赤ちゃん番組でも手加減なし! テレビ東京『シナぷしゅ』のコーナー、「つきうた」にラインアップされたアーティストが攻めまくっている!

テレビ東京で放送中の民放初の赤ちゃん向け番組『シナぷしゅ』 ?TV TOKYO

民放初の赤ちゃん(0歳〜2歳児)向け番組として、昨年4月からテレビ東京で放送中の『シナぷしゅ』が、音楽好きの間で話題になっている。毎週月曜日〜金曜日に放送されている同番組では、毎月1曲が毎日流れる『つきうた』のコーナーがあり、このアーティストのラインアップが非常に「攻めている」のだ。

これまでにスカパンク界のレジェンドであるKEMURI、降神のMCで吟遊詩人(ぎんゆうしじん)としても評される志人(しびっと)、アイドル界からはメンバーが楽器演奏も行う独自のスタイルで活動するバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI。

さらに、現役の魚屋によるバンドという異色の経歴を持つ漁港などが担当。どの曲もアーティストの個性を失うことなく、赤ちゃんへの眼差しにあふれた素晴らしい仕上がりになっている。

一体、どんなコンセプトで『つきうた』は作られているのか。『シナぷしゅ』のプロデューサーで、自身も1児の母である飯田佳奈子(いいだ・かなこ)氏に、番組開始の経緯から番組で流れる音楽に込めた想い、ゆくゆくは夏フェスを開催したいという夢まで、果てしない赤ちゃんへの愛とともに語ってもらった。

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テレビ東京『シナぷしゅ』プロデューサーの飯田佳奈子氏

――まずは番組を作ったきっかけから教えていただけますか?

飯田 2018年に私が出産をして育休を取っていたんですけど、出産をした世代の多くがEテレを盲信(もうしん)していることに気づいたんです。赤ちゃんにもいろいろ個性があるので、きっとEテレが肌に合わない子もいるし、そういう子が普通じゃないのかというと、そうではないと思うんです。だから、別の選択肢を作りたいと思ったのが理由のひとつです。

――確かにEテレ以外の選択肢を考えたことがなかったです。他にも理由が?

飯田 みんな「テレビは発達に悪い」みたいな思い込みがあって。まわりのお母さんたちとおしゃべりしていると「昨日は1時間もテレビを見せちゃって」とか、すごく後ろめたそうに言うんです。ただでさえ育児は苦しくて窮屈(きゅうくつ)なときもあるのに、テレビを見せちゃったことで、またお母さんたちが自分を責めてしまう。

その一方で、YouTubeの中には、けっこう雑に作られた子供向けの動画もあり、一般のかたがキャラクターのぬいぐるみを持って寸劇をしている動画が、何十万回と再生されていて。でも、その再生数は、みんなこういうものに頼りたい証拠でもあるじゃないですか。だったら番組として良質なものを作って提供するのもいいと思い、育休明けすぐ『シナぷしゅ』の企画書を書いたんです。

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――その「良質なもの」は、何を基準に判断するんですか?

飯田 それがまた難しくて。赤ちゃんは「これは良質なコンテンツですね〜」とか、絶対に言わないじゃないですか。それもあって、東京大学赤ちゃんラボに監修をお願いしようと思ったんです。

赤ちゃんラボには開 一夫(ひらき・かずお)さんという教授がいらっしゃるんですけど、赤ちゃんを研究の対象にされているので非常に頭の柔らかいかたで。最初に伺って私の想いをプレゼンしたときに、「良質なコンテンツって、誰が決めるの?」という話になったんです。

『シナぷしゅ』を見ていた子が、20年後に犯罪を犯さないですよとは言えないじゃないですか。例えば『セサミストリート』は世界で初めての教育番組で、いろんな研究機関がバックアップしていますけど、それでも『セサミストリート』を見た子は犯罪を犯す率が少ないとか、そこまでは追いかけられない。

でも、選択肢が増えるのはいいことだとおっしゃって下さって。選択肢さえ増えれば、赤ちゃんが好きなものを選べる。Eテレを見たい子もいるだろうし、そうじゃないものを見たい子が『シナぷしゅ』を見て、これはいいなと思うかもしれない。だから「自由にのびのびやってみなさい」と、アドバイザーとして立って下さっているんです。

――開先生からは、どんなアドバイスをもらっているんですか?

飯田 最初は質問攻めにしたんですよ。「テロップはどういうフォントがいいですか?」「どういう色を使うといいですか?」とか。でも、赤ちゃんがどういう環境で見ているかにも左右されるから、一概に何色がいいとは言えなくて。再生環境も大きいテレビで見ているのか、電車の中で小さい画面で見ているのかによっても違うから、決められたものではないと。

ただ、アドバイスとしてあるのは「緩急」だと。例えば淡いトーンのなかにビビッドなものが入ってきたら目を引かれるから、そういうことを意識してあげるといいよと言われました。あとは低月齢の赤ちゃんは、集中力が3分は持たないというアドバイスもいただいたので、1分〜2分のショートコンテンツを段積みにする構成にしました。

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――言葉に関してはどうなんでしょう?

飯田 0歳〜2歳児向けなので、言葉がよく分かる年齢層ではないなと思っていて。番組では英語のコーナーや、いろんな国の言葉で「いないいないばぁ」をするコーナーもあるんですけど、それは勉強的に言語を習得してもらいたいと思って放送しているわけではなく、赤ちゃんの耳の可動域は大人よりずっと柔らかいので、柔らかいうちにいろんな音を聞かせることに意味があると思うんです。だから言語という意味での言葉ではなく、"音"という観点での言葉に注目して作っています。

赤ちゃんって言語がわからないのに、すごく成長するじゃないですか。特に0歳児とか1歳児って、全身を使っていろんな情報を取得して、それを自分の糧にして、少しずつ階段を上がっていく。そう思うと、音というものが成長の材料として、すごく重要なんだろうなと思って大切にしています。

――その"音"を大事にされているなかで、番組では月替りで毎日同じ曲が流れる『つきうた』のコーナーがありますけど、どんなコンセプトで作られているんですか?

飯田 1ヵ月通して視聴することで、習得と成長があると思って。最初の週は赤ちゃんが「なんだこれは?」と、ジーっと見る。2週目になると、ちょっと体を揺らして見る。3週目になったら、自分も声を出してみようとする。

赤ちゃんや子供には童謡を聞かせるイメージがありますけど、耳が柔らかくて感性もまっさらな状態なので、できるだけ幅広いジャンルの音楽を聞いたほうがいいんじゃないかと思っています。そのなかで「うちの子はこういう曲に反応するのね」「意外と演歌が好きなんだ」みたいになればいいなと。いろんな芸術に触れさせて、感性の種を植えてあげるみたいな気持ちでやっています。

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――確かに童謡がいいとは限らないですよね。曲を作る際に意識されていることはありますか?

飯田 やっぱり赤ちゃんがどう受け止めるかなので、大人がいろんなことを言ってもしょうがないと思うんです。だからアーティストのみなさんには「作りたいものを作ってください」と。

前向きな気持ちで、自分は赤ちゃんにこういうものを届けたいんだっていう気持ちで作ってもらえれば、その気持ちがまっすぐ電波に乗って、赤ちゃんに届くと私たちは信じているので、基本的には自由に作ってもらっています。

ただ、少しテクニックの部分でお伝えしているのは、赤ちゃんは毎日それを視聴するので、成長が感じられるコンテンツにしたいと。例えばメインのメロディー以外のところに仕掛けを作っておくと、2週間3週間聞いたときに、先週までは気づかなかったけど、ここで「ビヨヨ〜ン♪」と変な音がしているなと発見するかもしれない。そういうギミックを散りばめてほしいとはお伝えしています。

――アーティストはどうやって選んでいるんですか?

飯田 まずジャンルを先になんとなく決めて、誰がいいかなっていうのを調べるんです。これがけっこう大変で、困っていると同僚が提案してくれることもあります。

それから男性ばかり、女性ばかりが続かないようにしたり、「〇月の歌」という形になるので、季節に合う人は誰かなと考えたり。そういうことを踏まえて声をかけさせていただいてます。

――そのラインアップが攻めているなということで、今回は取材をお願いしたわけですけど、例えば漁港はどういうきっかけでオファーしたんですか?

飯田 漁港さんは今年1月の歌を担当していただいたんですけど、新年の始まりだから、何かめでたいものを「ドカン!」とやりたかったんです。"めでたい"と魚の"鯛"をかけて、ぜひ1月にやりましょうとお声がけさせていただきました。

――詩人とも評される志人さんも意外な人選でした。

飯田 ご本人もお子さんがいらっしゃって、子供への眼差しがすごいあるかただと思ったんです。志人さんは普段、京都の山奥で「きこり」をされていて、Zoom越しでお話をしていても、精神世界の深さが伝わってくるかただったので、そういう人が子供にどんな歌を作るんだろう、きっと子供にも届く歌を作ってくださるだろうなと思ってお願いしました。

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――バンドじゃないもん!はどうやって選んだんですか?

飯田 どこかでアイドルというか、女の子のグループを絶対に入れたいと思っていたんです。そのなかでも、やらされている感じのアイドルではなくて、自分たちの意思を感じる人たちがいいなと思って、いろいろ聞いたなかで、セルフプロデュースで活動されているバンもん!さんにお声がけさせていただきました。番組の意図もしっかり汲み取ってくださって、曲の評判もすごくよかったです。

――子育てを経験していないアーティストでもOKなんですね。

飯田 そうですね。育児となると、子供のいる人ってなりがちですけど、そうではなくて。ある程度大人になると、自然と子供への眼差しというか、自分の子供じゃなくても、社会の一員として、次の世代に伝えていきたいメッセージって、誰しもあると思うんです。

特に創作活動されているかたは、課題として常に持っているものだと思うし、子供がいる人が子供のことを分かっているとは限らない。ポジティブに取り組んでくださるのであれば、どんな世代の方であってもいいと思っています。

――KEMURIも反響が大きかったんじゃないかと思います。

飯田 KEMURIさんは、イージーゴーイングな感じの楽曲だったので、絶対4月にハメようと思ったんです。4月は新しく保育園に行きだしたり、育児のなかでも環境が変わる時期で、環境に適応することに一生懸命になりがちなので、ちょっと気を抜いてあげたいと思って。結果的に非常に愛される楽曲になって、人気曲のひとつですね。

――KEMURIの楽曲では英語が使われていますよね。

飯田 音として言語を聞いてもらえればいいので、日本語の歌だろうが英語の歌だろうが、あんまり関係ないと思っています。

それこそボーカルの伊藤ふみおさんから「歌詞はどっちがいいですか?」と聞かれたんですけど、「日本語でも英語でも、混ぜていただいても構いません」とお伝えしました。もう好きに作って下さいって。突き放すわけではないですけど、とにかくいま作りたいものを作ってくださいとお願いしているので。

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――実際の子供の反応も気になるんですけど、意外なものはありましたか?

飯田 志人さんに作っていただいた『とっぴんぱらりのぷぅ』は、サウンドもビジュアルも、一瞬ちょっと怖い感じがあって、最初は泣いちゃったというコメントも多くいただいたんです。でも、聞けば聞くほど気持ちが落ち着いていく感じがあるみたいで、時間をかけて、きちんと習得されていった感じでした。

全部がニコニコで元気づけられる歌である必要はないと思っていて、怖くて泣いちゃうのはかわいそうだなとは思うんですけど、怖いと感じる感性も大切だと思うんです。世の中ハッピーなことばかりじゃないから、これは怖い感じがするとか、これは危険な感じがするから近寄らないでおこうとか、そういう感覚も本当は必要だと思うんですよね。

だから、そういうコメントをいただいたときも「怖いと感じたというお子様の感性を評価してあげましょう」って、ちょっと上から目線になっちゃいますけど、ひとつ成長の証だと思うんです。

――赤ちゃんが笑ったら正解というわけではない。

飯田 もちろん笑うのも正解。でも、泣くのも正解。怖がったら怖がったで正解。いろんな感性の種が育っていけばいいなと思っています。

――9月はまた志人さんが担当されていますが、なぜ再オファーされたんですか?

飯田 志人さんの楽曲は、去年いちばんの問題作ではあったことは事実で、賛否両論あって、私たちとしてはいちばん勉強になったコンテンツでした。

ただ、私自身すごく手応えがあって、映像は最後の手段さんが作って下さったんですけど、非常に芸術性も高く、去年の文化庁メディア芸術祭で賞(エンターテインメント部門・審査委員会推薦作品)をいただいたんです。赤ちゃんに幅広い、芸術性の高いものをお届けしたいと思っていたのが、賞という形でも認めてもらえたので、これが自信にもなったんです。

それで志人さんの精神世界の深さが、あの1曲に終始してしまうのはもったいない気がして。『とっぴんぱらりのぷぅ』は秋田の方言で「めでたしめでたし」という意味なんですけど、「めでたしめでたし」はお話で使う言葉で、お話には必ず続きがあるから続きをやろうと思ったんです。それも、できれば前回と同じ夏の時期にやりたいなということで、ご相談させていただきました。

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――今度はどんな曲になるんですか?

飯田 最初は『とっぴんぱらりのぷぅ』の続きみたいなイメージでお話ししていたんですけど、いろいろディスカッションするなかで、創作世界を広げていって......「宇宙」の歌っていう感じですかね。

――「宇宙」ですか?

飯田 9月はお月見があるので、「月」というキーワードがありながら、夏の星空から秋の星空に変わっていく時期ということから、「月」「星空」「果てしない宇宙」というようなテーマで作られている感じですね。またこれも問題作になりそうな予感はしています(笑)。

前回は少しおどろおどろしい感じもあったと思うんですけど、今回はもう少しふわっと、本当に宇宙にかかっているモヤみたいな感じの曲かなと思います。そのなかでも志人さんならではの独特の言葉の並べ方は残っていて、どういう反応が来るか楽しみですね。

――曲名は?

飯田 これがまた難しくて。手書きされているんですけど、「はてなしはてな」の後ろに「?」がついていて、それが「の」にも見えるんです。だから『はてなしはてなの』と『はてなしはてな?』、どちらにも受け取れるんです。

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――確かに難しいですね(笑)。番組開始から1年半経って曲数も増えたと思うんですけど、今後の展開として考えられていることはありますか?

飯田 去年、オンラインコンサートはやらせていただいたんですけど、やっぱりお客さんを入れてコンサートができたらいいなと思っていて。コロナが落ち着かないとできないですけど、次は"中の人"を見せたいというか、「それを歌っている人がいるよ」っていうのを見せたいんですよね。

ゆくゆくは、毎年『シナぷしゅ』の夏フェスもやりたいです。音楽好きのパパやママも、子供が産まれて、ある程度大きくなるまで、夏フェスから足が遠ざかっちゃうのはもったいないじゃないですか。『シナぷしゅ』の夏フェスだったら家族みんなで行ける。そういう場所を提供してあげられたらいいなと思っています。

――正解はないとは思うんですけど、番組を作っていくなかで、なんとなく見えてきた正解はありますか?

飯田 難しいですね......。夏フェスをやりたいと言ったのも、見えないけれどその向こうに誰かがいると思ってほしくて。世界の言語で「いないいないばぁ」をするコーナーも、言語を習得してほしいわけではなくて、こういう言葉を話す人がこの世のどこかにいるんだっていう、世界への漠然とした目線を持ってほしいんです。

お料理を作っている工程を見せるコーナーも「子供向けじゃない」と言われることもあるんですけど、赤ちゃんはご飯の時間になると突然テーブルの前に座らされて、目の前にドロドロになったものがドンと置かれて、「はい、食べて」って言われるわけじゃないですか。

だけど、あなたがいつも食べているものも誰か作っている人がいて、こうなってるんだよっていうのさえ分かれば、他人への眼差しが持てると思うんです。

赤ちゃんって、まずは自分が大事で、自分の存在が絶対ですけど、生きていくうえではいろんな人と関わっていかなきゃいけない。その自分以外の、誰かの存在が見えるコンテンツにするといいのかなと思ってます。でも、赤ちゃんへの正解は果てしないですね。もう「はてなしはてな」ですよ(笑)。

『シナぷしゅ』 ?TV TOKYO

●『シナぷしゅ』 
0歳〜2歳児をメインターゲットにした、民放初の赤ちゃん向け番組。東京大学赤ちゃんラボ・開 一夫教授の監修のもと、赤ちゃん目線を徹底して製作。毎週月曜日〜金曜日の7:35〜8:00(テレビ東京系列)、17:30〜17:55(テレビ東京ローカル)に放送。また、『シナぷしゅ』の由来となっている「シナプス」とは、脳の神経細胞と神経細胞のつなぎ目を意味する。脳の神経細胞は成長によって増えるのではなく、シナプスによってつながることで発達し、赤ちゃんにとっては欠かせない大切な存在。
公式Twitter【@synapusyu】 
公式Instagram【@synapusyu】 
公式YouTubeチャンネル『シナぷしゅch』

取材・文/田中 宏 撮影/五十嵐和博

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