なぜ異常気象?原因はインド洋に/ニュースの教科書

なぜ異常気象?原因はインド洋に/ニュースの教科書

気象予報士でウェザーマップ社長の森朗さん

関東甲信も1日、ようやく梅雨が明けました。平年なら7月28日には東北北部まで梅雨明けし、全国的に夏を迎えるのに、今年は気象庁長官が「記憶にない」と答えるほど梅雨前線が停滞し、各地に記録的な大雨をもたらしました。そういえば今年は台風発生のニュースも耳にしません。どうして? 「ひるおび!」(TBS系)でおなじみの気象予報士・森朗さん(60)に聞きました。【中嶋文明】

−関東甲信の梅雨明けが8月になりました。13年ぶりで、1951年の統計開始以来、70年間で4度しかないそうですが、なぜこんなに遅れたんでしょう

森 梅雨前線は例年、南北に動きながら、勢力を強めた太平洋高気圧に追われるように北上して梅雨が明けるのですが、今年は太平洋高気圧が北に張り出してこないので同じところにとどまっていました。各地で大雨になり、関東も梅雨の中休みがなく、都心では7月18日まで19日連続雨という記録もつくりました。日照時間は戦後最短です。

−太平洋高気圧はどうして張り出してこなかったのですか

森 偏西風が大きく蛇行して太平洋高気圧の北への移動を押さえつけていました。北に張り出せない太平洋高気圧は西へ広がり、7月は沖縄から西は晴れが続いていました。

−偏西風はどうして蛇行したんですか

森 そもそも始まりはインド洋の海水温です。今年はインド洋の東側の海水温が高く、中国大陸に暖かく湿った空気を送り込んでいます。この暖気の固まりのため、偏西風は北を流れ、その反動のように黄海から朝鮮半島付近で大きく南に下がった。太平洋高気圧は偏西風に負けて北に広がれないんです。台風は例年、7月に4、5個発生しますが、今年はゼロでした。台風は太平洋高気圧を押し上げる後ろ盾でもあるのですが、6月12日の2号以来、発生していないんです。

−なぜでしょう

森 これもインド洋東側の海水温が関係しています。インド洋東側でできた上昇気流は、フィリピン付近で下降気流になります。太平洋高気圧も西に張り出しているため、フィリピン近海での熱帯低気圧の発生が抑えられているんです。

−もしかすると、三峡ダムが決壊するのではないかと大騒ぎになっている中国の長江流域の豪雨もインド洋の海水温に関係しているのですか

森 そうです。インド洋から大量に流れ込んだ暖かく湿った空気が、長江の流域に大雨をもたらしています。日本と同じ梅雨前線上にあります。シベリアの熱波も関係があります。シベリアは大陸性で夏は暑くなりますが、今年は暖気が流れ込んで異常高温になっているんです。

−7月は「50年に1度」の雨量になると予想された場合に発令される大雨特別警報が3回も出ました。「観測史上初」とか「数十年に1度」という言葉が最近、気象情報で頻繁に出てきます

森 海水温が高くなっているため、水蒸気量が増加し、降る雨の量が違ってきています。特に梅雨前線が動かなかった今年は大量の湿った空気が同じエリアに次々と送り込まれ、九州豪雨では気象庁の予測も上回る降水量になりました。

−梅雨明け後は暑くなりますか

森 太平洋高気圧が弱くて梅雨明けが遅くなることはありますが、今年はそこそこ強いのに遅れました。中国大陸に暖かい空気があるので、暑くなると思います。梅雨明けが8月1日と遅れ、猛暑になった2007年を思い起こします。埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市で40・9度を記録し、当時の最高気温を74年ぶりに更新した年です。

◆シベリア熱波 今年前半の平均気温は例年より5度以上高く、北極圏にあるベルホヤンスクでは6月20日に38度を観測した。山火事は188カ所で発生している。永久凍土が解け、閉じ込められているメタンが放出され、さらなる温暖化の原因になるのでないかと懸念されている。

◆線状降水帯 幅20〜50キロ、長さ50〜300キロにわたって積乱雲が帯状に発生し、大量の雨を降らせる。17年7月の九州北部豪雨、18年7月の西日本豪雨でも発生し、被害を拡大させた。九州豪雨では7月3〜11日に13回発生した。台風に比べ局地的で、発生の予測は難しい。

◆長江豪雨 降水量は1961年以降最多で各地で氾濫、決壊が起こり、4552万人が被災した。黒部ダム200個分の三峡ダム(09年完成、制限水位145メートル)は7月19日、水位164メートルに達し、決壊が心配されている。コロナが最初に確認された武漢も市内で浸水被害が出ている。

○…今回、取材はかなわなかったが、筑波大の釜江陽一助教(気象学)は、インド洋、南シナ海、東シナ海の海水温が高く、大量の水蒸気を日本に運ぶ「大気の川」ができたと解析している。「大気の川」は長さ3000キロ、幅600キロにわたる大量の水蒸気の帯で、九州に流れ込んだ水蒸気量は毎秒約40万立方メートル。アマゾン川の流量の約2倍、信濃川の約800倍に相当すると推定している。地球温暖化は水蒸気量を増加させ、「大気の川」をさらに巨大化させるとしている。

◆森朗(もり・あきら)1959年(昭34)9月18日生まれ。慶応大卒業後、鉄鋼製品メーカーに勤務。海好きが高じて、95年、気象予報士資格を取得し、森田正光さん創業のウェザーマップに入社。17年から代表取締役社長。著書に「異常気象はなぜ増えたのか」(祥伝社新書)など。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。卒業した小学校の夏休みが1日始まった。割と涼しい高原地の学校で、昔から夏休みは短かった。しかし、今年は全国で夏休みが短縮され、20日以下が7割。8日から始まる学校も多い。猛暑予想が外れ、短いが快適な「特別な夏」になることを祈りたい。