「ギスギスする議論」から逃げずに考え抜くためのハーバード流"一丁目一番地"

「ギスギスする議論」から逃げずに考え抜くためのハーバード流"一丁目一番地"

「面倒くさくても、前提を疑い議論すること。今はとりわけそうした姿勢が必要な時代なのだと思います」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、社会を前進させるために必要な、ハーバード流"一丁目一番地"の大原則について語る。

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3月初旬にトヨタ自動車の公式ツイッターアカウントが、女性ドライバーに向けて「やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」と投稿し、炎上したというニュースがありました(同社は投稿を削除・謝罪)。

この件に関して、僕も木曜レギュラーとして出演している情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)内でのやりとりがいろいろと興味深かったので、少し紹介したいと思います。

僕は出ていない曜日でしたが、出演者の多くは「これで炎上してしまうのは過剰では?」という論調で、番組が行なった女性100人への街頭調査でも、81%が「(トヨタの設定した質問は)偏見ではない」と回答したことを紹介。

それに対し、ひとり反論していたのがコメンテーターのロバート・キャンベルさんでした。「やっぱり」という言葉から始まるこの質問には、女性に対する偏見が含まれているという意見です。

ちなみに、このやりとりはネットニュースとしても拡散され、まとめサイトではキャンベルさんではなく、間違って僕の画像が張られるという"事件"も発生しました。同じハーバード大学にいたことのあるアメリカ人ということで、間違える人も多いのですが......(苦笑)。

僕は今回の件で、あらためてキャンベルさんの議論の誠実さを確認しました。彼のディベートの進め方は、ハーバードで最初に必ず習う――というより、まるで新兵訓練(ブートキャンプ)のように徹底的に叩(たた)き込まれる基本そのもの。ここをクリアしないと、その先に進むことはできないのです。

"一丁目一番地"の大原則は、「安易な一般化をするな」。やっぱり女性は運転が苦手......という、その前提のゆがみを疑えということです。

日本の高校を卒業してハーバードに入った僕は、当初この手のディベートが本当に苦手で、特に性差に関する議論にはものすごく違和感がありました。先生は、「女性はこういうもの、という前提を一切排除してファクトだけで議論しろ」というけれど、現実的に女性と男性では違うとしか思えない部分も多い。

ならば、社会的な役割が違っても当然だろう。すべてを相対化し、フラットな議論をしても息苦しくなるだけじゃないか......と。当時はまだ「ポリコレ」という言葉はほとんど聞きませんでしたが、今でいう"ポリコレ嫌いのオヤジ"そのものの意見ですよね。

だからこそ今回の件で、僕はあの苦しいディベート訓練を思い出し、キャンベルさんが今も実直にその基本を守っていることに感銘を受けたのです。安易な一般化をするな。結論に飛ぶな。常識(みんなそう思っている)や受け売り(誰かがそう言った)、感情(そんなこと言ったらギスギスする)に逃げるな......。

新しい価値観が生まれそうなとき、もしくは言語化されていないものに名前が与えられ、議論の対象になったとき、多くの人はひどく不快に感じるものです。しかし、今皆さんが当たり前のように共有している価値観や美意識が"共同幻想"にすぎないとしたら、どうでしょう。

それに違和感を覚え、なんとか議論の俎上(そじょう)に載せようとしている人のことを「面倒くさいやつ」と切り捨ててしまっては、社会は前進しません。面倒くさくても、前提を疑い議論すること。今はとりわけそうした姿勢が必要な時代なのだと思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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