1977年に東京・上野で創業した老舗「ラブドール」メーカー。創業40年の苦労と“命を吹き込む”愛情の物語

1977年に東京・上野で創業した老舗「ラブドール」メーカー。創業40年の苦労と“命を吹き込む”愛情の物語

オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」(6月11日まで開催)

現在、東京都渋谷区の「アートギャラリー・アツコバルーarts drinks talk」で『オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」』を開催中だ(〜6/11)。

会場にはカッと目を見開き、いかにもマネキン的な表情の初期ラブドールから、いつまでも眺めていたくなる、どの角度から見ても表情が違うような憂いのある表情をする現代ラブドールまで14体ものラブドールがずらり。

オリエント工業第一号となる空気式のドール「微笑」から、空気漏れのない表面はラテックス製でボディ内部が発砲ウレタン製、亡き妻を偲(しの)べるような人間らしさを表現したという「面影」、そして2000年代に突入してから登場したシリコン製のドールまで…これまでの歴史を追える年表も眺められる。

その会場で土屋日出夫代表取締役社長に直撃、40年の苦労とラブドール産業の成長について聞いた。

―40年の歴史の中で特に印象的な出来事などありますか。

土屋 昔はエロを売り物にする人は騙(だま)しや多少インチキみたいな部分があったけど、男の性の悩みは繊細で複雑だからこそ僕はそうしたくなかったし、コストとの折り合いもありつつ改良を続けてきました。

会社の転換期はなんといっても1999年に発売した『アリス』という可愛らしい顔立ちのソフビ製ドールの爆発的ヒット。今回の会場には事情があって展示していませんが、これは初めて月に100体から150体くらい出荷される状況が続き、最も印象深いドールです。

―空気からソフビ、そしてシリコンと素材も移り変わりましたよね。

土屋 アメリカでシリコン製ドールが発売され、開発期間2年をかけて2001年にシリコン製『ジュエル』シリーズを完成させました。当時は月30体しか作れる体制になく、フル回転で作っても3ヵ月待ちのお客様もいたほど。シリコン製への移行も会社にとっては転換期でした。

―時代の変化とともに購買層の変化なども?

土屋 やはり安い買い物ではないので30、40代やそれ以上の方が中心ではありますが、中には20代で購入をしてくれる方もいて、幅広い年齢層に認知が広がったのだという気はしています。

―ラブドール開発で大切にしていることは? 今後の抱負も教えてください。

土屋 開発だけでなく梱包にもこだわってますね。例えば、開封した時に可愛らしくチョコンと座ってるような体勢にするよう気を遣ったりね。お客様がどうしても手放さなければいけない場合の里帰りシステムも導入しています。また、今でもラブドール開発には余地があると思ってて、常に新しい商品にチャレンジしています。

次に、ラブドールの型取りをする際の重要な作業工程のひとつ “シリコン注型”を担当する20代の社員にもその作業の大変さを聞いた。

―シリコン注型っていうのは、どういう作業工程なのですか?

土屋 ドールのボディ部分を成型するため、中に骨格が入った状態の型枠に液体状のシリコンを流し込むことです。特に気をつけなければいけないのは、骨格を中心部にして流し込むことと、気泡をつくらないようにすること。ちょっとでも手元が狂うと数十万円分の素材がパーになります。実際、何体かダメにしてしまったこともあります。

―シリコン注型は1日何体できるのでしょう?

土屋 今でも1日2体が限度ですね。特に弊社は年末キャンペーンで値下げするのと、新年にドールを迎えたいユーザーの方もいるため、年末は最も忙しくて。毎日のように2体のシリコン注型を行なうこともあります。

―この仕事のやりがいとは?

土屋 自分は中卒で入社して、日々、手作業で職人技を身につけてきました。一体一体、まさに命を吹き込むつもりで大事に丁寧に作業しています。同じ型取りに液体を流し込んでも、お客様の要望に近づけるために一体一体がまるで違うように見えてくる気がするので不思議です。とにかく気を抜けない作業であることが一番のやりがいです。

* * *

ラブドールというと、所有していることそのものが後ろめたい、恥ずかしいと思ってしまいがち…。しかし、実在の女性の体を型取って造られた2013年発売のシリーズ「やすらぎ」などを見ていると、その微笑んでいるのか憂いているのか、表情豊かな顔を見て、ただ性処理だけのダッチワイフの域を完全に超えている気さえする。

ラブドールは1日の終わりにそっと話しかけたくなる、癒しの存在の域に達したのだ…と感じられる展示会だったが、その裏にはこうした作り手の細やかな愛情があったのだ。40年の重みがあらためて感慨深い――。

(取材・文・撮影/河合桃子)

■オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」(6月11日まで開催)







アツコバルー arts drinks talk(渋谷区松濤1−29−1クロスロードビル5階。入場料 一般1000円、障害者800円)

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