私たちはどう関わったら良いのだろう?〜『認知症の人を理解するために』

 「お父さんが、買い物に出かけたら、帰り道が分からなくなって、どうしちゃったのかしら?」「妻が料理を作るのに手際が悪くなったので受診したら、認知症との診断を受けた。」「まだ認知症の人は身近にはいないけど、どう関わったら良いの?」と認知症の人とどう関わったら良いのか、悩む方も多いと思います。

今回は、エスポアール出雲クリニック高橋幸男先生のご著書「認知症の人を理解するために」という論文をご紹介します。

認知症になりゆく経過には心理社会的な特徴(からくり)があります。「“からくり”を知ることで認知症の人の暮らしぶりや心の動きを知ることができるし、多くのBPSDの発現機序が理解しやすい」と述べられています。

『認知症の経過(心理社会的構造)“からくり”』

@認知症の人の多くは、中核症状の進行に不安を感じているが、軽度の段階でも言葉がタイミングよく話せなくなり、自発的に話すことが苦手になる。

Aコミュニケーションが取りにくくなると、“わからなくなった”と思われて、周囲からの温かい声がけが激減する。

B周囲の人とのつながりをなくしていくが、地域でも家族のなかでも孤立しやすく、やがて、強い不安のなかで、孤独で寂しく、寄る辺のない状態になる。

C“できなくなった”と思われて公私とも種々の役割を奪われ居場所を追われやすい。

D中核症状による不自由や失敗に対して、周囲から“しっかりして”と励ましや願望の“指摘”が続くが、認知症の人はそれを早期から「叱られている」と受け止める。

E日常的に叱られ続けることで尊厳を失い、限界に来たときにBPSDが発現する。急性ストレス反応であるが、BPSDは認知症の人の叫びである。

FBPSDが生じると、“指摘(叱責)”が強まり、BPSDをさらに悪化させ、結果的に家人も苦しめるという悪循環に陥る。家人も介護に疲れ果てうつ状態になりやすいが、家人がうつ状態になると入所や入院につながりやすいという報告も多い。虐待が生じるし、無理心中か介護殺人もこの文脈で発生する。


上記の“からくり”を知って、はまらないようにすることが大切です。その結果、BPSDの予防や軽減につながります。

具体的な方法として、
認知症の人:認知症は誰でもなり得るものであることを伝える。周囲の人に協力してもらいながら気軽に付き合っていくことを勧める。
家族など:認知症の人の不安やつらさを受け止める。感謝の言葉、さりげない会話を意識的に行う。例えば、昔の自慢や苦労などの話や、写真を一緒にみるなど寄り添う。

中核症状に対して、周囲の人たちの可能な限りの受け入れと、励まし、“指摘”を少なくすることで、BPSDは軽快し、認知症の人はおだやかになり、結果的に介護負担を軽減することになる。

中核症状とは、脳の萎縮や変性など脳の障害により起こります。認知症の場合、中核症状は必ず起こると言われています。中核症状とは、記憶障害、見当識障害、判断・理解障害などの症状です。

一方、BPSD(行動・心理症状)とは、全ての認知症の人に起こる訳ではなく、症状も人によって異なります。例えば、暴言、暴力、徘徊、多弁・多動、同じことを何度も言う、妄想、幻覚、不安、焦燥、睡眠不足などです。BPSDが起こる要因として、中核症状と本人が持ち合わせた性格や環境に起因すると言われています。

この“からくり”を知ることで、介護者も介助しやすくなります。「今までできたことができにくくなる」ことは中核症状による障害ですから、できなくなった部分を介助して、できる部分は任せましょう。そうすると、認知症があってもできることがあるという自信につながり、役割を担うことで尊厳を守ることにつながります。

例えば、料理を作ることが得意だった母親に、「包丁を持たせるのは危ないから」と言って料理をさせないのではなく、「野菜を洗ってくれる?」「味見してみて」などできることをしてもらいましょう。そうすると、本人も嬉しいですし、「よく作ってくれていたよね。やっぱりお母さんの味だわ。」など会話も弾むのではないでしょうか。

確かに任せることで失敗する場合や、時間がかかる場合もあります。介護者の人がやってしまったほうが早いし、失敗もありません。いつでも見守り、任せることも大切ですが、それが介護者のストレスを増大させることにつながる場合もあります。その場の状況に応じて、本人になってもらうか、介護者が行ったほうが良いかどうかを見極めましょう。

「認知症だから…」ではなく、「認知症があってもできる」ことを任せるところから始めてみてはいかがでしょうか。

出典:1)高橋幸男 認知症の人を理解するために 老年期認知症研究会誌,2019,22,14,p92-93

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