日大アメフト問題の本質をスポーツ科学博士が分析――全大学を統括する「日本版NCAA」の創設が急務!

日大アメフト問題の本質をスポーツ科学博士が分析――全大学を統括する「日本版NCAA」の創設が急務!

日大アメフト部の悪質タックル問題を受け、内田正人前監督(右)と井上奨前コーチ(左)は会見で反則指示を全否定。日本中から非難の声が飛んだ

日大アメフト部の悪質タックル騒動が依然として収束しない。指導者によるトカゲの尻尾(しっぽ)切り的発言や広報担当者の逆ギレも含め、果たしてこれは日大の特殊な事例なのか、それとも体育会そのものの問題なのか―。

帝京大学准教授(スポーツ科学博士)でプロスポーツクラブ、企業スポーツ、大学スポーツの現場を見てきた大山 高(たかし)氏に問題の本質を聞いた。

* * *

大山 私は三洋電機でバドミントンチームとラグビー部のプロモーションを担当した後、ヴィッセル神戸、広告代理店を経て、2014年に帝京大に来ました。企業スポーツ、プロスポーツの現場を経験した立場からすると「体育会の常識は、ほぼ社会の非常識」として疑うべきところがあります。

―非常識ですか?

大山 例えば日大は、相撲部出身の田中英壽(ひでとし)氏が理事長を務め、アメフト部前監督の内田正人氏が人事権のある常務理事を兼務していたことには驚きました。内田氏に限っていえば、アメフト部の監督が約12万人の学園グループのトップにいる状態。彼は日大アメフト部出身者を内田氏が役員を務める大学の関連会社へ次々と送り込んでいた。

また、学内の34の運動部の予算管理を行なっている保健体育事務局長も兼任している。これは一般企業のモノサシでとらえるとあまりにも非常識で、一部の人に権益が集まり、ゆがみが出るのも仕方ありません。

―一部の組織とはいえ、体育会出身者が権力者になってしまうのはなぜ?

大山 ふたつ理由があって、ひとつは小学生の年代から続く勝利至上主義。もうひとつは、指導者の評価基準が曖昧(あいまい)なことです。

花園、春高バレー、甲子園、インターハイ。学生スポーツの主要な大会は、地方予選からすべてトーナメント方式です。指導者は「この大会に勝たないと後がないぞ」と選手を追い込みます。勝てば名将と呼ばれ、名門校、強豪校には多くの選手が集まってくる。スポーツエリートの層ができ、スポーツ推薦での入学、卒業後のOB人脈での就職など、指導者に逆らえない構造ができていくわけです。

ところが、そこで行なわれている指導が適切かどうかを評価する基準はありません。各スポーツ協会は指導者ライセンスを取るよう促していますが、現場レベルではライセンスがなくても指導ができる。たとえ間違った指導でも「教育だから」という逃げ道があり、各大学、各個人のやり方に任されています。

―とはいえ、内田前監督率いる日大のアメフト部は甲子園ボウルを制して日本一になった実績もあります。

大山 部の活躍が広報に役立つ面もあり、多くの大学は「課外活動ですから」と問題を放置してきました。その結果、今回のような問題が起きた時、大学側は関与しにくい構造になっていたのです。というのも、運動部を経済的に支えてきたのはOBたちの後援会費や部員の部費が中心であり、位置づけは「自治活動」。大学は教員や職員に対してはガバナンスを発揮できますが、運動部に関しては「各自で運営してください」という状態です。

これは日大に限った話ではなく、大学の運動部は自分たちで人事権を持ち、稼いだら稼いだ分だけ自由に使える組織になっています。それが勝利という結果につながることもありますが、やはり時代遅れであることは今回の件でも明らかです。

―改善策はありますか?

大山 例えば、アメリカの大学スポーツは、大学の総長や学長に横並び、もしくは直轄の運動部を束ねる専門部署があります。NCAA(全米大学体育協会)と呼ばれる大学スポーツの中央集権組織が最高意思決定機関となり、競技の垣根なく統一したルールで運営されています。指導者のライセンス制度は徹底され、監督、コーチは各大学とプロ契約を結びます。

NCAAはすべての大学の試合、興行、グッズに関する収益を取りまとめ、売り上げは年間1千億円ほどで、利益は約100億円ほど。それが各大学に分配され、各チームの運営費になっていきます。大学の監督で年俸3億円、コーチで年俸1億円といった指導者も少なくありません。プロとして契約する以上、指導に難があればクビになります。また、人事権は大学側にあるので院政を敷くこともできません。

―アメリカでは学業の成績が良くないと試合に出られないと聞いたことがあります。

大山 NCAAは、学業優先の姿勢も明確にルール化しています。選手はGPA(成績評価基準)が2.2以上ないと公式戦に出場できず、スポーツ推薦の場合、奨学金もカットされます。ちなみに、GPAは4が最高で、2.2はしっかり勉強しないと取れないレベル。実際、有力選手が試合に出場できないという問題が各競技で起きており、GPAの基準を下げる議論も出るなど、NCAAも試行錯誤を続けているようです。

ただし、このルールがあるからこそ、選手たちは「これだけのパフォーマンスを見せ、しっかり勉強もしている」とアスリートとして尊敬され、それが大学スポーツそのものの価値を高めているのは事実です。

―ちなみに、NCAAはいつからあるんですか?

大山 20世紀初頭からで、100年以上の歴史があります。発端になったのは、くしくもアメフトの試合で負傷事故や死亡事故が多発したこと。これが深刻な問題となり、NCAAが創設されました。

今回、たまたま日本でも、日大のアメフト部の問題で大学スポーツにスポットが当たる形になりました。すでに日本版NCAAの創設に向けた動きは起きていますし、これを好機ととらえて、アメリカを見習いながら制度改革していく時期に来たのだと思います。

◆「勝利至上主義」では日本の団体スポーツは強くならない――この続きは『週刊プレイボーイ』25号(6月4日発売)「日本の『パワハラ体育会文化』はどう変えてゆくべきなのか!?」にてお読みください。

(取材・文/佐口賢作 写真/時事通信社 取材協力/SURER MIX)

●大山 高(おおやま・たかし)







1979年生まれ、東京都出身。APU卒業後、三洋電機株式会社、ヴィッセル神戸、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズを経て2014年より現職。プロクラブと企業スポーツの両クラブで宣伝広報業務やパートナーシップ事業に従事し、三洋電機時代は「オグシオ(小椋久美子・潮田玲子ペア)」所属のバドミントンチームとラグビー部のプロモーションを担当

関連記事(外部サイト)