「ブルーインパルス」の描いた五輪を覚えていますか? 東京上空を飛んだ6機のパイロットたちが見たモノとは?

東京上空にブルーインパルスが予行で飛んだのを、東京スカイツリーから柿谷カメラマンは撮影した(2021年7月21日)
覚えていますか? 今からちょうど1年前、東京上空で空自(航空自衛隊)の「ブルーインパルス」が五輪を描いたことを。さらに遡ることその1年前の2020年、新型コロナウィルスの影響で東京五輪が延期となり誰もが落胆するなか、「ブルーインパルス」が国民の想いを背負って大空に五輪を描いたことを。

東京五輪開会式で、ドンピシャの時間と地点に五輪を描くブルーインパルス。それを東京タワーから見るとこんな風景だった(2021年7月23日)

あの時「ブルーインパルス」のパイロットたちはどうやって東京上空を飛んだのか? 拙著『青の翼 ブルーインパルス』からその様子を再現します。

ブルーインパルス6機が、東京を飛ぶ時、ほかの空自機はもちろん、米軍機も飛ばない。さらに、羽田空港を含めた民航機、民間機も1機も飛ばない。唯一、取材のために報道各社の機体だけが飛行する。2020年5月29日、五輪は1年延期となった。しかし、新型コロナの医療従事者等ヘの感謝飛行で、ブルーインパルスは東京上空を飛んだ。

その時、平川通三佐は1番機後席ナビゲーターとして飛んだ。

「東京上空を飛ぶという喜びと同時に怖さを感じました。もしも、報道ヘリが近くに来ても、こちらから離れろとは言えません。そんな権限はないんです」

五輪を描き終えたブルーインパルスは、スカイツリーをフライバイするなど、東京上空を凱旋飛行した。東京タワーから撮影(2021年7月23日)

最初に決めたのは安全高度だ。

「算出基準は東京スカイツリーの高さが634メートルだったので、3000フィート(914メートル)にしました」(平川三佐)

だが、車で走るのではない。

「『この病院の上空を飛んでくれ』とか、いろいろ指定されたんです。特定の病院を空から見つけて、ピンポイントで行くのはかなり困難なのです。(中略)飛行ルートが公表されましたが、個別の病院名まで示されませんでした。高度3000フィートで飛べば、指定された病院から見えるだろうということになったのです」(平川三佐)

2021年7月23日の五輪開会式の展示飛行の時の目標は巨大な国立競技場なので、その心配はない。しかし、1番機を操縦する第11飛行隊隊長・遠渡裕樹二佐には、別の心配があった。

「離陸して30秒後に東京方面を見て、これから飛ぶ高度帯に雲はかかってなかったので、『これならいける』と思いましたね」

雲が、最大の難敵なのだ。巨大な国立競技場は見つけやすいが、一秒も違わず正確な時間に到着して五輪を描かなければならない。1番機後席にナビゲーターとして乗った名久井朋之二佐はこう言う。

「われわれはいくらでも対応できるんですよ。新宿から西に向かって競馬場上空で左旋回するわけですが、ここで国立競技場までの距離を縮めたり伸ばしたりして時間調整できます」

ブルーインパルスは6機から構成され、全員、空自戦闘機パイロットが操縦する

競馬場上空で左旋回して、最終時間調整コースに入る。

「前席の遠渡隊長に『正面、競技場見えると思います』と伝えると『見えた』と隊長の応答がありました」(名久井二佐)

五輪の青色を担当する3番機・鬼塚崇玄一尉は言う。

「3番機の自分はライトウイングで1番機と6番機を見ながら飛んでいるのであまり前を見て飛んでいるわけではないんです」

各機の間隔は僅か90cm、精確な操縦テクニックが要求される

前方の安全確認は遠渡隊長が担当、周辺警戒は、五輪で緑色を担当する4番機・永岡皇太一尉の役目だ。

「ほかの飛行機が周囲にとんでないか、編隊の見張り役としてずっと注意していました」

もし、1番機後席のナビゲーター名久井二佐のGPS機材が故障した場合、進路誘導はどうするのか、五輪の黄色を担当する6番機・真鍋成孝一尉は、こう言う。

「地上の目標物が頼りです。事前に飛行ルートを地図上に描いて、地形目標を頭に入れてありました。ここの上空からは東京駅が正面に見えるとか、目標物を覚えたらグーグルアースの航空写真で地形を記憶しました」

ブルーインパルスが使用する航空機は、1988年に運用開始したT4中等練習機。デジタルの塊り、第四世代機F2飛行隊から来たパイロットは、T4のアナログさに驚く。将来、第五世代F35Aステルス戦闘機からブルーに来たパイロットはもっと戸惑うに違いない
6機編隊で万全の態勢をとるのがブルーインパルスだ。そして、五輪は時間、場所がピッタリで見事に描かれた。その後、東京上空をビクトリーランのように飛行した。東京タワー、スカイツリーの近傍を、カラースモークを噴出させながら飛行するブルーインパルスを目撃した方々は多い。
 
一方、上空の遠渡隊長は羽田空港を見て一瞬息を呑んだ。

「運行中の旅客機がすべて地上待機させられていて、1機も離発着していない。これは本当に国を挙げての一大イベントになっていると思いました」

ブルーインパルスのパイロットたち。闘志と個性溢れる面々だ

隊長は息を呑んでいたが、4番機の永岡一尉はお気楽だった。

「まー、東京観光を兼ねて飛びました。その時点でちょっと気持ちが落ち着いて周囲を見る余裕もありました。最高の眺めでしたよ」(4番機・永岡一尉)

あれから、一年、五輪は無事に終わったが、新型コロナは終わらない...。

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東京の空に五輪を描いた男たち──。ブルーインパルスの空自戦闘機パイロットたちの知られざる苦難と栄光の日々を描いたノンフィクション!

取材・文/小峯隆生 写真/柿谷哲也

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