『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』の著者・下関マグロが語るナポリタン愛「ナポリタンはエンタメ。町中華と似ているんですよ」

maguro01.jpg

フライパンで炒められた極太の麺と、香ばしいケチャップの味わい――。サラリーマンの定番ランチであり、子供の大好きなメニューでもあり、女子高生からおじいちゃん、おばあちゃんにまで愛される、まさに国民食ともいえるスパゲティ・ナポリタン。そのナポリタンへの過剰な愛を一冊に凝縮し、話題を読んでいるのが『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)だ。

これは散歩ライター・食べ歩き評論家である下関マグロ氏が、50年に及ぶ食べ歩きをまとめたナポリタン本の決定版。オススメ店ランキングをはじめ、歴史や作り方、コンビニナポリタンの食べ比べなど、ナポリタン好きなら読まずにいられない内容となっている。 50年間、ナポリタンを食べ続けた下関氏がたどり着いたナポリタンの魅力とは?

***

――ー帯にありますけど、この本は下関さんの「50年に及ぶナポリタン食べ歩き録」だとか。50年ってすごいですね。

下関 最初は、小さい頃に食べたお子様ランチのナポリタンかな。あれって当時の自分にとってはすごいご馳走でね。その頃から半世紀にわたって食べ続けてきたナポリタンや、最近好きになったお店のナポリタンまでを紹介しています。

――「究極のナポリタンを求めて」とサブタイトルがありますが、その50年のナポリタンを振り返り「究極」を探しあてようと。

下関 まさにそう。この本のオファーをもらってから、「1日一ナポ」を決めて、1年間ナポリタン行脚にでたんです。昔、食べに行ってたお店を再訪して味を確認したり、新しいお店を開拓したり。忙しくて外に出られない時、コンビニのナポリタンを食べたりね。

ただし僕は「散歩ライター」って肩書きもあるし、またナポリタンって、そのためにわざわざ電車に乗って食べに行くようなものじゃないと思ってるからね。入谷にある自宅から歩いていける範囲か、仕事で出かけたついでに立ち寄った店だけに限りました。

――なかでも「ここは!」というお店は?

下関 この本のランキングで1位にあげた入谷のSUN(サン)ですね。最近、発見した喫茶店なんですけど、麺は太麺で、柔らかいけど芯のあるアルデンテ。ソースはケチャップにトマトソースを混ぜたオリジナル。とにかく個性的で美味しい。ここは是非行って欲しいです。

あとは南千住のニューダイカマと谷中のキッチンマロですね。両方とも味は抜群なんだけど、店主が高齢なんですよ。今も閉めてる日があるし、いつ食べれなくなってもおかしくない。一刻も早く行って欲しいです。

入谷・SUNのナポリタン。40年前から2代にわたって続く喫茶店の人気メニュー。麺はアルデンテの太麺、味はケチャップにトマトソースを加えたオリジナル。通常のナポリタンとは違う噛みごたえのある食感が印象的。 ナポリタン650円、食パンとサラダ、ドリンク、デザート付きセット850円(ともに税込)。夜はタマゴと和ダシによるソースが付き、つけナポリタンとしても食べられる。●「SUN」東京都台東区入谷2−3−16 ??03−3875−4672/営業時間10:00〜23:00(LO22:00)/ 定休日:日曜日、連休の祝日

――ナポリタンを出すお店って減ってきているんですか?

下関 80年代にイタリアンパスタが上陸してから徐々に減りだして、それこそ絶滅するんじゃないかって言われてた時期もあったけど、ここ数年はむしろ増える傾向にありますよね。パンチョみたいなチェーンが出てきたり、あと浅草のカルボや中目黒の関谷スパゲッティなど、パスタでなくスパゲッティの新しいお店が出てきたり。

――「ナポリタン=昭和レトロの味で新鮮」的な風潮もあるんですか?

下関 うん、それもあるよね。前はナポリタンを食べてるのはサラリーマンのオジさんばかりだったけど、最近は若い女性もいるし。

――ナポリタン行脚をする中で、印象に残っていることはありますか?

下関 あるお店に行った時のことなんだけど、僕がナポリタンを注文した数分後にカップルが入ってきたんですよ。で、ミートソースを注文したらマスターが、「僕は今、ナポリタンを作ってるんだよ!」って言って、そのカップルの注文をナポリタンに変えちゃった。あれにはビックリしましたね。もし僕があと数分、入店するのが遅かったら、逆にミートソースになってたのかも(笑)。そういう年配の店主のお店は個性が強くて面白いですね。

あと、また別のお店なんだけど、そこのナポリタンって、10年前に行った時は麺の脇にキャベツとトマトとパセリがのってたんですよ。でもいつの間にか、トマトがなくなったり、サービスのコーヒーがなくなったり。消費税やらなんやらで簡略化しちゃったのかな。お店も大変なんだろうなと思いましたね。

――それだけ食べ歩いてたら、入る前からある程度は美味しいんだろうなってわかりそうなものですけど、美味しいお店の特徴はありますか?

下関 間違いないのは、長く続いている個人のお店ですよね。美味しいから続いてるわけだしね。実際、どこに行っても美味しいし。

――それにしても、ナポリタンって、どのお店も大差ないだろうと思いがちですが、結構、違いはあるんですね。

下関 そうなんですよ。麺の太さ、炒め方、ケチャップ、トッピングとかで味は大きく変わってきますよ。あと進化もしてるんですよね。SUNなんか、ニンニクのトッピングがあったり、タマゴ和ダシを入れたつけ汁を出して、つけナポリタンみたいな食べ方もできたり。特に若い店主だとチャレンジするんだよね。僕も以前はナポリタンってどれも同じかなと思ってたから、すごく驚きましたね。

ーー50年間、ナポリタンを食べ続けた下関さん自身が思うナポリタンの魅力って何ですか?

下関 エンタメですね。

――エンタメ?

下関 もちろん美味しさは大事なんだけど、それだけじゃない。そのお店にナポリタン以外にどんなメニューがあるのかとか、店主の話術はどんなのか、看板娘がいるのかとか。ナポリタンのお店って昔ながらの個人経営が多いから、そういうことを楽しめちゃう。言っちゃえば「町中華」に似ていますよ。

――「町中華」って、味だけじゃなくて、お店の雰囲気そのものを楽しめますよね。

下関 どんなメニューが壁に貼り出されてるか、どんな字で書かれているかを見ることすら楽しいみたいな。さっき話した店主とお客さんのやりとりとか最高に面白いでしょ。

――そもそもナポリタンの食べ歩きって、どこかユルい感じがして楽しい感じがしてきます。それがラーメンの食べ歩きになると、一気にガチっぽくなるというか。

下関 ナポリタンって偉そうじゃないから(笑)。値段だって大体、安いし。僕は、コーヒーとセットで千円を越えちゃうと納得がいかないです。安いからナポリタンだろって思うもん。

――すごく庶民的なんですね。だからなくなりそうでなくならない。常にあるというか。

下関 この本はランキングもあるから、美味しいナポリタンのガイド本のように捉える人もいるかもしれないけど、全然違うんですよね。あなたの家の近所にもナポリタンを出すお店がありますよ。食べに行ってはどうですかって、言いたくて作ったんです。だから東京のお店を紹介してるんだけど、全国の人に読んで欲しくて。どこに住んでいても、誰であっても、ナポリタンを楽しんで食べて欲しいんですよね。

■下関マグロ(しものせき・まぐろ)
1958年山口県下関市生まれ 出版社勤務を経て、フリーライターに。WEBサイト「メシ通」にて「料理人のまかないメシ」などを連載中。町中華探検隊副隊長として、CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』にレギュラー出演中

maguro03.jpg

取材/大野智己

関連記事(外部サイト)