キラー・カーン、世相への嫌気から居酒屋閉店「とことんこの土地がいやに」

キラー・カーン、世相への嫌気から居酒屋閉店「とことんこの土地がいやに」

手振りを交えて小沢さんは「コロナの影響もあるけど、もうねこの町が嫌いになった」と悲しげな表情で閉店の理由を説明した

昭和時代に世界を舞台に活躍した日本人レスラー「キラー・カーン」こと小沢正志さん(74)が新型コロナウイルスの感染拡大で東京・新大久保で営業していた居酒屋を5月22日に閉店することを決めた。

大巨人アンドレ・ザ・ジャイアントの足を骨折させたラフファイターも、コロナには勝てなかった。ただ、閉店の理由は今の世相への嫌気からだった。

JR新大久保駅から歩いて3分で「居酒屋カンちゃん」に到着する。韓国料理店がたち並ぶ中、和食をメーンに中華風味のメニュー構成となっている。通常では夕方5時から深夜11時までの営業だが、緊急事態宣言でアルコールの提供を一切やめて、カレーライスを中心とした定食店として午後4時から4時間だけ店を開けている。

店頭には「お知らせ」と赤いアンダーラインを引いて「当店は5月22日(土)もちまして閉店ときめました。カンより」との手書きの紙が張り付けてあった。ガラス越しに店内をのぞくと195センチの巨体でのしのしと歩く白衣のスキンヘッド。店主の小沢さんだ。

1971年から16年間、プロレスラーとして活躍し北米で「謎のモンゴル人」として売り出し、悪役レスラーとして大人気を誇った「キラー・カーン」だ。両手を大きく広げて左右同時に手刀を撃ち込む「モンゴリアンチョップ」で多くのレスラーを倒してきた。コーナーのトップからムササビのように跳躍する全身バネのようなタフガイだった。

「もう閉店するのに忙しいんだよ。アルバイトで雇っていた女の子もヒマになるから辞めてもらった。オレがホールをやっているんだけど、歩きっぱなしだよ」と小沢さんは額にうっすら汗を浮かべて注文取りに店内を動き回っていた。

閉店はこのGW(ゴールデンウイーク)期間中に決めた。インターネットで「カンちゃん、店を閉じるって」との情報を得たファンがひっきりなしに訪ねてきたり、店に電話もかけてくる。「それが電話に出ると男ばかり、色気もなにもない」と文句ではあるが、うれしそうに話した。

小沢さん プロレスのときと同じで「辞める」と決めたらスパッと辞める。一緒に戦ったハルク・ホーガンにも現役慰留されたけど、プロレスはまだまだできたけどさ、あの世界の人間関係に嫌気がさして引退を決めた。今回も似ている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で昨年から客足が途絶えてきた。ただし、閉店の理由はコロナだけではない。

小沢さん 店の前で若い人らが勝手に地べたに座って動かない。揚げ句、ウチの店のトイレだけ使いに入ってくるとか、店外でもゴミをポイ捨て。なんなんだ、この町は。とことんこの土地がいやになった。若い人らはそんなに悪くはない。この町の持つ雰囲気なんですかね。

店内ではリング上での殺気に満ちたオーラはどこにもない。優しい声で注文を聞き、食べ物をテーブルに運ぶときも「待たせちゃったね、ゴメンね」と腰が低い。ぼんやりすることが一切なく、割り箸や調味料の補充、お客さんとの2ショット写真に気軽に応じていた。

小沢さん オレね、仕事するのが大好きなの。だから、この店をたたんだら、早い時期に次のことを開始します。ホームレスもちょっとは考えたけど、働かないと食っていけないからね。

このコロナ禍で知人に呼ばれて東京近郊の地方都市に足を向けた。ステージのあるカラオケスナックだった。おじいちゃんやおばあちゃんが元気にマイクを握って歌っていた。

小沢さん ああ、この感じだよな。オレもレコードを出している歌手なんだよ。コロナがまん延する前まで11年間、友人の歌手ばんどうくにやすさんとボランティアで老人ホームとか回っていた。もうね、おばあちゃんのアイドル、おじいちゃんのライバルですよ。

場所はまだ決めていないが、高齢者対象の昭和時代限定のカラオケスナックを開店するという。

小沢さん カラオケボックスは密閉された狭い空間で飛まつだらけ。運が悪ければクラスター状態ですよ。ちゃんと距離をとって、楽しく歌える店があってもいい。歌うとコロナにかかるわけじゃないから。まもなく始動しますよ。

不屈のレスラー魂は健在だ。カラオケスナックから打倒コロナののろしをあげる。【寺沢卓】

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