松本秀夫アナ、プロ野球中継「一にも二にも臨場感」

松本秀夫アナ、プロ野球中継「一にも二にも臨場感」

ラジオの野球中継について熱く語った松本秀夫アナウンサー(撮影・滝沢徹郎)

<オトナのラジオ暮らし>

仕事や家事、勉強や散歩しながら、街で職場で自宅で車の中でも。時代も人も変わり、メディアの多様化が進んでいますが、ラジオは今も人々の暮らしとともにあります。そんな生活密着型のメディア、ラジオについてとことん深掘りする「オトナのラジオ暮らし」が始まります。第1回は、ラジオの花、プロ野球中継について2人のベテランが登場します。【取材=秋山惣一郎】

プロ野球実況35年。1000試合以上、ニッポン放送ショウアップナイターを担当している松本秀夫アナウンサーに、新しい時代のラジオのプロ野球中継について聞いた。

−35年前と今では、ラジオのプロ野球中継の形も変わったのでは?

僕が実況を始めたころは、テレビの中継が始まるまでラジオを聴いて、テレビが終わるとまたラジオをつける。そんな時代でしたから、リスナーの耳の傾け方も今とは違ったでしょう。試合展開はもちろん、他球場の途中経過といった情報の価値が高く、速報性が求められていました。今、リスナーが何を求めているか、常に考えながら放送しています。

−今、何が求められていると思いますか

昨年、ショウアップナイターの聴取率が前年比アップしました。新型コロナウイルスの感染拡大で観客の数や応援が制限されたことで、ワンプレーごとの球音をマイクがはっきり拾うことができた。球場へ行けないファンの想像力をかきたて、臨場感を伝えることができたんじゃないか。リスナーが、ラジオ中継の良さを再発見してくれたんじゃないかと思います。

−実況のスタイルは変わりましたか

発声は少し抑えめにしています。ショウアップナイターは文字通り、声を張って、ショウアップする中継が売り物ですが、去年、神宮球場のヤクルト−巨人戦で、実況席で声を張ったら巨人ベンチに届いてしまった。元木大介コーチに「抑えて!」とジェスチャーでたしなめられました(笑い)。

−一方で変わらないものもあります

ニッポン放送の大先輩から「得点、イニングはカップラーメンだよ」と教えられました。3分に1度は得点経過、投手、打者、カウント、何球目かを入れる。これが野球中継の基本的なリズムです。このリズムが崩れるとラジオの中継じゃなくなります。

−インターネットやCS、BSなどメディアも多様化しています

映像メディアでは、球界の裏話やアナウンサーと解説者の掛け合いなど漫才みたいなおもしろい実況もあります。画面を見ていれば試合展開が分かるメディアでは、それも「アリ」でしょう。でも、耳で聴いているのに絵を見ているように分かるのがラジオの中継です。ここも変わらないところです。一にも二にも臨場感。改めて今季のテーマにしたいですね。

■リスナーと一緒に楽しむ放送目指す

かつてラジオの人気コンテンツだった野球中継は近年、「じり貧」とも言える状況にある。インターネット中継の普及で「いつでもどこでも」というラジオの優位性は薄れた。

他番組に比べて制作費は割高とされ、広告収入の減少もささやかれる。デーゲームの増加による番組編成上の問題もある。17年にTBSラジオが野球中継から撤退する「事件」が起きた。平日の西武戦に特化したライオンズナイターの放送は続ける文化放送も18年、巨人戦中心の週末の放送をやめた。

それでも、文化放送の鈴木敏夫・報道スポーツセンター部長は「ラジオ局にとって、プロ野球中継は、もうかるもうからないでは割り切れない、魂のようなもの」と話す。

かつて夜の街では、飲食店やタクシーからラジオの中継が流れていた。実況、歓声、球音が、街の景色を作っていた。人々の暮らしの中にラジオがあって、プロ野球の隆盛を支えた。一方で「従来通りの放送を続けていては未来がない」(鈴木部長)のも現実だ。

ラジオとプロ野球の新しい形を模索する中で、2018年(平30)4月18日の西武−日本ハム戦(メットライフドーム)がヒントになった。試合は8回表を終わって8−0で日本ハムが大量リード。ところが8回裏、西武が猛反撃を始めた。5安打に3四球を絡めて7点を挙げると、SNSがにわかに活気づいた。比例して、スマートフォンでラジオが聴けるアプリ「ラジコ」のライオンズナイターへのアクセスが、右肩上がりで急伸していった。

鈴木部長は「ラジオのプロ野球中継とSNSの親和性の高さを証明した試合でした」と振り返る。文化放送では今季、6万人のフォロワーを持つライオンズナイターのツイッターへの書き込みを随時、中継に入れていくなど、リスナーとの双方向性を高める。

球場でラジオを聴きながら観戦するスタイルも呼びかけたいという。鈴木部長は「実況と解説、リスナーが一緒に楽しまなければ『絵のないテレビ』になってしまう。空模様や観客の様子、売店のにおいまで、テレビ以上に景色が見える放送を心がけたい」と意気込む。

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