山口先生コラム「やさしい家族信託」第9回:40年ぶりの相続法改正。「家族信託」は、もういらない?!

山口先生コラム「やさしい家族信託」第9回:40年ぶりの相続法改正。「家族信託」は、もういらない?!

山口先生コラム「やさしい家族信託」第9回:40年ぶりの相続法改正。「家族信託」は、もういらない?!

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万?になると?われています。認知症になると資産は凍結され、?分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から?切な資産を守るために注?される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


民法には、どなたかが亡くなった場合に、その方が残した「遺産」が、誰に、どのように引き継がれるのかといった、基本的ルールが定められています。

これを、いわゆる「相続法」と呼んでいます。

この、私たちの暮らしと大きくかかわる「相続法」が2018年7月に40年ぶりに改正されました。

2019年1月から段階的に施行され、残された相続人がトラブルに巻き込まれないようになったとメディアでも取り上げられています。

40年ぶりの非常に多岐にわたる相続法改正。これさえあれば、「家族信託」は、もういらないのでしょうか?

前回、相続法が改正された1980年から40年で日本の社会構造は大きく変化しました。

日本人の平均寿命は、男性80.98年、女性87.14年。また65歳以上人口も全人口の27.7%と4人に1人が高齢者という割合になっています。

夫が他界した時に、残された妻が80代という「老老相続」が増加。残された高齢の妻の生活を守る必要が高まっています。

また、4人に1人が高齢者という社会において、誰が介護の負担を担うのかという問題や、ライフスタイルや家族の形の変化、そこからくる相続トラブルなどの問題に対応するため、40年ぶりに相続法が改正されたのです。

今回の改正は非常に多岐にわたりますが、大まかなものは下記のとおりです。

 改正点詳細施行日老々相続による残された配偶者の保護配偶者居住権の創設夫亡き後自宅で最後まで暮らしたい残された高齢の妻の不安を解消2020年4月1日施行婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置配偶者は、生前に贈与を受けた分を遺産分割で持ち戻さなくてよくなった2019年7月1日施行相続トラブルの回避貯金の払い戻し制度の創設父亡き後、他の相続人の印鑑をもらえなくても、当座のお金を引き出せる2019年7月1日施行特別寄与の制度の創設頑張ったお嫁さんにも取り分が!介護を頑張った人が報われる社会に2019年7月1日施行遺留分制度の見直し遺留分については金銭で精算。支払いの猶予も求められる2019年7月1日施行遺言の利用促自筆証書遺言の方式緩和財産目録がパソコンでOK書きやすくなりました2019年1月13日施行遺言の保管制度の創設自筆遺言書を見つけやすく!書いてもらったはずの遺言を迷子にしない2020年7月10日施行

今回の改正で、残された相続人を保護したり、トラブルを防ぐための様々な制度が創設されました。

しかし、この新たに認められた制度を使うにも、家族の話し合いが必要です。

相続法では、親が他界した後に、「誰に何をどう分けるか」ということを「遺言」で決めていない場合は、「相続人全員での話し合い(遺産分割協議)」が必要と定められています。

結局「相続人全員の話し合い」がまとまらなければ、裁判を申立て、裁判所で分け方を決めてもらうということになります。

改正相続法は、遺産分割協議がまとまらなかった場合に、残された高齢の妻をどう保護するか?介護を頑張った人の労にどう報いるか?の落としどころを図ろうとするもの。「改正相続法」があるから、安泰ということはないのです。

はたして、話し合いがまとまるのか?

家族間でごたごたするストレス、そもそも話し合いが出来ないかもしれない不安、家族の問題を裁判に持ち込まないといけない時間とお金の負担。そんな大変さを考えると、やはり、親が元気なうちに、家族で話し合うこと。

必要であれば「生前対策」をされることがオススメだという点に変わりがないのです。

さらに相続の現場でよくあるトラブルが「親の生前に何も面倒みなかった子どもが遺産だけはしっかりもらいに来る」というもの。

生前に親の介護や生活のサポートしてきた子どもが、親のお金を使い込んだのではないか?などと疑われ、大変な思いをされることがよくあります。

そこで、親の生前から死後までをしっかり見据えた対策ができる「家族信託」を取り入れる方が増えているのです。

花子さんの両親はもうすぐ80歳。花子さんの家から車で10分のところに住んでいます。

両親のお金はほとんどがお父さん名義。 今までは、お母さんが通帳を預かって、すべての家計の管理をしていました。しかし、最近は、物忘れもあり、お金の出し入れが不安になったと、花子さんを呼び出すことが多くなりました。

さらに、心配なのは離れて暮らす弟夫婦のこと。お父さんが先に死んだら、息子の嫁が財産を狙ってくるのではと気が気ではないようです。

花子さんも、近くに住んでいるのだから、出来る限り、両親のお世話をしてあげたいと思っています。しかし、お母さんが管理していたお父さんの通帳を預かって、弟からあらぬ疑いをかけられるのも困ります。

そこで、花子さんは、お父さんと「家族信託」をすることにしました。

≪信託契約の内容≫
委託者(財産を託する人):お父さん
受託者(財産を託される人):花子さん
受益者(信託の利益を得る人):@お父さん Aお父さんが他界したらお母さん
信託財産(預ける財産):@自宅 Aお父さん名義の3000万円
信託の目的:@お父さんとお母さんの安心な老後の生活を実現すること
受託者の権限:実家の管理、売却、売却代金の管理とお父さんとお母さんの生活・介護・医療費の支払い
信託終了時:お父さんとお母さんが他界したら終了する
      すべての財産を換金して、葬儀費用やもろもろの経費を刺しい引いて花子さんと弟へ引き継ぐ

≪メリット≫
@お母さんが管理していた「お父さんのお金」を、花子さんが変わりに管理してあげることができる
Aお父さんが認知症になった後も、資産は凍結せず、花子がお父さんとお母さんのためにお金を出し入れしてあげることができる
Bお父さんが他界した場合は、お母さんのために、お父さんが残した財産を使ってあげることができる
Cお父さんが他界し、お母さんの在宅介護が難しく施設へ入居することになり、実家が空き家になった場合、花子さんが実家を売却して介護費用に充てることができる
Dお父さんが他界した時に、実家の名義をいったんお母さん名義に変更する(相続登記)費用が節約できる
E花子さんは、お父さんの資産を預かっているだけなので、「贈与税」がかかることはない
Fお父さんから信託された財産と、花子さんの個人の財産は「分別して」管理ができるため、お父さん、お母さん、弟夫婦からも、安心して任せてもらえる
Gお父さんとお母さんが他界した後も、預貯金は凍結せず、「葬儀費用が出せずに困った」ということがない
Hお父さんとお母さんが他界した後は、花子さんが、すべての財産を換価して、経費を差し引いて弟と分けることができるので、弟夫婦との話し合いで揉めたらどうしようというストレスがない

「家族信託」は、親が生きている間の財産の管理だけでなく、他界した後の財産の管理を、2段階で定めておくことができる画期的な制度です。

お父さんと花子さんとの間で「家族信託」の契約をしておくことで、花子さんは、お父さんが元気な間はお父さんのために、お父さんが他界したあとは、お母さんのために使う。

お父さんもお母さんも他界した後は、葬儀費用などもろもろの経費を差し引いたうえで、弟と遺産を分けることができることになりました。

このことを弟夫婦に話したところ、「お父さんたちのことは気になっていた。花子さんにばかり任せてごめんね。」と言ってくれました。

花子さんは、弟夫婦が後から文句を言ってくることはないとわかり、安心してお父さんの財産を預かり、出し入れを管理してあげられるようになりました。

お母さんも、お父さんが他界した場合に、お父さんの遺産がすべてお母さんのものになる、管理は娘の花子さんがしてくれると分かり安心です。

少子高齢化の日本において、子ども達全員が平等にチカラを合わせて、親のサポートをするということは難しくなっています。このような場合に、介護の負担を担った子どもが、相続のトラブルでさらに負担を強いられるということのないよう、備えておくことが大切です。

相続法改正のニュースが気になったら、「家族信託」で、相続トラブルへの備えを検討されることをオススメします。


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
出典 厚生労働省「平成29年簡易生命表」
出典 内閣府「平成30年高齢者白書」
出典 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」

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