吉野氏、謎だらけリチウムイオンは環境問題にも貢献

吉野氏、謎だらけリチウムイオンは環境問題にも貢献

会見場で祝福される中、花束を抱え満面の笑顔を見せるノーベル化学賞受賞を決めた旭化成名誉フェローの吉野彰氏(撮影・河田真司)

スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、19年のノーベル化学賞を、旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3人に授与すると発表した。

スマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池を開発し、情報化社会を支えたと評価された。日本人27人目の受賞者の吉野氏は同日、東京都内で開いた会見で、同電池が初めて広く使われた携帯電話“ガラケー”を「使ったことがない」と言い会場を沸かせた。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金900万クローナ(約9700万円)が贈られる。

吉野氏は、王立科学アカデミーの電話インタビューを終えて旭化成本社の会見場に足を踏み入れると、カメラのフラッシュを全身に浴びた。「見事に受賞いたしました」。花束を手にすると、顔全体に笑みが広がった。家族に報告したかと聞かれると「先ほど、電話で家内に電話いたしました。時間が取れないから『決まったぞ』とだけ伝えた。腰を抜かすほど驚いていました」と久美子夫人(71)に電話したと明かした。

吉野氏は、1972年に京大大学院工学研究科修士課程を修了して旭化成に入社し、80年代に充電で繰り返し使うことが出来る2次電池の研究を開始。負極に炭素、正極にコバルト酸リチウムを使用し、現在のリチウムイオン電池の原形となる2次電池を世界で初めて考案し製作。小型、軽量化にも成功した。

リチウムイオン電池は、90年代に携帯電話などに広く使われた。同アカデミーは「実用化以来、私たちの生活に革命をもたらし人類に偉大な貢献をした」と授賞理由を説明した。その偉大な貢献の最初の形が携帯電話だが、吉野氏は「持つのに拒否感を持っており、つい先だってまで持っていなかった」と明かした。5年ほど前にスマホを初めて買ったと言い、ガラケーは「使ったことがありません」と笑いながら明かした。

「リチウムイオン電池の父」として、候補に名前が挙がって10年余り。今年受賞できた要因を「リチウム電池が、環境問題への答えを出してくれることに関して期待されて、受賞対象になった」と分析した。環境問題への答えになりうる存在として挙げたのが、欧州を中心に利用が拡大する電気自動車(EV)だ。

吉野氏は、リチウムイオン電池の一番の機能を蓄電だと改めて説明。「再生可能エネルギーで発電する社会システムを、作っていかないといけない。それによって発電所から出る二酸化炭素(CO2)問題が解決されていく。そのためには蓄電システムが必要だが、費用がかかる」と指摘した。

その上で「EVの普及は、リチウムイオン電池がないと出来ない。単に車をクリーンにするだけでなく、そのEVに積んでいる電池の蓄電機能により、巨大な蓄電システムが自動的に出来上がる」と説明。「太陽電池や風力発電など変動の激しい発電も普及しやすくなる。そこが一番の環境問題への貢献」と強調した。

今後については「モバイルITに自動車、そして飛行機を飛ばす話も出てきた。新しい要素、分野が開ける時は技術開発が必要」。そして「リチウムイオンの本当の姿はまだ謎だらけ。何ぞやという原点に返って知っていかないといけない。そこから今までと全然違う技術が出てくる可能性がある」と、さらなる発展にも期待した。【村上幸将】

◆吉野彰(よしの・あきら)1948年(昭23)1月30日、大阪府吹田市生まれ。70年京都大工学部石油化学科卒。72年京大大学院工学研究科を修了、旭化成工業(現旭化成)入社。電池材料事業開発室長などを経て2003年に同社フェロー。05年に同社吉野研究室長、15年顧問。17年から名誉フェロー、名城大教授。04年に紫綬褒章受章。13年にロシアのノーベル賞ともいわれるグローバルエネルギー賞、18年に日本国際賞、19年に欧州特許庁の欧州発明家賞を受賞。神奈川県在住。