豪雨被災地の"土砂崩れ危険地域"が放置されるワケ

豪雨被災地の"土砂崩れ危険地域"が放置されるワケ

福岡県北九州市門司区奥田地区では「平成30年7月豪雨」で大規模な土砂災害が起き、2名が亡くなった

今年もまた豪雨による水害や土砂災害に襲われている日本列島。6月末から7月初旬にかけて、九州南部では、避難勧告・指示の対象が実に190万人を超えた。梅雨明け後も、台風などの動きに全国的な警戒が必要だ。

豪雨被害は、その後何年にもわたる爪痕を残す。特に、行政から「土砂災害特別警戒区域(通称レッドゾーン)」に指定されている土地の持ち主が、まさに八方ふさがりの状態になってしまうことはあまり知られていない。

ちょうど1年前、死者224人、行方不明者8人の惨事となった「平成30年7月豪雨」で、最初に大きな土砂災害を経験した福岡県北九州市門司(もじ)区奥田地区のある住民が言う。

「当時、私が所有する裏山が崩れて家に土砂が流れ込み、命は助かりましたが家屋は部分損壊しました。さらなる土砂災害が怖くて家には戻れず、現在まで高齢者用賃貸住宅に避難したままです。

市と県からは『災害見舞金』として4万5000円、『義援金』として17万円をいただき感謝していますが、土砂・瓦礫(がれき)の撤去については行政が一部費用を負担してくれただけ。再発防止策まではとても手が回らず、元の生活には戻れません」

この点について、福岡県は「決まった予算内で、基準以上の被害が出た場所には斜面保護のための法枠(のりわく)工事をやる計画だが、ほかの場所は砂防ダムなどを造る計画はない」(県土整備事務所)、北九州市は「要件に合致すればやるが、民間の土地の原状回復は所有者(の負担で行なうこと)が原則」(危機管理室危機管理課)と答える。

とはいえ、年金暮らしの高齢者に大金を投じて砂防ダムなどの予防措置を講じる余力などあるはずもない。かといって放置されたままでは、自分の所有する山林などが豪雨などによって再び崩れた際、周辺の住宅にまで被害が及んでしまう危険性もある。

前出の被災者からは「土地を無償で国や自治体に譲渡してもいいから、二次被害を防いでほしい」と悲痛な声が聞こえるが、実はそれさえも実現が難しいのだという。木崎法律事務所の木崎良平弁護士が解説する。

「民法239条2項に『所有者のない不動産は、国庫に帰属する』とありますが、土地の所有権放棄について定めた条文はありません。遺産相続の場面であれば、相続人が相続放棄の手続きをすることも考えられますが、そのケースでも基本的には土地・家屋だけを選んで放棄することはできず、金銭や有価証券、物品などすべての相続財産を放棄する必要があります」

しかも、レッドゾーンに指定された土地は、災害の危険性が高いため民間での不動産取引はほぼ不可能。つまり、生きている間は土地を手放せないのだ。それどころか家屋の建て替えでさえ、厳しい条件が課される。同地区の別の被災者はこう嘆く。

「避難して年金で生活しているのに、住めないし再建もできない住居の固定資産税を取られ続けるのはつらい」

山地が多く、国土の約7割を森林が占め、さらに高齢化・過疎化が急速に進行する日本において、これは今後、全国どの場所でも起きうる問題だろう。政府は防災・減災を目標とする「国土強靱化基本計画」を掲げているが、まずは目の前の被災者支援について、行政がよりきめ細かな対応に取り組むべきではないだろうか?

写真/時事通信社

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