「ウチの球団(地域)に来て欲しい!」指名を巡り本家に負けない盛り上がりの『南九州移住ドラフト会議』とは?

「ウチの球団(地域)に来て欲しい!」指名を巡り本家に負けない盛り上がりの『南九州移住ドラフト会議』とは?

本家さながらの真剣な表情で重複指名のくじ引きを引く監督

17日、2019年プロ野球ドラフト会議が行なわれるが、それに先立ち、6日に鹿児島市で開催されていたのが「南九州移住ドラフト会議」だ。誰でも参加でき、指名を受けられるというが、いったいどんなイベントなのか。

「『南九州移住ドラフト会議』は業界最大の"コント"です! 大人が一丸となってふざけ倒すイベントなんです!」

そう力強く話すのは同事務局のコミッショナー・田鹿倫基(たじか・ともき)氏。余計何なのかわからないが詳しく聞いてみると、移住する側と移住を受け入れる側のマッチングイベントに近いようだ。

■移住イベントなのに移住は望んでいない?

「移住者を受け入れたい地域を『球団』に、移住希望者を『選手』に見立て、プロ野球のドラフト会議と同じように球団が選手を指名するイベントです。もちろんプロ野球と同じように、あくまでも独占交渉権を得られるだけで移住する必要はありません(笑)」

同イベントは2016年に始まり、今回で4回目。去年までは鹿児島、宮崎の地域が参加していたが、今年から熊本の4チームが参戦。日向市(宮崎)や宇城市(熊本)など人口5万人前後の市から、五木村(熊本)や三島村(鹿児島)といった人口1000人、もしくはそれ以下の村など12地域が参加した。

2014年には国が「地方創生」を訴え、急速な人口減少で破綻する可能性の高い「消滅可能性都市」も発表された。特に人口の半数以上が高齢者となっている「限界集落」では、移住促進を緊急課題としてあげていることも多い。

しかし、このイベントの前提にあるのは「移住しなくていい」という点だ。同事務局の永山由高(よしたか)氏はこう明かす。

「行政へのアンチテーゼとして行なっているイベント。行政はひとりの人間、ひとりの人生に目を向けず、人口という数字でしか見ていないことが多い。地域おこし協力隊も人材を活かそうとしていないケースも少なくない。このイベントを通じて、地域と移住希望者が交流して何ができるか。本当に移住という形が正解なのか見極めてもらいたい。移住でなくとも、繋がりを持つだけでもその地域に貢献できることもある」

もちろん参加する地域も同じ思いだ。むしろ地域によっては、移住よりも二拠点居住を望むケースも少なくない。そして移住する側の人間も移住に対する思いはさまざまで、これまで120人の参加者がいたが、実際に移住したのは24組。移住はせず、このイベントをきっかけに地域と仕事だけしている人もいる。

あくまで「南九州移住ドラフト会議」は交流のきっかけであり、"ドラフト会議"というコントを成立させるためのものなのだ。

■本家さながらの緊迫感と喜び?

では、そのコントは一体どんな様子なのか。

その前に当日までの流れを説明すると、まず6月から選手(移住希望者)の受付が始まる。そして9月に行なわれる「移住キャンプ」までは特にすることはない。その間は球団(地域)が動画などで地元をPR。そして2日間の「移住キャンプ」で初顔合わせ。初日は田舎に住めための体力測定という体(てい)のレクレーションが行なわれ、2日目は移住者からの体験談やグループワークで、地域や田舎暮らしの情報を得られる。

10月には本番の「南九州移住ドラフト会議」が開催されるが、前夜祭では各球団最後のPRであるトークショーと、選手による1分間PRが行なわれる。

「主要産業は田舎にありがちな農業・林業・団体職員」と自虐で笑いをとるほどゆるいトークショーだが、意外と地域のリアルな空気感が伝わることも。

「若い人に託そうという空気。地震後の復興もあって、30年後、50年後を見据えて、若者が何でもしていい雰囲気」(南阿蘇村)や、「僕らと町長の間は超保守的。そこにこのイベントの話をしても、決裁が通らないだろうから町長に直接交渉した。町長はリスクを取るのが仕事だと思ってるので」(西臼杵郡)など、カジュアルなイベントだからこそ包み隠さず、情報をオープンにしていた。

人口1000人弱の五木村から来ていた土屋望生氏は、移住への期待を聞かれた際に「あんま関係ないです! 今日明日生きられればいいという集まりの村なんで(笑)。自由気ままに過ごしていただいて、たまに地域の祭りと草刈りに参加してくれればいい。草は刈らないと外出できないから(笑)」と本音をぶちまけるほどだ。

そして移住希望者たちも一堂に会して、自己紹介するわけだが、高校生がいたり、巫女がいたり、開発コンサルタントや三味線奏者がいたりと彼らの肩書きはバリエーション豊か。そしてPRも、真面目に自分の強みを語る人から歌い始める人まで、さまざま。「宮崎を旅行してすごく好きになった」「特に希望地域はなく、なんとなく合いそうなところがあればいいと思った」など、参加者の志望動機もこれまたゆるい。会場から野次や応援が飛び交い、とにかく自由だ。

そして、翌日は高級ホテルの宴会場で「ドラフト会議」。円卓に座った各球団の監督がそれぞれ選手名を書き、スタッフによって集められていく。会場が暗くなり、いざ発表となると自然と緊迫感が走る。それだけ見れば本当のドラフト会議と同じだが、指名するメリットも指名されるメリットも何もない。

さらに指名がかぶると、会場からはどよめきが。ここでも本家にのっとって「くじ引き」が行なわれる。なんなら球団側は「このくじを引かないと意味ない」と口をそろえる。大崎町(鹿児島)の東靖弘町長に至っては「これまで毎回外してきた。その屈辱を晴らすため、今年は当てに来た!」と意気込むほどだ。選手である移住希望者より楽しんでいるのは否めない。

そして実際に当たりを引いた監督は大喜び、外れた監督は落ち込む。もちろん指名できたからといって何があるわけではないのだが、意外と見ているほうも緊張して盛り上がる。指名された選手もどことなくうれしそう。全員の指名が終わると金屏風の前でチームごとに記念撮影をするなど、細かいところまで本家と同じだ。参加者のひとりは「想像していたよりも本当に『ドラフト会議』で選ばれた気分。意外と楽しい」と振り返った。かつての野球少年が夢見たあの舞台が現実になったのだ。

参加者全員で作り上げるコント「南九州ドラフト会議」。イベントを終えた永山コミッショナーは、冷静に語る。

「日本全国で地方創生と言っているけど、日本の全体人口が下がっているなかで全て救われるのは無理。『滅びの美学』じゃないですけど、いつか消えるんだから消えていくなかでどう楽しめるか、どうせ消えるなら潔(いさぎよ)く認めて面白いことをしていくことが大事だと思う。そのためにこのイベントは大人が全力でふざけて楽しんでいるんです」

取材・文/鯨井隆正

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