清武英利氏が新著「高橋由伸監督は育成の人でした」

清武英利氏が新著「高橋由伸監督は育成の人でした」

清武英利氏(2015年9月15日撮影)

元プロ野球・巨人の球団代表などを務めた、ノンフィクション作家の清武英利さん(69)が、新刊「サラリーマン球団社長」を出版した。主人公は、2003年(平15)の阪神優勝時の球団社長、野崎勝義さんと、現在も広島の球団本部長を務める鈴木清明さん。親会社から球団に出向、転職した2人のサラリーマンが、球団の変革に挑んだ軌跡を追った。

現場と上司の板挟みに遭い、悪戦苦闘しながらチームやフロントを変えていく2人に、いわゆる「清武の乱」で巨人を追われた著者の姿が重なる。語られることの少ないプロ野球フロントの裏話であり、球団という会社を舞台にした企業ノンフィクションの趣もある。著者の清武さんに聞いた。【取材・構成=秋山惣一郎】

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−阪神と広島のファンには必読の書ですね

清武さん 僕は今、月刊誌で「後列のひと」という連載を持っています。目立たないけど「後ろの方の列」で組織をしっかり支えている人の話です。これはノンフィクション作家となってから、一貫している。今回は、プロ野球を「後列」で支える、親会社から来たサラリーマンについて書きました。大企業から、球団という畑違いの小さな子会社へ行って、そこで何をどれだけできるか。子会社出向や地方転勤で、同じような経験を持つサラリーマンに問いかけたつもりです。プロ野球ファンはもちろんですが、企業社会で働く人たちに読んでほしいですね。

−03年、阪神が導入した、あるシステムへの疑問が取材、執筆の動機だとか

清武さん 当時の阪神球団社長、野崎勝義さんが採用した、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)です。一義的には選手の能力を数値化して客観的に評価するシステムで、米・大リーグでは90年代に導入され、広く知られていました。06年、日本ハムが日本一になった際にもてはやされましたが、日本球界で初めて構築したのは、野崎さんのいた阪神だった。「今季はダメだけど、来季は頑張ろう」を繰り返す阪神が、そんな先進性を秘めていたことに驚き、「誰がなぜ?」と疑問に思ったのがきっかけです。

−星野仙一監督を招き、金本知憲選手らを獲得、優勝したころです

清武さん 野崎さんは、周囲を身内で固めたり、前例を踏襲したりせず、外部の人の知恵や能力を活用しました。野村克也さん、星野さん、BOSを推進したのも外部からの人材です。外部の人材、新しいシステムに、球団内の抵抗は極めて強かった。どの組織にも守旧派はいて、そういう人たちと戦いながら進めるのが改革ですよ。取材を進めて、BOS導入に、そんな経緯があったのか、と初めて知りました。

−しかし、その後の阪神はなかなか勝てません

清武さん BOSを推進した吉村浩さんが日本ハムに転出し、野崎さんが去り、改革を引き継げなかったのでしょう。短期的に成功しても、改革は継続しなければ、長く安定した成績を残すチームは作れません。

−親会社から球団に行って改革に手をつけた姿に清武さんが重なります

清武さん 僕も野球の素人ですし、重なる部分はあるのかもしれませんね。その立場に立てば、一時の補強以上に選手のスカウトと育成が大事だと、誰もが思うでしょう。球団フロントにとっての目標は、優勝だけではないと思っています。勝てない時があっても、ファンに夢を与えるチームを作ることです。長く低迷が続いた阪神には、革命的な変化が必要でした。

−そういえば、巨人でBOSを導入したのは清武さんでした

清武さん 阪神に7年遅れました。コーチ、スカウトらのパソコン研修から始めましたが、現場も徐々に理解してくれました。10年のドラフトでは、実力に話題性も加味して、早大の斎藤佑樹、大石達也、中大の沢村拓一ら、さまざまな名前が挙がりましたが、BOSの評価では沢村だった。彼は今月、ロッテにトレードされたが、11勝を挙げて巨人として4年連続の新人王に選ばれたことを考えても、この評価は間違ってなかったと思います。

−本書には、広島の球団本部長、鈴木清明さんも登場します

清武さん 鈴木さんは、お金のない地方球団という宿命を引き受けて、我慢強くこつこつ選手育成を続け、16年からのリーグ3連覇につなげた。その姿勢には敬意しかありません。僕たちが05年、プロ野球に育成選手制度導入を強く働きかけたのは、ドミニカ野球アカデミーを置くなど、広島の育成にヒントを得ました。近年の巨人では、高橋由伸・前監督が、我慢を重ねて、生え抜きの岡本和真を10年続く4番打者に育てた。他球団から取った主力が衰えたら、また他球団から取るという編成では、その年は勝つかもしれないが、長く続かない。高橋監督は、成績不振で退いたが、育成の人でしたね。岡本たちを育てた教訓はもっと評価されてもいいと思います。

−次は巨人について書いてください

清武さん 巨人のことは興味深く見てるけれど、一方では誰にも書かれずにじっと取材者を待っている人や事実、テーマがたくさんある。今のプロ野球の話は、まず現場にいる人が人生を懸けるつもりで取り組むべきじゃないかな。

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「サラリーマン球団社長」は文芸春秋刊。全国書店、ネット書店で発売中。税抜き1600円。