老兵F‐4から最新鋭機F‐35Aへ受け継がれる、302飛行隊の誇り「オジロワシ」マーク

尾翼に赤・青・白のトリコロールカラーのオジロワシマークをまとった302飛行隊のF4ファントム

航空自衛隊第302飛行隊は、F‐4EJ改ファントムが退役し、今は三沢基地でF‐35Aに使用機種を更新中だ。

F‐4の尾翼一杯に日の丸よりも大きく描かれていた302飛行隊のシンボルであるオジロワシマークは、最新鋭のステルス機・F‐35Aに代わっても、尾翼でその翼を広げている。過去、何度も消えかけたオジロワシ。それは、302飛行隊にとって"特別"な存在だった。

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オジロワシの青い羽が「三」、白い胴体が「0」、赤い頭部(黄色い足の部分)が「二」。302飛行隊を表している

オジロワシマークは"特別"――、まずは、その理由から説明しよう。

1987年12月9日AM11:00、ソ連空軍のTu−16偵察機4機が沖縄近くの防空識別圏に進入。沖縄302飛行隊から、F‐4がスクランブル発進した。

ソ連偵察機4機のうち3機は翼を翻(ひるがえ)したが、AM11:20、残った一機が再び沖縄に接近。302飛行隊のF‐4はこの領空侵犯に対して、空自史上初めての信号射撃(20mm機関砲を相手機の進路に向けて連射。警官の警告射撃に当たる)を実地した。

このソ連機は、AM11:41に2回目の領空侵犯。これに対してF‐4は再び信号射撃を浴びせ、ソ連機は翼を翻した。

この時、後に302飛行隊長となる杉山政樹元空将補は、前夜のスクランブル任務を終えて、そのまま那覇基地滑走路脇のモーボ(移動式管制設備=若いパイロットが一名そこで任務に就く)にいた。

「無線のスイッチを入れると、『ソ連機は那覇に強制着陸』と連絡が入り、どうなるのかとヒヤヒヤしていましたね」(杉山元空将補)

そして、日本の空を見事に守ったこのF‐4の活躍により、302飛行隊の尾翼に大きく描かれたオジロワシは日本国民の間で有名になったのだった。

しかし、そこから苦難が始まる。

「平成に入った頃、上から『部隊マークを日の丸よりも小さくしろ』と全飛行隊にお達しがあった。

各飛行隊は直ぐに従ったけど、俺たちの飛行隊は事情が違った。一般の人々から、『オジロワシをオジロ雀(すずめ)にしないでくれ』と要望が多数寄せられていたんだ。ソ連機への信号射撃で一躍、有名になっていたからね。

その多くの一般国民からの声を上に上げた。そうしたら302だけは、『尾翼の部隊マーク・オジロワシは日の丸より小さくしなくていい』とのお達しが出たんだ」(杉山元空将補)

だから、"特別"なのだ。しかし、2度目の危機が訪れる。

「オジロワシはもともと、302飛行隊が発祥の地の千歳、北海道の鳥なんだ。302が沖縄に転任になったとき、沖縄にいる冠鷲(カンムリワシ)にしようかという話も出たけど、結局、オジロワシを引き継いだ」(杉山元空将捕)

二度の危機を凌いだオジロワシの三度目の消滅危機は、今回の「ステルス機」だった。

F‐35Aは、レーダーから消えるステルス機だ。だから、機体が直接視認される場合でも低視認性が求められる。F‐35では、国旗である真っ赤な日の丸も赤色からグレイの丸に変った。三色トリコロールカラーのオジロワシは、今度こそ消えゆく運命にあった。

しかし、それでもオジロワシは消えなかった。軍事フォトグラファーの柿谷哲也氏は言う。

「トリコロールカラーで大きく描かれていたオジロワシが、F‐35Aでは『白色オジロワシを小さく描く』になったんです。F‐35Aの機体はモノトーンなので、むしろ尾翼のオジロワシは洗練され強い感じがしました。

ファンだけでなく、当事者の航空自衛隊もどうするのか迷っていたと伝え聞いています。そもそも、メーカーが指定した決められた塗装法があり、色や塗り方が運用者の自由にはなりません。そこで『いっそ、別マークに変更』『マーク無し』、あるいは『白一色でもいいので大きいオジロワシを描く』などの案があったうち、『白色オジロワシを小さく』ということになったようです」(柿谷氏)

ステルス機のF‐35A

白く小さくなったが、302飛行隊のオジロワシは尾翼に描かれている

トリコロールカラー三色でオジロワシが大きく描かれてたF‐4時代の302飛行隊隊長・杉山元空将補に、この尾翼写真を見せた。

「残って良かったなと言う感じかな。ステルスは塗装に金がかかる。だけど、そのなかで日の丸よりやや大きいオジロワシはよくやったなと思います。ファントムには、トリコロールカラーのオジロワシがあった。今度は、ライトニングのオジロワシという違った形になった。

この白いオジロワシで戦うんだよ、という新しいアイデンティテイがあるね」

杉山元空将補は、「俺はオジロワシのシールをパイロット用ヘルメットに貼っていたよ」と続ける。映画『トップガン』で、パイロットが派手な帝国海軍の旭日旗をペイントしたヘルメットを被っていたように、ヘルメットに派手な絵柄、自分の名前をペイントするのは、パイロットの士気向上に役立つ。

ならば、三色カラーのオジロワシは、コクピットで操縦するパイロットのヘルメットに生き残っている可能性もあるのでは? しかし、柿谷氏は首を振る。

「F‐35Aのキャノピーはステルス効果を目的とした特殊コーティングをされて、パイロットの姿は外からはっきりと分かりませんでした。また、F‐35用の『高級』ヘルメットはマーキングが一切、見られませんでした」(柿谷氏)

F‐35Aの最新鋭ヘルメット(写真提供/防衛省)

高級ヘルメットは一個4400万円するらしい。しかしゴーグルバイザー内には、下を向けば外部カメラからの映像が転送されて、真下の様子が見られる。正にパイロットがコクピットから見る風景を一変させたのだ。

「35の高級ヘルメットの現物は見たけど、シール、ペイントは見たことがない。ヘルメットがHUDになっていて、特別なメンテナンスも必要だから、ペイントは禁止だろうね」(杉山元空将補)

個性豊かなヘルメットにできないのは残念だが、良い面もあるらしい。柿谷氏が言う。

「以前から気にはなっていたのですが、対領空侵犯措置では、上空で接近したロシア機や中国機のクルーが、近づいてくる空自スクランブル機を撮影しています。

最近のカメラは性能がいいので、ヘルメットに書かれた名前もよく見え、これを集めると相手にローテーション体制やパイロット個人の技量を知られるのではないかと心配です。その意味で、F‐35のヘルメットに個人を特定するマークが無いのは良いのかもしれません」

F−4ファントムのパイロットはヘルメットに名前をペイントしていた

領空侵犯対処でF‐35Aは、国籍不明機の真横を飛んで退去を指示しなければならない。そのとき、相手機はF‐35Aの写真を撮る。パイロットもステルスにならなければならない。正に空の忍者だ。

三沢基地でF‐35の撮影をしていた柿谷氏は、こう語る。

「F‐4に比べ、F‐35は本当に静かです。1.5キロ先からタキシングを撮影しましたが、ほとんどジェット音が聞こえません。離陸もエンジン一基なので、感覚的にはF‐4の3分の1の靜かさでした」

地上でも忍者だ。

「三沢で自分が目撃した飛行は、米空軍F‐16は離陸直後に派手に機体を捻(ひね)ったり、翼を振ったりしていました。また、EA18G電子攻撃機は低い高度のまま、数キロ先でガバッと機体を捻ってました。

それに比べて、空自F‐35Aは、全機、真っ直ぐ一定の上昇率で離陸。着陸も、編隊を解いて先行機との距離を十二分にとって、安全に配慮していました」(柿谷氏)

戦闘機のF‐16は、離陸直後にミサイル攻撃に遭わないように飛行姿勢を瞬時に変える戦闘態勢離陸だ。電子攻撃機EA18Gは、レーダーに映らない低空を飛び、ある距離から一気にコースを変えて飛ぶ。正に電子戦用離陸だ。どちらも、自分の戦い方に合った飛び方をする。空自F‐35Aだけが大人しい飛び方で、派手さは感じない。

第五世代機F‐35Aを飛ばしているのは、60年前に設計され日本で改造され3.5世代機になったF‐4改に乗っていた方々だから、安全第一にしているのであろうか。

「彼らはまず、第四世代機のF‐2で転換訓練を受けてから、35に乗っているから、ちゃんとステップは踏んでいる。飛行機として飛ばすには35Aはコンピューターが全てやってくれるので、とても簡単。

これが、戦闘モードになった時、その性能を引き出すのはパイロット次第。35がどう戦いに使えるのかはまだ、米空軍も分かってない。

戦闘力を引き出すには、35というマシーンとパイロットのシンクロが必要。これは今、35が置かれている戦闘の現況とパイロットの頭の中がシンクロしないとできない。三沢302の35はまだ手足になって、本当の戦いになるところまではいってないんじゃない?」(杉山元空将補)

こう説明を受けると、F‐35Aの真っ直ぐの離陸と、安全第一の着陸は納得できる。

F‐35Aは、まず、安全に飛ぶ事が第一なのだ。"空飛ぶ御爺ちゃん"と呼ばれたF‐4に乗っていたパイロットたちは、今、三沢で凄まじい戦闘力を持つ未知の"怪童"F‐35Aを模索しながら飛ばしているのだ。

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写真/柿谷哲也 取材・文/小峯隆生

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