コロナ禍のマグロ初競り、木村社長“億”の手あるか

コロナ禍のマグロ初競り、木村社長“億”の手あるか

マグロ初競り一般見学は禁止

コロナ禍のマグロ初競り、木村社長“億”の手あるか

すしチェーン店「すしざんまい」でおなじみのポーズを決めるつきじ喜代村の木村清社長(撮影・滝沢徹郎)

<深掘りトレンド>

東京・豊洲(江東区)の東京中央卸売市場で、初競りが5日、行われる。海産物や青果、果物が全国から集結するが、例年通りクロマグロが注目だ。コロナ禍では初めての初競り。感染拡大防止の観点から一般見学者の立ち入りを禁止する厳戒態勢。また海の「異変」も指摘される中、どれくらいのご祝儀相場となるのだろう。今年もキーマンは、すしチェーン「すしざんまい」を展開するつきじ喜代村の木村清社長(68)になりそうだ。【寺沢卓】

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初競りのキーマンとなるのが、つきじ喜代村の木村社長だ。自らを「マグロ大王」と呼び、この10年で8回、最高値マグロを競り落としている。

マグロ大王に話を聞く前に、まず「高値のつくマグロ」とは何だろうか。

競り場では1キロを単位に値踏みが行われる。いわゆるこれが「キロ単価」だ。よく「一番マグロ」というが、その定義は「キロ単価で最高値をつけたマグロ」であって、1匹総重量のマグロの値段とは違うのだ。

競りにかけられるマグロは、尾が切断されている。これは断面から脂乗りを識別するため。マグロのプロは、断面からうまさを識別しているのだ。

マグロ大王こと木村社長に聞いてみた。1億円を超えるマグロを何度も落としているが、この初競りについてどう思っているのか。

木村社長 なんかね、競りをゲームと勘違いしている。

なぜ「ご祝儀相場」を超えて、億単位のマグロが出るのか。

木村社長 すべてはお客さんのため。いいマグロを食べてもらいたい。そしてできるだけ安くネ。

マグロ大王は、マグロを育てることにも目を向けている。

木村社長 漁師が釣ってきたものを待っているだけではダメ。そうだとすると、1月5日の初競りを待たないとマグロにはありつけないことになる。今、網で囲った中でマグロを育てています。場所はヨーロッパです。

スペイン、アイルランドにマグロの“放牧場”を所持していて、締めた上で飛行機に載せて、翌日には日本の店頭に並んでいるという。

木村社長 だから、初競りを待たなくても元日からおすしでおいしいマグロを食べられるんです。あっはっはっは。

ならば、市場で高額な競りなんぞ必要ないのではないでしょうか?

木村社長 (とはいえ)天然のマグロはワクワクするよね。1月5日の初競りでどんなマグロが並ぶのか、とても楽しみです。

今年、条件は不利だ。200キロ前後の大きな国産のクロマグロがいないかもしれない。それでも子どものように「ワクワク」しながら、マグロの仲買人は競り場に足を向ける。長靴の床をこする「キユッキュ」という摩擦音がさらに緊張の糸をピンと張る。あと2日、今年はどんなマグロに対面できるのか。

ちなみにマグロ大王の「勝負長靴」は、幸せを呼ぶ黄色の特注品だ。

実は、正月恒例のクロマグロが、今年は苦戦をしている。豊洲市場に出入りする築地のマグロ専門の仲卸に聞くと「11月下旬まで海水温が高くて、津軽海峡に魚が入って来ないらしい。12月になって寒気が差し込んで、こりゃいいぞ、と思ったら海が荒れてシケばかりで船すら出られない。どうなっちまうのかね」と、ボヤいた。

青森・大間漁港でもその異変に当惑していた。同漁協では昨年12月28日に「海が悪いようだね。まったくマグロがあがらなくて、昨日(12月27日)にようやく30キロ台が2匹。初競りギリギリまで漁は続けるけれど、どうなることやら」と話していた。

2019年の一番マグロは、1匹総額で3億3360万円の最高値を記録した。このマグロは初競り前日の1月4日、大間漁港の船が釣り上げていた。釣ってすぐにトラックに載せられ、初競りギリギリに豊洲市場に到着していた。クロマグロ漁は最後の最後まで、気が抜けないのだ。

そんなマグロたちが並ぶ舞台の豊洲市場。そういえば、新型コロナウイルスの陽性者が多く発見されていたんじゃなかったか?

一時期は、豊洲市場に出入りする仲買人から「豊洲がクラスターになってもうどうにもならない」「高速道路で近いから魚市場機能を大田市場に移すらしい」などのうわさが広がった。

しかし、豊洲で陽性者が続いた背景にはしっかりした対策と裏付けがあった。まん延する前に陽性者を特定して、対人接触をなくし、人を守ってコロナを追い込む作戦に打って出たのだ。

豊洲市場で最初の陽性者が確認されたのは昨年8月15日。11月には70人を超えた。11月16日から同30日まで、豊洲で働く全員を対象にしたPCR検査が行われた。次々に陽性が確認され、11月末までに157人に膨れあがった。「クラスター説」や「大田市場への臨時移転」などは、この頃にうわさとして広まった。

ただ、対策が功を奏し、12月に入ると陽性確認の数はガクンと減った。豊洲市場の広報担当者は「世間の豊洲市場に対するイメージ、風当たりは強かったですが、クラスターになったことは1度もない。いい初競りを迎えられそうです」と安堵(あんど)の声で話した。

とはいえ、コロナ禍での初競りだ。例年と勝手が違う側面も多く、本当にいい正月は迎えられるのだろうか?

マグロは水ものだ。たとえ狙った海域にマグロがいたとしても、投じた仕掛けに食いついてくる確証はどこにもない。あとは、釣り上げる漁師の腕を信じるしかない。豊洲市場の「大物生鮮」コーナーに、ゴロンとしたマグロが数多く横たわる絶景を見ることはできるのか。

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東京都中央卸売市場は年末年始の期間、新型コロナウイルス感染拡大防止が急務だとして、豊洲市場をはじめ都内すべての中央卸売市場の一般見学を、今月11日まで中止する措置を取っている。豊洲市場では、事前抽選制のせり見学も見合わせとなっている。中止および休止の期間は今後の状況に応じて延長する場合があるとしており、中央卸売市場のホームページなどで確認できる。