「都民ファーストの会勝利で民進党弱体化」…こそ、安倍政権の思うツボ?

「都民ファーストの会勝利で民進党弱体化」…こそ、安倍政権の思うツボ?

小池都知事は将来的に「日本初の女性首相」を目指していると言われているが、「この国の明確なビジョンを持っているとは思えない」と語るメスメール氏

安倍首相が「加計学園問題」で揺れる国家戦略特区での獣医学部の新設について「全国展開を目指したい」と発言したり、小池都知事が長期化している市場移転問題について「築地は守る、豊洲を生かす」と表明したり、国政、都政でトンデモ発言が相次いでいる。

混迷を極める昨今の政治状況を、外国人ジャーナリストはどう見ているのか? 「週プレ外国人記者クラブ」第82回は、フランス「ル・モンド」紙の東京特派員、フィリップ・メスメール氏に話を聞いた――。

***

―多くの懸念が示される中で「共謀罪」法案が強行採決された6月15日、加計学園問題では、政府がそれまで存在を認めなかった文書が文科省で突如「発見」されました。安倍首相は自分の言い分を一方的に主張した「記者会見」で、この問題に幕引きを図ろうとしているようです。その間に世間の話題は東京都議会選挙に移り、小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」がどこまで議席を伸ばせるのかが注目されているわけですが…。

メスメール 私は、それらの出来事は別々の事象ではなく、全てが繋がっていると考えています。安倍首相は依然として非常に強い立場にあり、加計学園問題などのスキャンダルによるダメージを最小限に留めるように、あるいは共謀罪法案への反発がこれ以上広がらないように、議会における圧倒的な「数の力」を背景に政治日程をコントロールすることができる。そのことは共謀罪法案の成立過程でもハッキリと示されました。

共謀罪法案が成立した時点で国会は閉幕し、そのタイミングであれだけ「確認できない」と主張していた加計学園問題に関する文書が発見された。まるで悪い冗談のようですが、メディアは十分な批判を加えられていない。むしろ安倍政権の側がメディアを「利用している」ようにも見え、政治日程を支配することを可能にしているのだと思います。

─マトモな議論さえないまま共謀罪法案を強行採決し、加計問題や森友問題の疑惑も残っている。同じようなことがフランスで起きたら大問題になっているのでは?

メスメール 間違いなくそうでしょうね。特に今、フランスでは政治家のモラルに対して国民から非常に厳しい目が向けられており、メディアも盛んに報道します。新しく成立したエマニュエル・マクロン政権の閣僚も最近、相次いでスキャンダルで辞任に追いやられました。日本のメディアも加計や森友の問題では多くのよい取材を重ねているのに、政府からのプレッシャーを感じているのか、その報道は及び腰に見えます。

ただし、彼らが諦めてしまったかというと、私は必ずしもそう感じてはいません。先日もNHKの「クローズアップ現代」が加計問題についてかなり突っ込んだ報道をしていましたし、共謀罪についても引き続き懸念や問題点を指摘し続けているメディアも多い。現実として安倍政権の支持率も、調査によって異なりますが、ここにきて10ポイントほど落ちています。

安倍政権が成立してから既に4年半が過ぎましたが、こうした一連の出来事を通じて、安倍首相に危うさや傲慢(ごうまん)さを感じる国民は着実に増えてきている。あれだけ強固な守りを誇った「安倍の砦」の城壁に少しずつ「小さなひび」が入り始めているというのが私の印象です。

─その「変化」は、現実的な政治の変化にどう繋がっていくと思いますか?

メスメール 既に自民党内部では、そうした変化の兆しが見え始めているように思います。石破茂氏は公然と安倍首相のやり方を批判するようになりましたし、岸田外相も間接的な表現ではありますが、加計問題に対する政府の説明不足を認める発言をしています。これは大きな変化です。

安倍首相が加計問題で「全国に獣医学科を新設する」などと言い出したり、「憲法改正案を秋の臨時国会までに取りまとめる」などと改憲を急ぎ始めたりするのも、彼がこうした党内の「風向きの変化」に対して、一種のパニックを起こしているからではないでしょうか? 今後、国民の安倍政権に対する不満、反感が膨らみ続け、その結果、政権の支持率が下がり続ければ、こうした自民党内の変化は加速していく可能性は十分にある。それが「安倍首相の排除」という動きに繋がる可能性も決して否定できないと思います。

─しかし、仮に安倍政権が終わったとしても、多くの有権者は「選挙で一票を投じる現実的な選択肢がない」という問題に直面しそうです。そこで注目したいのが、東京都議会選挙です。小池都知事は都民ファーストの会から多くの候補を擁立し、長らく自民党支配が続いた都政における「新たな選択肢」を有権者に示しているように見えます。

折しもフランスでは6月18日に行なわれた総選挙で、マクロン新大統領が立ち上げた新党「共和国前進」が既存政党に代わって過半数の議席を獲得しました。このマクロン新党のように「小池新党」は新たな選択肢になり得るでしょうか?

メスメール 私の個人的な見解ですが、小池氏は将来的に「日本初の女性首相になる」という野心を抱いているのだと思います。ただし、私はマクロン大統領と小池都知事を重ねて見てはいません。彼女はマクロンにはなれないとも思っています。その理由は、彼女には「明確なビジョン」が感じられないことです。

東京都知事として小池氏は非常に良いスタートを切りました。東京オリンピックの見直しや市場移転の見直しは政策として間違いではなかったと思うし、従来の都政の問題点を浮き彫りにしたという点でも彼女の支持を高める要素になったでしょう。ただし、それらの問題の解決にあまりにも長い時間をかけすぎてしまったし、結果的に多くの妥協を強(し)いられたことで、「小池知事には明確で現実的なビジョンがない」という印象が有権者の中に広まりつつあります。

都政においてすらそうなのですから、彼女が「この国の明確なビジョン」を持っているとは思えないし、事実、これまで国家的なビジョンをほとんど示していません。むしろ自分自身の将来に対する野心から、目に見える形で安倍政権と対立することを避けようとしているようにすら見えます。マクロン新大統領や彼の新党に明確な国家的ビジョンがあるかというと、これも現実にはわからないけれど、少なくともマクロンにはそれが「ある」と国民に信じさせる力がある。その違いは非常に大きいと思います。

─確かに、小池氏は自民党都議連や自民党執行部への痛烈な批判はしても、安倍政権に対する直接的な批判はあまりしませんし、安倍首相もあれだけ小池知事と自民党都議連が対立しているのに、表立って小池批判をすることはほとんどないですね。

メスメール 私はむしろ小池新党、つまり都民ファーストの会は安倍政権にとって「民進党を弱体化させるための格好の道具」になっているのではないかと見ています。東京のような大都市では一般的にリベラル層が多いですが、彼らの票が都民ファーストの会に集まれば、結果的にそのあおりを食うのは民進党である可能性が高いからです。

─なんだかその景色、以前「大阪維新の会」が生まれた時にも見たことがあるような…。

メスメール その通りです。当初は既存政党、既存政治とは違う新たな選択肢として名乗りを上げたはずの維新の会が、紆余曲折を経て、今や実質的に「第二の自民党」みたいになっている。将来的にそれと同じことが都民ファーストの会にも起きることはあり得ると思いますね。

(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)

●フィリップ・メスメール




1972年生まれ、フランス・パリ出身。2002年に来日し、夕刊紙「ル・モンド」や雑誌「レクスプレス」の東京特派員として活動している

関連記事(外部サイト)