シャワールームやトイレの提供停止、風評被害による差別など、日本の巣ごもりを支えるトラックドライバーが追い詰められている!

感染源と誤解され、あらぬ偏見を受けてしまうトラックドライバー......

新型コロナウイルスの影響で、日本中が巣ごもりを強いられている。5月25日に緊急事態宣言が全国で解除されたとはいえ、まだまだ不要不急の外出を控える自粛生活は続きそうだ。

そんななか、こうした生活を支えるべく日本各地を走り回るトラックドライバーたちは、仕事量が増え多忙を極める上に感染源と誤解されてあらぬ偏見を受けたり、さらには彼ら自身だけでなく、その家族までもが未だ差別にさらされているという。

以下の記事は、5月11日発売の『週刊プレイボーイ』で元トラックドライバーの橋本愛喜(はしもと・あいき)氏が、その窮状をレポートしたものだ。コロナ禍における巣ごもりのなかでも、大きく困ることなくわれわれの生活が成り立っている裏には、こうしたトラックドライバーたちの苦難と努力があることを、この記事で知っていただきたい。

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■巣ごもりにより荷物量が激増

4月7日から5月25日までおよそ1ヶ月半続いた緊急事態宣言により、日本中が巣ごもり生活を強いられた。

しかし、人々が外出や外食を控えるなかで消費が大きく伸びている分野もある。例えば3月のスーパーマーケット総売上高は、前年同月比8.8%増(一般社団法人全国スーパーマーケット協会など業界3団体による販売統計調査・速報値)。また、大手ECサイトでは、荷量の増加で商品出荷までの時間がかかったり、配達が遅れるケースも起きている。

こうした状況で、これまで存在をあまり意識されることのなかったトラックドライバーたちがいい意味でも悪い意味でも注目されている。彼らを取り巻く環境の変化を、元トラックドライバーである筆者が伝えていきたい。

まず、もともと過酷な労働条件で慢性的な人手不足に陥っているトラックドライバーだが、巣ごもり消費の急増を受けて物流は混乱の絶頂にある。会社同士の契約や保持する車両と荷物の相性などから、運ぶモノがある程度決まっているトラックが多いが、特に食料品や日用品の輸送ドライバーからは、悲鳴に近い声が聞こえてきた。 

「ネット通販の商品取り扱いが増えているだけでなく、普段なら直接本人同士が会って手渡ししていたモノを配送するお客さんも増えているため、荷量が激増しました」(大手運送企業宅配ドライバー)

「皆さんのお役に立てていることを実感していますが、もう限界です。物量が多すぎてトラックに載りきらない」(生協配達員)

さらにデマや買いだめ・買い占めも、彼らの大きな負担になっている。

「昨年の同じ月より確実に物量が増えていて、本来の出勤時間のもっと前から働かざるをえない状況です」(食品輸送ドライバー)

「トイレットペーパー騒動の際は配送量が2倍になりました」(関東地場ドライバー)

そんな彼らの苦労に対し、最近はトラックドライバーへ感謝を示す声が起きている。筆者自身の経験も含め、普段から「邪魔だ」「遅い」といった苦情のみならず「底辺職の筆頭だ」「トラックドライバーだけにはなりたくない」といった差別的な言葉を投げかけられることも多かったこれまでを思えば、こうした変化は歓迎すべきことだ。

■過剰な防衛意識が生む差別

愛媛県新居浜市内の小中学校は、トラックドライバーの親を持つ児童、生徒に対し登校自粛を要請した。しかし、この対応が職業差別にあたるとの指摘を受け要請を撤回。その後こうした差別を禁止するプリントが配布された

しかし、「よい変化」はごく一部の話で、彼らが受ける職業差別は今、よりひどくなっている。

4月上旬、愛媛県新居浜市の小学校校長が「新型コロナウイルスの感染を防ぐ」という理由で、親が東京や大阪などの感染拡大地域を行き来する長距離トラックドライバーである児童3人(新1年生を含む)に対し、登校しないよう要請していたことが判明した(同校はその後、対応を誤りと認め謝罪した)。

また、同県松山市では、感染拡大地域を行き来するトラックドライバーの家族が、医療機関から受診を断られるケースが発生した(その後、県が医師会と保健所を通じて医療機関に注意喚起した)。

だが、こうした報道は氷山の一角にすぎない。実際、筆者がSNS上で現役トラックドライバーたちに「コロナ禍によって差別を受けたことがあるか」と問いかけたところ、続々と声が上がった。

「弊社のドライバーが『皆が行動を自粛しているなか、おまえらはよくいろんな所へ行けるな。おまえらが全国に撒(ま)き散らしているのと違うか』とののしられたとの報告がありました」(中小運送会社経営者)

言葉だけではない。「荷物を届けた相手から除菌スプレーを吹きかけられた」という身体的被害の報告もあった。

さらに、ドライバーの家族に向けられる目もまた厳しい。先日、筆者の元には「某大手電気機器メーカーの工場で20年以上正社員として働く妻が、夫である私が長距離トラックドライバーであるという理由で、コロナ終息まで出社を禁止されてしまった。しかも補償は一切なく、泣き寝入りしている」と、助けを求めるメールが届いた。

こうした差別的言動は、世間に「感染拡大防止のためには外出を自粛し、人と接触しない」という認識が共有されたからこそ起きているのだろう。しかし、長距離トラックドライバーが感染したり感染させたりする確率は、実はかなり低い。

というのも彼らは、移動範囲は広い一方、基本的にひとりで行動することがほとんどだからだ。荷主元でも、緊急事態宣言が出される以前からマスク着用が義務づけられており、検温検査も行なわれていた。さらには幸か不幸か、非常に過酷な荷積み・降ろしの作業も、ひとりでさせられることが多いのだ。

■シャワーを浴びられないドライバーたち

シャワールームが利用できなくなったドライバーたちは、濡らしたタオルやボディシートで体を拭くことでその期間をやり過ごしたという

話は変わって、4月中旬、トラックドライバーの間で大きな騒動になった出来事がある。「ガソリンスタンドのシャワールームの利用停止」だ。

あまり知られていないが、全国展開する大手ガソリンスタンドの一部店舗にはシャワールームが備えつけられており、店側が好意でトラックドライバーに開放している。

長距離トラックドライバーには、1週間、長いときには1ヵ月以上家に帰れない人もいる。そのため、そうしたシャワールームは彼らに欠かせない存在である。

シャワー設備はガソリンスタンドのほかにも高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SAPA)や、全国27ヵ所に展開するトラックステーションなどもあるが、「時間に追われるなか、給油がてら手短に身を清められる」「高速道路を使わないトラックも利用できる」などの理由で、ガソリンスタンドのシャワールームは断トツに利用率が高いのだ。

そんなガソリンスタンドで相次いだシャワールーム閉鎖の理由はほかならぬ「コロナウイルス感染拡大防止」のためなのだが、ドライバーの現場に大きな波紋を呼んだ。

「月曜日に出勤したら土曜日まで帰れず、毎日車中泊です。シャワールームが閉鎖されたらどうにもなりません」(関東・中長距離ドライバー)

「万が一、ウイルスが体についたままトラックの中で睡眠を取れば、自分が拾ってきたウイルスに感染するリスクが高くなる。人手不足のなか、ドライバーに感染が広まったら日本の輸送が崩壊してしまう」(40代・中小企業経営者)

前述のとおり、トラックドライバーはひとりで行動するため、感染することもさせることも確率的には低い。が、毎日の清潔を保てなくなれば話は別だ。

東京などで出された休業要請では、娯楽性の高い「スーパー銭湯」は対象となった一方で、「銭湯」は含まれなかった。それは「社会生活の維持に必要な施設」と判断されたからにほかならない。ならば、ドライバーが身体を清潔に保つことも「社会生活の維持に必要」なはずだ。

幸い、こうした声を受け、閉鎖から約1週間後の4月23日頃には、ほとんどの大手ガソリンスタンドのシャワールームが再び使用できるようになった。ある大手ガソリンスタンドには、「使用後必ずシャワールームをブラシで掃除をするから使わせてくれ」という切実な声も上がってきたといい、早期の再開に踏み切ったという。

そのガソリンスタンドの広報によると、こうしたシャワールームは、もともと社員の福利厚生施設として併設されていたそうだ。それを今まで好意でトラックドライバーに開放していたわけで、感染拡大を防ぐために提供を停止するという経営判断も単純に批判できるものではないと思う。

実際、ドライバーたちからも「困っている」という声は上がったが、ガソリンスタンドを批判する声は聞かれなかった。

今後も、ドライバーとガソリンスタンドの良好な関係が続くことを祈りたい。

■トイレ用消臭スプレーを自分にかける

ところで、シャワールームが使えなくなっていた約1週間、ドライバーはどうしていたのだろうか。

「公園のトイレで、ほんの少しボディソープを濡れたタオルに垂らし、体を4、5回拭いてやり過ごしました。シャンプーもそこで済ませました。洗面台と蛇口の距離が近いので大変でしたよ。ドライヤー? 車内の送風口です」(40代男性ドライバー)

「コンビニのカップ麺用のお湯をいただいて、タオルを濡らして体を拭きました」(長距離男性ドライバー)

「ガソリンスタンドの洗車する水で頭とか腕とか足は何度も洗いました。寒かったんで死ぬかと思いましたね。もしかしたら飲んじゃいけないような水だったのかもしれないけど、歯磨きもしました」(30代男性大型ドライバー)

よくある誤解だが、トラックドライバーは「運転」だけが仕事ではない。荷主元で荷物の積み降ろしや検品、なかには仕分け作業などもあり、想像以上に肉体労働の面が大きい。

とりわけ荷物の積み降ろしにおいては、パレット(荷物を積み上げるための板)とパレットの間にできる無駄な隙間をつくらないために、フォークリフトではなく手作業で積み降ろしなどをさせられることも多く、汚れはつきやすくなり、汗も大量にかく。

「コメ30kgの紙袋を800袋」「5〜20kgあるスイカ箱(2玉入り)を900個」「30kgの紙袋を12t」など積み降ろしをすれば、Tシャツが何枚あっても足りない。

シャワーなしの1週間、彼らは「体や服用の消臭スプレーより、トイレ用の消臭スプレーのほうが効果が高い」という会話までしていたという。それは、荷主への配慮もあったはずだ。客がドライバーに消毒スプレーを吹きかけたという話を聞いたとき以上に胸が痛んだのは筆者だけだろうか。

■同調圧力がいっそう現場を苦しめる

1週間以上家に帰れない長距離ドライバーに対して、大手ガソリンスタンドの一部店舗ではシャワールーム(左、右は脱衣所)を無料で貸し出していたが、4月中旬に利用停止となった

もちろん、コロナ禍のなかでも一貫してトラックドライバーをサポートしている施設もある。

その代表が、かねてトラックドライバーが憩いの場にしている、"某"飲食チェーン店だ。全国のロードサイドで大型車専用の駐車枠を多く取りながら展開している同チェーンは、複数店舗にシャワールームを併設し、食事をすれば無料で使用できる。そして現在もこれまでどおりの営業スタイルを守り続け、ドライバーからも「ありがたい」という声が多く聞かれた。

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だが、そうした姿勢について話を聞くべく広報へ問い合わせたところ、返ってきたのはこんな答えだった。

「他店が自粛要請に応じて店を閉めているのに自分たちだけこうして営業していると、同業者からクレームが来るので店名は伏せてください」

先ほど「"某"飲食チェーン店」と書いたのはこういう理由だ。そして自粛の同調圧力は今、あらゆる場面で発生している。それが日本の巣ごもりを支える現場の首を絞めているにもかかわらず、だ。

例えば、最近メディアで「他県狩り」という言葉が聞かれるが、他県ナンバーを引っ提げて走るドライバーたちは、そこでも差別を受けているのだ。

■一難去ってまた一難

大手コンビニエンスストアのローソンは4月28日に全店のトイレ提供を停止。しかし多くの要望を受け翌29日には提供を再開した

シャワールーム再開から数日後、彼らに別の深刻な問題が降りかかった。一部コンビニエンスストアの「トイレ閉鎖」だ。

4月28日、コンビニ大手のローソンが、客と従業員の感染防止の徹底を目的とし、全国に展開する約1万4000全店のトイレとゴミ箱の使用を一時休止とする本部方針を決定。各店舗のトイレのドアには、「使用禁止」の紙が一斉に張られた。

しかし、その後トラックドライバーのみならず多くの客から「開けてほしい」との声が上がったり、店舗オーナーからも「客の利便性を考えてトイレの提供を続けたい」といった要望が相次いだことで、同社は翌日29日には「緊急時などは従業員に声をかければ使えるようにする」と前日の発表を撤回。

トラックドライバーから安堵(あんど)の声が上がったものの、実際のところはトイレ開放の最終的な判断は各店舗に委ねているようで、現在でもトイレが使えない店舗は一定数あるようだ。

さらに、トイレ使用における「店舗判断」の動きはほかのコンビニチェーンにも広まり始め、トラックドライバーは口々に「トイレ問題はシャワー以上にきつい」と漏らす。

「この動きはトラックドライバーには厳しいですね」(男性大型ドライバー)

「今日は5時間トイレ行けず......」(女性中距離ドライバー)

トラックドライバーにとって、トイレは非常にシビアな問題だ。彼らは大型車専用の駐車枠がある場所でしかクルマから降りられない。そして延着(時間に遅れて荷主の元へ到着すること)はもちろん、早着(時間よりも早く到着すること)も許されない彼らにとって、全国に点在しているコンビニは、荷主の直近でスタンバイできる上、食料やトイレにもありつけるため、ガソリンスタンドのシャワールーム同様、非常に重要な存在なのだ。

彼らは毎度自分たちが走る道路のどこにトイレがあるかを把握し、「行きつけのトイレ」があることが多い。

ここで懸念されるのは、トイレ封鎖が続くことで、彼らがやむをえず「立ちション」や「車内でペットボトルに用を足す」という行為をとってしまうケースが増えてしまうことだ。その結果、トラックドライバーの社会的評価がさらに落ち、差別に拍車がかかってしまうのを心配している。

■ドライバーに対してわれわれができること

こうした苦しい状況のなか、巣ごもりを支えるために日本全土を走り回る長距離トラックドライバーたち。今、われわれが彼らに対し何かできることはあるのだろうか。ある運輸会社の経営者は、こう謙虚に語った。

「消費者の元に荷物をお届けするまでに、あまり知られることのない運転手の苦労や努力があることをわかっていただけるだけで十分うれしいし励みになる」

われわれの手元にあるモノのほとんどは、一度はドライバーの積み荷となって日本を走り回ったことがある。トラック協会のデータ(2017年度)によると、国内貨物輸送の9割以上はトラックによる。われわれの暮らしは、トラック物流に支えられているのだ。

最後に。今回の取材を通して筆者が驚いたのは、自らの困難を語ってくれたドライバーたちの口調だ。悲哀などなく、むしろ自嘲を交えユーモラスに話す者が多く、自身を取り巻く苦しく、時に理不尽な現状にいじけたり感情的にならず、粛々と職務をこなすプロフェッショナルの矜持(きょうじ)がひしひしと感じられた。

今なお途切れることなく動き続ける物流は、苦しい思いをするなかでも歯を食いしばって各地を駆け巡るドライバーたちのリレーによって、なんとか崩壊することなく踏みとどまっている。その踏ん張りは見えにくいかもしれないが、われわれがコロナ禍のなかでも大きくは困ることのない生活が成り立っている裏には、こうした営為があることを忘れてはならないだろう。

●橋本愛喜(はしもと・あいき) 
フリーライター。元工場経営者、トラックドライバーの経験を生かし、製造業、運送業、中小零細企業、労働問題に関する記事を多く執筆する。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)がある

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取材・文/橋本愛喜 イラスト/ぷちめい

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