小島慶子の今週の気になるコト――芸人の人種差別発言、自分には遠い話ではなく...

小島慶子の今週の気になるコト――芸人の人種差別発言、自分には遠い話ではなく...

一度でも人種差別を経験すれば、差別をする人間の態度がどれほど醜悪であるかわかります

お笑いコンビ「Aマッソ」がプロテニスプレーヤー大坂なおみの肌の色をネタにしたのに続き、吉本興業所属の「金属バット」も黒人差別発言を繰り出して炎上――。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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大坂なおみ選手の肌の色を笑うネタについて謝罪文を公表したワタナベエンターテインメントのコンビ芸人「Aマッソ」に続き、今度は吉本興業のコンビ「金属バット」がHIV陽性者や黒人を差別するネタで批判されました。

しかし、「なんで?」と思っている人もいるようです。見た目も立場も「普通の」日本人で、ずっと日本で暮らしていて、人種差別を身近に感じたことが一切ない人にとっては、黒人差別ネタなんて誰だって冗談だとわかるんだから騒ぐことないじゃないかと思うのかもしれません。

なかには「黒人の友達がいるわけでもないのに差別だと騒ぐのはいかがなものか」という意見も。「私は黒人の友達がいないから、黒人差別をおかしいと言える立場にない」と言ったら、単に人種差別を容認していることになります。不思議なのは、なぜこうした意見の人たちは、自分は人種差別とは遠いところにいると思っているのかということです。

海外生活経験者には、黄色人種に対する差別を受けたことがある人も少なくないでしょう。私は、白人至上主義だった頃のオーストラリアで生まれました。生まれたばかりなのにひとりだけ、新生児室の外の真冬の廊下に寝かされていたそうです。紫色になって凍えているのを見つけた母が看護師に猛抗議をして、やっと室内に寝かせてもらえたのだとか。

私は、その病院でたったひとりのアジア人の赤ん坊でした。オーストラリアには、ヨーロッパからの入植者が先住民を殺戮(さつりく)したり、アジアやメラネシア系移民を排斥した過去があります。1972年当時には、第2次世界大戦中に敵国だった日本人への敵意をむき出しにする人も珍しくなかったそうです。

オーストラリアはその翌年から多文化共生へと舵(かじ)を切り、1975年には人種差別禁止法が成立。幸い、今は生活していてあからさまな差別を受けることはありません。それでもまだアジア人を冷たい目で見る白人の高齢者もいます。

特にアメリカのトランプ政権誕生以降は、オーストラリアでも人種差別的な発言をする議員が増えたりと、マイノリティにとっては気がかりな空気があります。人種差別は自分ごとです。いつ排斥され、攻撃されるかわからない少数派にとっては「人種差別はいけない」は大げさな話ではなく、命に関わる大事なルールなのです。

一度でも経験すれば、差別をする人間の態度がどれほど醜悪であるかわかります。目つき、言葉つき、醸し出す空気、すべてがグロテスクで、無知と悪意がむき出しなのです。侮辱された怒りと悔しさと共に、自分は絶対にああはなるまいという思いが自然と湧いてきます。

「差別はいけない」はお説教でも意識高い系のお題目でもなく、現実の世界で人の生き死にがかかった問題だということをどうか忘れないでほしいです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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