「自動車を廃車にしたら、税金や車検代がいらなくなり節約になる」と嬉しそうです。

そこで、B子さんは、今がチャンスと「認知症によるリスクには、交通事故以外にもお金の事故(詐欺被害や資産凍結リスク)があること」について両親に説明してみることにしました。

・銀行でのお金の引き出し、支払いや振込、定期預金の解約
・株や投資信託、外貨預金の売却や換金
・不動産の売却、修繕、リフォーム、賃貸、管理
・介護や医療、施設の費用などの支払い

ざっくりお金のチェックをしてると・・・

≪お父さんとお母さんのお金一覧≫
・自宅:お父さん名義。住宅ローンは完済している。お母さんと2人で住んでいる。どちらか一人になったら売却して施設に入りたいと思っている。★いざ売却したいと思った時に、認知症で凍結したら困る
・倉庫兼ガレージ:お父さんが仕事で使っていた倉庫。70歳で仕事を辞めた後もそのまま。片付いたらそのうち売却したらいいと思っている。★いざ売却したいと思った時に、認知症で凍結したら困る
・定期預金3000万円:いざというときのお金。★いざ解約したいと思った時に、認知症で凍結したら困る
・証券会社500万円:お父さんの趣味で株などの投資をしている。配当や株主優待券でお母さんと旅行に行っている。
・普通預金200万円:日々のやりくりに使っている。2か月に1回年金が入ってくるので残高はほとんど減らない。通帳もカードも、お母さんが持っていて、家計の管理をしている。

さらに、
・B子さんは、万が一、両親に何かあったとしても、できる限り二人のお世話をしたいと思っていること
・B子さんには、高校生の子どもが2人いるので、両親の資産が凍結して、介護に回せるお金がなくなるのが心配なこと
を伝えました。

そんなこんなで、父母娘3人の家族会議の結果、全財産を信託で預かるのではなく、いざという時に凍結したら困る資産をB子さんに家族信託しておくことにしました。

こうすることで、@お父さんの趣味の投資は今まで通り続けられ、Aお母さんは今まで通り、家計の管理ができ、旅行や買い物なども今まで通り行えます。

お父さんとお母さんの日常生活は変わらないまま、将来、介護費用が不足したら、自宅や倉庫を売却することもできるので、B子さんの不安も解消されるのです。

≪信託契約の内容≫
委託者(財産を託する人):お父さん
受託者(財産を託される人): B子さん
受益者(信託の利益を得る人):@お父さん Aお母さん
信託財産(預ける財産):@今住んでいる自宅 A倉庫 B定期預金3000万円のうち満期になった1000万円
信託の目的:@お父さんとお母さんの安心な老後の生活を実現すること
 受託者の権限:実家と倉庫の管理、売却、売却代金の管理、お父さんお母さんの生活・介護・医療費の支払い
信託終了時:お父さんとお母さんが他界したら終了する
      すべての財産を換金して、B子さんへ引き継ぐ

≪メリット≫
@お母さんは、今まで通り、お父さん名義の生活資金口座を管理できる
Aお父さんは、今まで通り、お父さん名義の証券会社口座を管理でき、株の売買も続けることができる
Bお父さんは気が済むまで倉庫の片付けができる
Cお父さんが倉庫の片付けに満足し、倉庫が不要になった場合は、B子さんが代わりに売却や賃貸管理ができるので空き家問題にならない
Dお父さんやお母さんが認知症になっても、信託財産は凍結しないので、生活費のやりくりに困らない
Eお父さんが他界し、お母さんが一人になった後も、B子さんが実家の管理や修繕をすることができ、ご近所に迷惑がかからない
Fお母さんに介護が必要になり施設に入ることになった場合、B子さんが実家を売却して介護費用に充てることができる
GB子さんは、お父さんの資産を預かっているだけなので、「贈与税」がかかることはない
H信託財産の信託終了時(両親2人とも他界した時)の扱いについてまで、契約で定めておけるため、両親が他界した時に資産が凍結して葬儀費用がだせずに困ったということがない
I両親とも他界した時に、実家や倉庫が残っていた場合、相続登記をしないで、B子さんが現金化できるため経費が節約できる

B子さんのように、親が認知症で判断能力が低下する前なら、「家族信託」を使うのか、それともこのまま何もしないのかを比較検討することができます。

「家族信託」は、まだ新しい制度のため、知らない人も多く、「医療や介護」「運転免許返納」など、心身の安全対策に比べて後回しにされることが多いです。

お金に関することは、家族で話題にしにくいのかもしれません。しかし、運転免許を返納すると、運転がすべてできなくなるのと違い、「家族信託」は、親の財産をすべて取り上げるという制度ではありません。

親が管理できる資産は親が管理し、管理しにくい資産や凍結しては困る資産についてのみ選んで信託することができるのです。子どもが親の全財産を管理してあげないとダメとなると、大変ですが、凍結したら困る資産だけを選んでスタートするなら簡単です。

そうすることで「万が一、親が認知症になってお金が下ろせなくなったらどうしよう・・・」「私に介護の費用が払えるかしら・・・」「後見人を付けないといけなくなったらどうしよう・・・」など、漠然とした不安から開放され、元気な両親の姿をやさしく見守ることができるようになります。

親の運転免許の自主返納を考えだしたら、「家族信託」でお金の安全についても検討をスタートしてはいかがでしょうか。


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
参考:平成29年交通安全白書 特集「高齢者に係る交通事故防止」
参考:政府広報オンライン「改正道路交通法の主なポイント」
参考:警察庁「認知機能検査について」

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