大人のひきこもりを解消するには、まず「親が対応を変える」。家族支援から始める山口県"宇部モデル"とは?

大人のひきこもりを解消するには、まず「親が対応を変える」。家族支援から始める山口県"宇部モデル"とは?

山口県宇部市のひきこもり支援の拠点、NPOふらっとコミュニティ。山根氏が主宰する

61万3000人。これは今年3月、内閣府が発表した「40歳〜64歳でひきこもり状態にある人」の数だ。

今、社会問題になっている「大人のひきこもり」だが、社会復帰を望む人と、その支援者の努力により、確実にその数字を減らしつつある自治体が存在する。

『週刊プレイボーイ』ではこれまで、ひきこもり者への「相談、指示、助言」をNGとし、情報提供に徹したことでひきこもり者の人数を10分の1にした「秋田県藤里町(ふじさとまち)」、67歳の"スーパー保健師"が徹底して世話を焼くスタイルで当事者たちを続々と社会復帰させている「岩手県洋野町(ひろのちょう)」の2つの自治体の例を紹介してきたが、今回は山口県宇部市(うべし)の取り組みを取材した。

* * *

ひきこもり問題を取材し続けるジャーナリスト・池上正樹氏は、「"宇部モデル"は今後、ますます注目される存在になるはず」とその取り組みに一目置く。この町にもやはり、ひきこもり支援のキーマンがいた。山口大学の教授(保健学)で、NPO法人『ふらっとコミュニティ(ふらっと)』を主宰する山根俊惠(やまね・としえ)氏だ。

彼女の場合は、ひきこもり者の"親が対応を変える"ことに重点を置いた支援が特徴だ。その理由について山根氏がこう話す。

「ひきこもり長期化の原因の一つに、"親からの圧力"があるからです。親は子どもが抱える心の問題に気づかず、『いい歳なんだから、早く働きなさい!』と叱責したり、『いつまでも親は生きているわけじゃないのよ』と不安を煽る対応をしたりします。そうすると、子どもは攻撃的になり、モノに当たったり、親に暴言を吐いたり、ときには暴力を振るうようになります。また、親と喧嘩をしたくないために心を閉ざし、部屋から出てこなくなる場合もあります。

さらに、子どもがネットで注文した品を『息子はまだ人に会えない』からと、親が代わりに宅配業者から荷物を受け取ったり、『外出してほしい』と言いながらも息子が好きなお菓子を買い置きし、外出しなくても済むような行動を取ってしまいます。

このように親が良かれと思った行動が、"息子を動けなくしてしまっている"こともあるのです」(山根氏、以下同)

『ふらっと』では1回2時間×6回の基礎プログラムや、月1回の家族心理教育(実践編)を行ない、ひきこもる子供への対応法を親に教え、共に学び合う機会を作っている。その席で山根氏が"絶対にやってはいけないこと"として強調するのが、「先回り」だ。

「例えば、『ひきこもり当事者の会があるのでお子さんにぜひ、お声がけください』と伝えると、親は『うちの子はああいう所には参加しないと思います』と返事が返ってきます。しかし、参加するかどうかを決めるのは、親ではなく子供です。

このように親が子供の気持ちを推し量り、良かれと思って行動する先回りは、子どもの力を奪ってしまうことを学んでもらいます」

ひきこもり者の親から家庭での様子を聞き、問題となる行動があれば、その時の様子や子供の気持ちを一緒に考え、どのように対応したら良いのかを助言する。否定的な言葉は使わず、苦しい親の気持ちに共感しながら背中を押していく。その後、親子関係に変化が見られた段階で、家族支援からひきこもり当事者への個別支援へとシフトさせていくのだ。

高度なスキルが求められる支援策だが、宇部市とも連携する『ふらっと』ではこれをひきこもり者の家族ら、相談者に無料で提供。その成果は出ている。

家族会に参加していても家族関係が改善しなかった8世帯を2015年から3年間支援した結果、「全世帯でひきこもり当事者が外出でき、親子間でコミュニケーションが図れるようになった」という。

その中には、自身の生きづらさを話すようになり、自ら精神科受診を選択した人や、アウトリーチ(訪問支援)や居場所支援を経て就労につながった人もいる。

また、約12年間、自室からほとんど出てこなかった、不登校からのひきこもり者(30代・男性)の場合、髭も髪も伸び放題で、昼夜逆転の生活を送っていたが、『ふらっと』の支援を受ける過程で少しずつ親と話ができるようになり、普通に生活するまでに回復した。「先日は、17年ぶりに家族で外食ができた」という。

この宇部モデルもまた、ひきこもり問題解決の可能性を秘めている。

取材・文・撮影/興山英雄

関連記事(外部サイト)