あのマックスむらいが語る"ユーチューバ―曲がり角問題"「今は『パイの奪い合い』になってるんです」

マックスむらい氏。AppBank株式会社の社長室にて。レアな旧デザインの「金の再生ボタン」。新デザインのものに比べ重いとか

「好きなことで、生きていく」。2014年に打ち出されたCMのキャッチコピーどおり、楽しそうに大金を稼ぐスターを生み出してきたYouTube。しかし、そんなYouTube業界に陰りが出ている。チャンネル登録者が数十万人いても再生回数が伸びないユーチューバーが続出しているというのだ。

マックスむらいさんは登録者が144万人いるが、最近の動画の再生回数は1万回前後。黎明(れいめい)期から過酷なユーチューバー業界を生き抜いてきた彼に、YouTubeの過去、現在、未来について話を聞いた。

■YouTubeがまだ発展途上だった頃

――今YouTubeで起きていることを知るために、まず、その歴史を知りたいと思います。マックスむらいさんはYouTubeへの動画投稿を2013年に始めていますが、当時のYouTubeの状況を教えてください。

むらい 今のようなメジャーなプラットフォームではなく、どちらかというと、テレビ番組などの違法アップロード動画も多くてテレビ局を筆頭に各企業が「どう対策したらいいんだ?」と頭を悩ませているような場所でした。そもそも世間的には「動画を配信して稼ぐ」という発想はまったくなく、なんなら「顔出し動画をネットに出すなんて、それで犯罪に巻き込まれたら......」なんて考え方が主流だった時代でした。

――むらいさんはそんなYouTubeにどうして飛び込んだのですか?

むらい 実は私、能動的にユーチューバーになったのではなく、YouTube JAPANからオファーが来たから始めたんです。

――YouTube側にお願いされたんですか!?

むらい 当時は、まだまだGoogleが一生懸命クリエイターの発掘をしていた時代でした。そもそも「ユーチューバー」という言葉も浸透していなかったように記憶しています。

当時、私はすでにスマホアプリを紹介するAppBankという会社の代表で、主にブログやSNSをメインに活用していたんですけど、「ブログ記事でやってることを動画でやっても面白いかも?」と思い、ノリで動画にし始めたんです。

最初はニコニコ動画内のニコニコ生放送でスマホゲーム『パズル&ドラゴンズ』のゲーム実況をやっていました。そこで、月に一度行なっていた「降臨戦」と称したイベントの配信がヒットして。

最大瞬間風速でいうと、1、2時間の配信で累計視聴者数が50万〜100万人くらい。おそらくニコニコ生放送の歴代視聴者数のトップ10はいまだにほとんどが私だと思います。

それを見たYouTubeJAPANから「ウチでもやってくれないか」って来たんです。海外のYouTubeにはゲーム実況者がいたんですけど、日本にはいなかったんです。で、ニコニコ生放送でやっているコンテンツはドワンゴさんとの兼ね合いもあるので、「日常的なゲーム配信だったら」というところから、YouTubeで配信を始めました。それが2013年10月のことです。

――そして一気にトップユーチューバーに?

むらい 日常的な空気感が思いのほかウケて、とんでもないヒットになりましたね。当時上がっていたほかの動画は短いものが主流で、ゲーム実況のように長いコンテンツを上げているのは私くらいだったんです。

だから日本国内の再生時間の半分を私の動画が占めていました。私の動画の一日の合計再生時間が「何百年」と算出される状態。世界ランキングでも上位だったと聞いています。

――当時から視聴者の年齢層は、やはり子供が多かったのでしょうか?

むらい HIKAKINさんのイメージで「ユーチューバーは子供に人気」と思われるかもしれませんが、当時は子供が少なかったです。イベントを開催すると、20代後半から50代がよく来てくれた印象です。ファンとの交流も飲み会だったりと、基本的には大人が中心でした。

――その時代のユーチューバー同士の空気感は?

むらい 今みたいにコラボをするような和気あいあいとした感じではなかったです。もっと「個」だった。というのも、当初は再生回数に対する広告単価が今より全然低くて、事務所をつくったり組織を組んでやるようなものじゃなかった。今のYouTubeはひとつのビジネスとして活用されるイメージがありますが、当時は好きでやっている人が多かった。そんな時代でした。

――そして2014年にYouTube JAPANのCM「好きなことで、生きていく」が鮮烈な印象を残しました。そこからユーチューバーという職業がスターに?

むらい いや、まだ「新しいことをやっている人たちがいるな」くらいの感じだったんじゃないですかね。職業として認められ始めるのは「ユーチューバー=お金持ち」というイメージが出てきた2017年くらい。

ヒカルさんの登場まで待たないといけません。「将来なりたい職業」にユーチューバーがランクインするのもこの年だったはず。まだまだなんだかよくわからない人たちで、「確定申告の肩書をどうすればいい?」なんて悩んでいるクリエイターもけっこういました(笑)。

HIKAKINさんだって今みたいに数千万円の時計を買うような動画はやってなかったし、最近の若いユーチューバーのように「数百万の家具を買いました!」だとか「家賃何十万のタワマンに引っ越します!」みたいな時代ではありませんでした。

私に関していえば、15年に会社が上場して「資産100億超え!」みたいにメディアに書き立てられて、悪目立ちしちゃったんですよね。「ゲームで遊んでいるだけのおっさんが......」と反感を買ってしまった。

■視聴者数は数年前に頭打ち

――ここまで右肩上がりなYouTubeですが、だんだんと動画が伸びなくなるチャンネルも出てきます。終わったコンテンツ、略して"オワコン"と呼ばれる人も。

むらい 私は言われすぎてもう何も感じないです(笑)。最近もテレビの深夜番組に呼ばれて「数年前のむらいさんは数百万回再生! でも今は......」なんてイジられましたけど、全盛期だと呼ばれる時期でも毎日のように「オワコン!」って言われてましたし、歌舞伎の「中村屋!」とかのかけ声と同じなんですよ。そう言われて傷つくユーチューバーは多いと思いますが、まじめに受け止めてしまうと潰(つぶ)れてしまいますからね。

言い訳に聞こえるかもしれませんが、今は事業に十分時間を割いた上で、好きだから動画投稿を継続しているんです。私がまた動画で本気を出し始めるのは、会社で自走するような事業が立ったとき。そのタイミングでドン!とファンを巻き込んで、成長速度を高めて盛り上げようと思っています。

――では、ほかの方々は?

むらい 大手でも軒並み再生回数がどんどん落ちていると聞きます

――それは、ユーチューバーという文化が曲がり角に来ているということでしょうか?

むらい 「数年前に視聴者数のピークは来ていて頭打ちになった」というとらえ方のほうが正しいと思います。つまり、クリエイターによる視聴者の時間の取り合い、パイの奪い合いのフェーズに入った。コロナ禍をきっかけに芸能界からの参入もあったりしてそれがより激化した印象です。

――どのエンタメ業界でも消費者の可処分時間がキーワードになっています。

むらい 何年も前から「ソーシャルゲームのライバルは動画」といわれているように、いかにユーザーを動画からゲームに持ってくるか、"画面"を奪えるかという考え方になっている。

――では、ピークを迎えたということはここから下り調子になっていく?

むらい それもないでしょう。もうすでにひとつの暇潰しの娯楽として定着しているから、たとえコロナが明けて自宅時間が減ったとしても廃れないと思います。クリエイター側としても、結局のところ収益を還元するプログラムという意味でYouTubeを超えるものが今のところ出てきていない。

つまり、TikTokにせよインスタグラムにせよ、Twitterにせよ、どこでバズっても全員最終的にYouTubeに来るんですよ。そういう受け皿としての機能が強いんです。

――マネタイズのゴールとしてYouTubeがある、と。

むらい この流れは当面は変わらないんじゃないですか。本当に優秀なプラットフォームだと思います。

「結局のところYouTubeを超えるような収益を還元するプログラムがない。それだけ優秀なプラットフォームなんです」

――そのなかで伸ばしたくても伸びないユーチューバーたちはどうすればいいのでしょう? アパレルブランドやお店を手がける人もいますが、そういったサイドビジネスので食いぶちをつくるとか?

むらい あれは儲かっていないでしょう。儲かっていたとしても、ユーチューバーではなくそれをオファーしている企業ですよ。だって5000円の洋服が1000着売れたところで入ってくるお金なんて想像つくじゃないですか。人気ユーチューバーなら動画1本撮ったほうが全然実入りがいいです。あれは「アパレルがやりたいから」やってるんじゃないですかね。

まあコロナ禍で増えた芸能人のチャンネルのコンサルティングの需要とかはあります。コンサルを請け負っている中堅ユーチューバーは多いと思います。ただ、これも長くは続かないでしょうね。芸能人のチャンネルも結局更新が止まってしまうケースも多いですし。

でも正直、伸びないユーチューバーの苦しみもたかが知れてると思いますよ。彼らは毎月数百万入ってくるけど「厳しい」と言ってるわけですし。

――え!? そう言われると、あまり心配しなくてもよさそうな......。

むらい 急に大金を手にしてしまった結果、身を持ち崩す若いクリエイターもなかにはいます。登録者数10万人くらいで同年代のサラリーマンたちの数倍の手取りを得てしまう。それが、再生回数が下がったり流行が変わったりして、落ちた収入に対して金銭感覚が戻らないまま、クレジットカードを使って破産してしまった人も少なからずいます。

――それは芸能界でも昔からいる一発屋の話ですね。

むらい 私はずっと会社勤めの人間なので、そういうイケイケの若者たちの金遣いの荒さを見て「君たち! 良くないよ!」なんてオヤジくさい説教したり......(苦笑)。

――大人の優しさだ......。

むらい かつてのように伸びないというチャンネルは、「ニッチなジャンルの6番目」くらいを目指せばいいんですよ。YouTubeってそういうニッチなジャンルでも10番目くらいまでは飯が食えるので。

数字を落としても、「ゲームが好きだから」「動画が好きだから」となんだかんだでやり続けたユーチューバーが今でも生き残っている。本人が企画も撮影も編集もやっていることが多いので、やりたい」と思ったらやり続けることができるんですよ。

――趣味のニッチジャンルで生活する。それはまさに「好きなことで、生きていく」ですね。

●マックスむらい(Max MURAI)
1981年生まれ、石川県出身。本名、村井智建(ともたけ)。2008年にスマホアプリ紹介に特化したメディア『AppBank』を開設、12年に法人化。現代表取締役CEO。パズドラなどのソーシャルゲームの実況動画などで活躍。チャンネル累計再生回数は約20億回

取材・文/藤谷千明 撮影/鈴木大喜

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