民間が異例受け入れ、中南米26カ国120人が対策徹底し行う五輪合宿

民間が異例受け入れ、中南米26カ国120人が対策徹底し行う五輪合宿

地元立川市内の園児らが、バスから手作りの旗を振って迎える中、キャンプ施設に移動するパンナムスポーツの選手たち(撮影・浅見桂子)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で受け入れ中止が相次いでいる東京五輪の事前キャンプだが、多国籍の外国選手が集う合宿に15日、潜入した。中南米とカリブの各国で構成されているパンアメリカンスポーツ機構(パンナムスポーツ)は13日から25日まで、26カ国4競技120人が参加して東京・立川市で実施中。受け入れ主導が、不動産事業の民間企業「立飛ホールディングス(HD)」で、自治体ではないことも極めて異例だ。政府方針に沿った感染防止策徹底を厳守。賛否両論ある中だが、立飛HD村山正道社長(70)の選手や地元子どもたちのレガシー形成への強い決意が詰まっていた。

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アリーナ立川立飛の階段を登ると、黄色と緑で彩られた畳に飛び込んでいた。柔道選手の「パンッ」と大きな音が響く。村山社長は「57年ぶりの東京五輪。子どもたちに東京オリンピックを体感させたい。私も64年の五輪を見てから、五輪のたびに映像がよみがえってくる。私はこの10年新しい風を入れてきたので、ここから10年は熱い風を吹かせたい。民間企業だからこそ出来ることがあると思った」と言葉に力を込めた。

市民らの逆風の声も耳に届いている。当初は14競技約400人を見込んでいたが、柔道、競泳、ビーチバレー、陸上に絞り、2班に分けた。選手は練習会場に入る前に毎日PCR検査を実施。宿泊ホテルはフロア貸し切り。「これなら大丈夫だと自信を持った」。先陣で合宿地入りした柔道、競泳選手には「責任ある行動をとってくれと、厳しく伝えさせていただいた」。市や、中大などにも協力を要請。中大の屋外プールでも、男女選手らが笑顔で水面に飛び込んだ。

「おもてなし」で寄り添った。男子競泳50メートル自由形スリナム代表のジョエ選手は「成田、ホテル、キャンプ地も、きちんとしたコロナ対策で安心して五輪に臨める。外出が出来ないけれど、可能なら日本のウイスキーを土産にしたい。富士山も見たかったし、好物のすしや刺し身も食べたかった」。朝食はホテル、昼、夜は地元結婚式場のシェフがキャンプ地内の施設で腕を奮う。母国料理を並べるだけでなく「本日の日本料理」を提供し、日本の食文化にも触れる機会をつくった。大相撲の高安も太鼓判を押したちゃんこ鍋や、愛知名物手羽先なども登場予定だ。

癒やしドームもある。補食用のバランス栄養食の食べ放題コーナーでアスリートがパクパク。隣にはダーツ2台、卓球台も2台。さらに進むとプレイステーションとスイッチが2台ずつ。男子柔道60キロ級エクアドル代表プレシアード選手は「この合宿がなければ、日本で練習すら出来なかったのでありがたかった。私はゲームや、アニメのフィギュアなどが大好き。中でもドラゴンボールの孫悟空でしょ」。19年には東海大に強化留学経験もあり、一緒に練習した今大会で対戦する可能性もある高藤直寿に対し「スーパーサイア人になって左内股で1本とって勝っちゃいます」。日本文化を力に変えているのは間違いない。

この日は、大雨の中、地元園児240人が選手を出迎えた。バスの中から手作りの国旗が振られた。密接な交流は不可でも、女子競泳1500メートルチリ代表コブリッチ選手は「とてもかわいかった」。遠く離れた家族の姿も思い浮かべて感謝した。今後も、16日、21日は立川市内の小学校授業に選手らがリモート参加予定。(タ)立川から(チ)力を与え(ヒ)ヒーロー誕生を導きそうなタチヒ(立飛)合宿だった。【鎌田直秀】

◆パンナム事前キャンプの感染症対策 一般市民との接触を完全に回避し、ルール違反は本番大会出場禁止のペナルティーを科すことを選手にも伝えている。時系列では以下の通り。

<入国前>

▽自国で14日間の健康観察、行動制限

▽出発の96時間以内に2回の検査で陰性証明を取得

<入国時>

▽検疫で陰性証明を取得

<滞在中>

▽毎日検査で陰性証明を取得

▽練習等の活動は貸し切りの施設

▽宿泊はホテルのフロア貸し切りで、一般の方との動線を分離

▽食事は会場貸し切りの黙食

▽ホテル及び食事会場〜練習拠点間の移動は専用車両使用

▽その他の外出は一切禁止

▽選手団及び日本側関係者に陽性疑い者が発生した場合は、直ちに全てのキャンプ活動をいったん中止、選手団を全員隔離

▽陽性疑い者が陽性と診断された場合、非濃厚接触かつ陰性が証明されたものだけが活動再開し、陽性者及び濃厚接触者は隔離を継続。

◆立飛ホールディングス 前身は1924年(大13)に都内に設立された「石川島飛行機製作所」。30年に立川市に移転し、その後「立川飛行機」に社名変更。愛称「赤とんぼ」などの飛行機約1万機を製造した。戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に飛行機製造を禁じられ、工場敷地も接収されたが、飛行機製作解禁後の52年に戦後国産飛行機第1号を製作。77年の工場敷地全面返還を受けて不動産賃貸業を展開。11年に立飛ホールディングスに再編。本社は東京都立川市。

◆アリーナ立川立飛 17年10月開場。収容人数約3000人。Bリーグのアルバルク東京のホームゲームを開催。フットサル男子「立川・府中アスレチックFC」のホームアリーナ。18年には全米オープンテニスを優勝した大坂なおみが東レPPOテニスで凱旋(がいせん)。事前キャンプではマシントレーニング、柔道の練習施設に活用。

◆ドーム立川立飛 アリーナ立川立飛の隣に18年8月に併設された体育館。昨年から地元の子供たちを対象にフェンシング教室も実施。事前キャンプではリラクゼーションエリア、ケータリングエリアなどが準備される。

◆タチヒビーチ 海のない立川でもビーチの気分が味わえる日本最大のフェイクビーチ。17年に開場。事前キャンプでは、ビーチバレーの練習エリアとして使用される。

◆中央大学 東京都八王子市に本部を置く私立大学。事前キャンプでは、多摩キャンパスの屋外50メートルプール、陸上競技場で練習を行う。最寄りの中央大学・明星大学駅は、多摩モノレールで立川とつながる。

◆パンナムスポーツ交流プロジェクト実行委員会 立飛ホールディングス、立川市、立川市議会、立川市教育委員会、立川商工会議所、立川市商店街振興組合連合、立川観光協会、立川市自治会連合会、立川市体育館、立川青年会議所、東京女子体育大学、多摩都市モノレール、中央大学。

◆パンアメリカン・スポーツ機構 北中南米に立地する41カ国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)の集合組織。第2次世界大戦前に設立され、1951年に総合競技大会の「第1回パンアメリカン競技大会」をアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催。以来、4年に1度開催している。略称はパンナムスポーツ。本部はメキシコシティー。