ヤマト問題で“カタカナ系”弁護士事務所が狙う! オイシイ「未払い残業代請求」とは…

ヤマト問題で“カタカナ系”弁護士事務所が狙う! オイシイ「未払い残業代請求」とは…

東名高速道路のSAの喫煙ブースに貼られていた未払い残業代請求の宣伝ポスター。トラック運転手数名がその内容に見入っていた

『トラックドライバーの皆様、残業代をあきらめていませんか? まずは電話で無料診断→0120−××−××××』

高速道路のサービスエリアのトイレや喫煙所にそんな文言でひときわ目立つポスターが貼り出されている。内容を見ると『初期費用“0円”、残業代を回収できなければ報酬“0円”。完全成功報酬制で残業代請求を代理します』とある。

このポスターを掲示した東京の法律事務所の所員がこう話す。

「運送業界ではサービス残業が常態化しています。そこで、1年ほど前からトラックドライバーの方々が多数利用される高速道路のサービスエリアにこの広告を張り出したのですが、今年に入っての相談は予想以上に増えています。

営業職、飲食店、美容師、SEなど一般的にサービス残業が多いと言われる職種の中でも、トラックドライバーは当事務所で最もご依頼件数の多い職種になっていますね」

運送業界は大きく分けて、B(企業)toC(消費者)の宅配便とBtoBのトラック運送業とあるが、サービス残業が横行する事情はそれぞれに異なる。まず前者について、大手宅配便会社に勤めるドライバー(30代)がこう打ち明ける。

「宅配便はネット通販の荷物が膨大で長時間労働になりがちですが、1日の配達を終えて営業所に戻ってからドライバーが行なう集金の計算や伝票整理、日報の作成などは作業時間と見なされず、給料に含まれていないケースが多い。タイムカードで勤怠管理をする大手企業でさえ、最近は長時間労働に対する労基署の目が厳しくなっているため、所属長が『事務作業はタイムカードを打刻してからやるように』と指示している営業所もあるほど」

続いて、トラック運送業のサービス残業事情について、都内の運送会社に勤める長距離トラックドライバーの男性(50代)がこう話す。

「トラック運送業の9割以上は中小・零細企業で荷主に対して立場が弱い。荷主から『朝8時に工場に必着』と指示されてその時間にいっても、すぐに荷物を積み込んで出発できるわけではありません。必ず、積み込み待ち、降ろし待ちといった手待ち(待機)時間が発生します。

積み込みまでに1、2時間待たされるなんてことは日常で、多数のトラックが物流施設内で行列を成し、昼過ぎまで半日ほど待たされることもある。それでも荷主から“待機料”や追加料金は一切支払われないから給料に反映されることもない。こうした慣行が長距離ドライバーのサービス残業の温床になっています」

しかし、これまでトラックドライバーが『未払い残業代を払え!』と声を挙げることはほとんどなかった。この状況を一変させたのが、宅配便最大手のヤマト運輸だ。

4月18日、同社はセールスドライバーら約4万7千人に未払い残業代を速やかに支払うと発表。その額は190億円に上り、すでに過去2年間の多額の未払い分がドライバーの口座に振り込まれ始めている。

「ウチの営業所では、ドライバー十数名に対し、ひとり平均80万円ほどの残業代が支払われました。中には200万円近くの大金を取り戻したドライバーもいます」(ヤマト運輸・セールスドライバー)

こうした情報は業界内ですぐに出回り、同じく残業代未払いに泣き寝入りしているドライバーを刺激している。前出の長距離ドライバーもこう話す。

「最近、サービスエリアで仲間のドライバーとメシを食っている時に『残業代、請求した?』なんて話がよく話題になる。まだ目立った動きにはなっていないものの、“ヤマト問題”を契機にドライバーの意識が変わってきています」

そんな彼らを焚きつける…というと語弊があるが、残業代請求へと駆り立てようとしているのが、冒頭に取り上げたような弁護士事務所だ。『トラック 残業代』で検索すると、弁護士事務所のホームページが上位にズラリと表示される。

労働相談や訴訟支援など全国約1700人の弁護士が労働者の権利擁護を行う日本労働弁護団に所属する弁護士がこう話す。

「サラ金業者などへの過払い金請求の波が一段落し、その報酬で儲けていた弁護士事務所が運送業界の未払い残業という“次なる市場”へドッとなだれ込んできています。この動きは数年前からありましたが、ヤマト問題を契機に一気に火がついた印象。

日本労働弁護団には属さない、“カタカナ系”の多数の弁護士事務所が『着手金・初期費用0円』『完全成功報酬』と謳(うた)って宣伝を打ち、ものすごい勢いで集客をし始めています」

そうした弁護士事務所にとって、運送業界の残業代回収は“オイシイ市場”だ。

「トラック運転手の残業代請求は比較的やりやすいんです。国交省の省令で最大積載量5トン(または総重量8トン)以上の車両はタコグラフ(運行記録計)の装着と運行記録の保存が義務付けられており、これが実際の労働時間の客観証拠となりますから。会社側に運行記録を開示させれば、相談者(ドライバー)の給与明細との差額を容易に算出できるというわけです」

前出の長距離ドライバーがこう打ち明ける。

「私が見た弁護士事務所のホームページには自分が会社に請求できるおおよその金額を試算してくれる『残業代チェッカー』があり、そこに入社時期や月収、残業時間、残業代を入力すると1分程度でその額を示してくれるんです。

私の場合(入社時期約10年前、月収40万、残業・月80時間、10万円)、『312万4千円の残業代を請求できる』との結果が出ました。驚きましたね! 目の前に大金が積まれたような気になって、すぐにその事務所に連絡しました。

次回、担当弁護士の方に電話相談することになっていますが、この弁護士事務所では同僚を誘って複数名で残業代請求すれば弁護士費用が安くなる割引きサービスがありますから、仲間のドライバーに話を持ちかけてみようと思っています」

だが、会社への残業代請求を検討しているトラックドライバーに向けて、前出の弁護士がこう警鐘を鳴らす。

「過払い金回収から残業代回収にシフトしてきているような弁護士事務所は多くの場合、ドライバーには耳触りのいい完全成功報酬制を採っています。成功報酬だから残業代を回収できなければ弁護士の労力はムダになる。そこで懸念されるのが、低水準な和解という問題です。

本来なら300万円は回収できる事案でも、会社が80万円で和解したいと言えば、報酬欲しさに『じゃあ、それでいいよ』と早々に交渉を打ち切ってしまう。報酬額はそれほど大きくなくても、数をこなして儲けようというのが“カタカナ系”弁護士事務所がよくやる手法。依頼先を選ぶ際はその点に留意しておくといいでしょう」

未払い残業代を取り戻すべく、動き出したトラックドライバーたち。今後、運送業界に“残業代請求ラッシュ”という大波がくるのも時間の問題かもしれない。

(取材・文/興山英雄)

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