小島慶子の今週の気になるコト――笑いは「武器」になる。吉本興業が「教育」をやる危うさ

小島慶子の今週の気になるコト――笑いは「武器」になる。吉本興業が「教育」をやる危うさ

人が笑うのは必ずしも幸福なときとは限りません

振り込め詐欺グループの宴会に参加して金を受け取ったなどとして吉本興業から契約を解消された宮迫博之氏と、謹慎処分を受けた田村 亮氏の記者会見を受けて、吉本興業の岡本昭彦社長が、7月22日に記者会見を行なった。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

* * *

人が楽しげに笑うのを見るのはいいものです。笑いは平和や幸せの象徴でもあるし、笑って暮らせるって最高ですよね。では、人を笑わせることができるなら何をしてもいいのか。どうも吉本興業はそう考えているようです。契約書がなくても、芸人にまともな報酬を渡さなくても、パワハラがあっても問題ではない、だって俺たちは笑いを生み出すファミリーなんだし、と。

宮迫博之、田村 亮両氏の涙の謝罪・告発会見、それに続く所属芸人たちの怒りの声、説明になっていなかった幹部の会見。組織として反社会勢力との関係はあったのか、幹部によるパワハラはあったのかなど、疑惑はいっこうに晴れません。連日まったく笑えない状況が続いていますが、そんな吉本興業は今や教育やSDGsも手がける大企業です。

大ア 博会長は今年4月、「吉本は教育の会社になる」と宣言し、NTTグループと組んで教育関連コンテンツの配信を行なうプラットフォームを立ち上げました。これには官民ファンド「クールジャパン機構」が最大100億円を出資するとのこと。

今回のありさまを見ていると、子供たちに「理不尽な環境には笑って耐えよ、大人の恫喝(どうかつ)は愛」ってな教育をするのではないかとつい悪い想像をしてしまいます。

人が笑うのは必ずしも幸福なときとは限りません。相手をおとしめて面白がる笑いもあるし、傷つけられても孤立を恐れて作り笑いをすることも。

自分を笑わせてくれる相手には油断をするものですから、面白い人気者がやることにはついみんな賛同したり逆らえなくなったりします。笑いは相手を自分の思うままにするための強力な武器でもあるのです。そんな笑いのパワーを権力者が利用しようと考えることもあるでしょう。

さて吉本興業はSDGsの周知ビジネスにも力を入れています。SDGsとは国連が2030年に向けて掲げる持続可能な17の開発目標。貧困をなくし、教育を行き渡らせ、資源を守り......など17項目にわたる目標があり、日本政府も総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」なるものをつくって取り組んでいます。

その周知イベントなどに吉本興業は精を出しているのですが、17の開発目標の8項目目は「雇用と経済成長」です。これには搾取されたり危険な目に遭ったりすることのない、人間らしい働き方の実現も含まれています。儲かるからといって理不尽な働かせ方をしてはならないのです。

吉本興業のサイトにはSDGsの活動として町おこしや環境問題の周知イベントの様子が載っており、笑いにあふれるイベントであることをアピールしていますが、8項目目はどうするのかな。触れないつもりかな。

笑えればいいじゃないか、でお金が動いて、本心からの笑顔が消える国にならないよう、ここは真顔で真相究明を望みます。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

関連記事(外部サイト)