『万引き家族』『パラサイト』『ジョーカー』『天気の子』......「格差映画」多発現象から読み解く、現代社会の闇

「『天気の子』は一番おとなしそうな映画に見えて、一番恐ろしいメッセージを持っている。『親の世代がやってきたことで子供たちが犠牲になる必要はないんだ』という話ですからね」と語る町山智浩氏

テレビにラジオに執筆に、旺盛な発信を続ける映画評論家の町山智浩氏。彼の映画評をひと言で表現すると、作品を孤立させない批評、となろう。

一本の作品を取り上げ、ほかの映画や文学作品との関係を教えてくれる。あるいは、それを生んだ社会との関係を。該博な知識に裏打ちされたその解説に、目から鱗(うろこ)の経験をした人は多いのではないか。

10月7日発売の最新刊『「最前線の映画」を読む Vol.3 それでも映画は「格差」を描く』でも、そのお手並みが存分に味わえる。行間からにじみ出る危機感付きで。

何しろ『万引き家族』(是枝裕和[これえだ・ひろかず])、『天気の子』(新海誠[しんかい・まこと])、『パラサイト』(ポン・ジュノ)、『ジョーカー』(トッド・フィリップス)など、ここ数年の話題作を取り上げつつ氏が相手取るのは、世界各地で深まる「格差」なのだ。町山氏に聞いた。

* * *

――本書では格差が描かれた作品を「体系的に横断的に論じて」(「まえがき」より)おり、一本の長編評論として読み応えがありました。この構想を得たきっかけをお聞かせください。

町山 『パラサイト』のポン・ジュノ監督がカンヌでパルムドール(最高賞)を受賞した直後にインタビューしたんですが、こんなことを言ってたんです。「この作品を撮っている頃に是枝(裕和)監督の『万引き家族』を見て、主人公の家族がよく似ているのに驚いた。

しかもアメリカではジョーダン・ピール監督の『アス』が公開されていて、これもふたつの家族が生き残るために殺し合うプロットがよく似ていて困った」と。別に示し合わせたわけではなく、それぞれの国の作家が一番大きな国内問題を取り上げたらそうなってしまった、と言うんです。

カンヌでは2016年の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(ケン・ローチ監督)、翌年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド監督)、そして是枝監督、ポン・ジュノ監督と、4年連続で貧困をテーマにした作品が受賞しています。これはまとめて論じておく必要があるなと思いました。

――映画の中で貧しい側からの"解決策"が描かれる作品もありますが穏当なものは皆無です。

町山 『ジョーカー』の「キル・ザ・リッチ(金持ちを殺せ)」運動をはじめ、暴力に訴える展開になりがちです。ポン・ジュノ監督は「金持ちを殺すエンディングになること自体が悲劇なんだ。それを避けないと」と模索している様子でしたが。

――本書は社会状況との関連に加え、町山批評のもう一本の柱である映画史上の関連や技法への目配りも行き届いており、「そうだったのか!」の連続でした。技法に関して核となるのが「人生を引きで撮れば喜劇になるし、寄りで撮れば悲劇になる」というチャーリー・チャプリンのテーゼです。

町山 この言葉を最初に意識したのは、ダルデンヌ兄弟が『ロゼッタ』(1999年)を撮ったときでした。貧しい少女が職を得ようと悪戦苦闘する映画を、彼らは「最初はコメディにしようとしていた」と言ってたんです。

「何を言ってんだ?」と思ったけど、考えてみれば撮り方次第では、なるほど、コメディにもなる脚本なんですね。チャプリンはそれをロングショット(引き)で撮って、コメディにしたわけで。

トッド・フィリップスもコメディをやってきた監督で、『ジョーカー』についても「基本的にはコメディのつもりで書いて、撮り方を変えた」と言ってました。ホアキン・フェニックス扮(ふん)する主人公の涙やつらい表情、これはクローズアップ(寄り)でしか撮れません。

――喜劇と悲劇は表裏一体、撮り方次第なのですね。

町山 はい。『ジョーカー』は完全にシリアスなほうへいき、是枝監督は絶妙なバランス感覚で深刻さの中に美しさや笑いを入れてくる。『パラサイト』は前半コメディで後半シリアス、とひとつの作品の中でも切り替えています。

クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』は、貧しさに美しさを見いだしちゃって深刻さが伝わってこない。監督の資質と撮り方で、同じテーマでもこれだけ違うんです。

――格差を告発するこれらの作品は、見るべき人の元に届いているのでしょうか?

町山 『ジョーカー』はアメリカでも日本でも大ヒットしたでしょう? 反社会をテーマにした映画がこれだけのお客さんを集めたのは、不満や怒りがどこかにあるからだと思います。スーパーヒーローは見たくないのか、という感じで(笑)。

『パラサイト』も『万引き家族』も、貧しい人たちがなんとかしてリッチになろうとしたり、ぎりぎり生きようとしている話ですが、興行的に大ヒットしている事実に希望を感じます。

――一方、犯罪を描いているというだけで批判する"違反アレルギー"のような人も多いです。

町山 そうなんです。『パラサイト』も『万引き家族』も、ズルだ、犯罪だ、こいつら許せんと怒る人は大勢いました。貧困を生み出す社会には怒りが向かないんですね。

しかし格差は自然現象ではありません。福祉を切り、富裕層に減税し、という政策を取る政治家を選んだ結果です。日本、アメリカ、韓国など、皆そうです。その結果がこの社会です。ということは、「変えようと思えば変えられるんだ」と考えてもらえたらうれしいです。

――唯一のアニメ作品『天気の子』の章が最後に置かれていますね。「まえがき」から通読すると、天まで上がって「世界を変えてしまう」あの物語の大逆転感が際立つ、文字どおり天晴(あっぱれ)な構成で感動しました。

町山 ありがとうございます。格差ともうひとつ、大人たちの選択がもたらした大問題に、温暖化・異常気象があります。新海誠監督は日本的な、和歌や俳句の世界観をアニメで表現しようとしてきた方なので、なおさら気候の問題は見過ごせなかったのでしょう。

逃げずに向き合ったのはすごいと思いますよ。そして、一番おとなしそうな映画に見えて、一番恐ろしいメッセージを持っています。「親の世代がやってきたことで子供たちが犠牲になる必要はないんだ」という話ですからね。

主人公の男の子たちは、おそらく最初から貧富の差が激しいところに生まれたから、豊かさも、贅沢(ぜいたく)も知らない。その分、『パラサイト』の父親と違って負けた経験さえないから卑屈にならず、「愛にできること」の側に立てる。そこに可能性を見ている作品だと思うので、最後にしました。やっぱり最後は希望を感じてもらいたいから。

●町山智浩(まちやま・ともひろ)
1962年生まれ、東京都出身。映画評論家、ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。『宝島』『別冊宝島』などの編集を経て、95年に雑誌『映画秘宝』を創刊。その後、アメリカに移住。現在はカリフォルニア州バークレーに在住。TBSラジオ『たまむすび』、BS朝日『町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN』レギュラー。著書に『最前線の映画を読む』『映画には「動機」がある』(共にインターナショナル新書)などがある

■『「最前線の映画」を読む Vol.3 それでも映画は「格差」を描く』
インターナショナル新書 990円(税込)
グローバル化とコロナ禍で加速度を増す「格差」と「貧困」を、世界の名監督たちは作品の中でどのように描いてきたのか? 本書では『パラサイト 半地下の家族』『ジョーカー』『ノマドランド』『アス』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』『バーニング 劇場版』『ザ・ホワイトタイガー』『ロゼッタ』『キャシー・カム・ホーム』『わたしは、ダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』『万引き家族』『天気の子』の13作を著者ならではの視点で鮮やかに論評する
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取材・文/前川仁之

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