給料も肩書きも自分たちで決める? 知られざるホワイト企業の斬新すぎる経営手法とは

給料も肩書きも自分たちで決める?  知られざるホワイト企業の斬新すぎる経営手法とは

斬新かつ革新的な経営を実践しているダイヤモンドメディアの武井浩三社長

パワハラやサービス残業など、その年の“ブラック度No.1”企業を決める『ブラック企業大賞』が注目を集める一方、『ホワイト企業大賞』が毎年開催されていることはあまり知られていない。

直近では、パワハラと長時間労働で新入社員を過労自殺に追い込んだことが問題視されて昨年12月に大手広告代理店の電通が『ブラック企業大賞』に選ばれた2ヵ月後、東京都港区のダイヤモンドメディア株式会社が『ホワイト企業大賞』に選出された。

ホワイト企業大賞はソニーの元上席常務で、現在は東北大の工学博士に就く天外伺朗氏が主催するもの。社員の幸せと働きがい、社会貢献を大切にしているかどうかが評価基準で、過去の大賞企業を見ると、年間休日数が日本一多い未来工業や、ダイバーシティの先進企業として有名な日本レーザーなど“ホワイト企業界”では知られた名前が多い。

今回、そこに肩を並べたダイヤモンドメディアは過去にTV、全国紙、メジャーなビジネス誌に取り上げられた実績はなく、一般的な知名度は他の受賞企業と比べてかなり低い。一体、どういう会社なのだろう…と、受賞理由を見ると驚いた。

『会社設立当初から、“自分の給料は自分で決める”“肩書は自分で決める”“全社員の給料と財務情報は全部オープン”“働く時間、場所、休みは自分で決める”“代表、役員は選挙で決める”など、既存の経営手法の枠を超えた斬新かつ革新的な経営を実践している』

確かに斬新だけど、自由すぎないか!?というのが第一印象だった。

この会社は、ひと言でいえば不動産業界のITベンチャー。南青山の裏路地にある3階建てビルの1階にオフィスを構え、社長の武井浩三氏は32歳、約20名の社員の平均年齢も20代後半と若い。6月の平日午後、記者は社屋を訪れた。

オフィスにカフェやバーを併設するなど、会社然としていないIT企業は多いが、やはりこの会社も例外ではなかった。案内されてまず目を引いたのが、フロアの一角にある壁一面が鏡張りのトレーニングスペース。まだ営業時間中だというのに、そこでTシャツとハーパン姿の男性社員がダンベルで筋トレに熱中し、他の社員は『いつものことだ』とばかりに誰ひとり気にも留めず仕事をしている…といった具合だ。

そこに、武井社長が現れた。

「はじめまして」と顔をあげた瞬間に目に飛び込んできたのは、Tシャツと口髭とこんがり日焼け肌。だが、“やっぱり…”と思ったのは最初だけで、インタビューが終わる頃にはその印象は180度、一変することになる――。

ダイヤモンドメディアが設立されたのは2007年。それ以降、武井社長が徹底してこだわってきたのが情報の透明性だという。

「弊社では、社内のすべての情報が透明で、財務情報から会社の預金残高、全社員の給料、それぞれの社員が使った経費の内訳まで、PC上で誰でもいつでも見られる状態を作っています。情報の透明化は組織の健全性そのものですから、そこは何よりも重視しているところですね」

決算書や会社の預金残高は、“社員には伏せておこう”と考えるのがフツーの経営者。それはひとつに、儲かっているのがバレると「給与を上げろ」と声が上がり、儲かってないことがバレると「他社に転職しようか」と考える社員が出てくる恐れがあるからだろう。

もちろん、社員の給与の公開もフツーの会社ならしない。公開したら「あいつ、全然働いてないのに給与もらいすぎだろ!」なんて不満が噴出しかねない。もちろん、逆もあるわけだが…。武井社長がこう話す。

「それって完全に情報をコントロールする側の都合ですよね。だって、上司は部下の給料を全部知っているわけですから。これってすごく不健全な環境でしょう。弊社では社内に“ブラックボックス”を作りません。だから私を含め、ここで働く人たちの間に情報格差はありません。みんな平等に全ての情報にアクセスできる権限を持ちます」

というわけで、社内においては隣で働く○○さんの月給はン十万円で、自分との差額はン万円ということが1円単位で明確にわかる環境が広がっている。となると、やはり『なんであいつがオレより給料高いんだ!』なんて不満が出てきそうなものだが…エンジニア職の社員、尾崎愛さん(32歳)はこう言って首を横に振る。

「ウチの会社では、社員の給与は社長や人事や上司が決めるわけではありません。といいますか、普通の会社では必ずある経営理念や上司という存在自体がこの会社にはないんです。経営理念がないから営業ノルマもありません。上司がいないから部下もいません。社内に誰かが誰かを管理する、評価する、命令するという関係性がなくて、武井さん(武井社長)も含めて、みんなフラットなんです。

そんな環境の中で社員の給料は半年に一度、社内で実施される『お金の使い方会議』で社員全員の合議によって決められます。みんな納得づくだから不満は出ません」

経営理念がない? 上司がいない? 給与はみんなで決める? さっぱり腑に落ちない話だ。武井社長がこう説明する。

「まず、私の解釈ですが、普通の会社には人事的な組織図があり、トップに社長がいて、取締役会があって、以下、本部長、事業部長、課長、係長がいて、平(ひら)がいる。それぞれに責任と役割と給与レンジ(等級・ランク)が振り分けられます。

この組織の中でビジネスを回す上では、一番上に経営理念があって、理念に紐づく経営目標が立てられ、その売上げ目標額は部署ごとに事業ノルマという形で割り振られ、最終的には社員に営業ノルマという形で降りてくる。とにかく上から下へ“因数分解”的に落とし込む形だから、そこに現場が介入する余地はありません。社員があれやりたい、これやりたいと思っても、すでにガチガチに設計されたものだから、『それは来期ね』となる。つまり既存の会社組織は新規事業を生みづらい構造になっている。

また、経営理念は現場をコントロールしやすくするために作られ、理念を落とし込むとミッション、行動指針になり、それらは全て人事考課制度と直結している。だから理念に沿って行動した社員は給与が上がり、外れた社員は給与が下がる構造にもなっています」

武井氏は淡々とした口調でさらにこう続ける。

「社長や経営理念を頂点とするヒエラルキー組織に対応させた給与制度というのは、その区分の中でしか人を評価できなくなるので、働く人の力学としては、評価されない仕事はしなくなる。給料が上がらないから隣の人の仕事は手伝わないし、無関心にもなる。最終的には隣の部署が赤字だったり、会社の売上げが落ちている状況でも『オレはやることやっているから給与を上げろ』と主張ばかりするようになり、組織が分断されていく」

そうはなりたくないから、経営理念も持たないし、上司という存在もいらないと?

「はい。弊社には誰かが誰かを管理するという関係性がありません。組織における権力というのは、大きくくくると決済権と人事権に収れんされますが、これを個人や特定の人間に紐づけるようなことはしていません。仕事を進めるうえでは、各人がチームや会社が必要とするものを嗅ぎ取り、できる限り貢献するだけ。ひとつのプロジェクトの中でリーダー的な役割を果たす人は、チーム内からの自然発生に任せています」

では、社員の給与はどうやって決めているのだろう。

まず、こちらの給与構造は基本給が約20万円、住宅・通勤手当が一律3万円、このほか勤続手当、年齢手当、住居手当、子ども手当など、年齢やライフフェーズに応じた手当が支給される。

「この[基本給+各種手当]の部分がいわば、弊社にとってのベーシックインカム。新卒社員で23万円程度、25〜26歳の社員で25〜28万円程度と多少の差はありますが、やはり、生活の土台が安定しないと仕事で健全な意思決定ができなくなるので、社員一律に支給するベースの部分は比較的手厚く支給するようにしています」

これに加えて、『実力給』を支給する。その支給額を『お金の使い方会議』で決めるのだが…

「まず、通常の会社の給与制度だと、仕事と作業に値段がついた『職務給』と、その社員が持つ知識・経験・能力に値段を付けた『職能給』と『労働時間』の3つの要素の掛け算で給与額が決まりますよね。でも、これってズルをした人のほうが給与を稼げちゃう構造になっている…。例えば、『労働時間』が紐づいているから、ろくに仕事もしてない人が、ただ職場に長くいるだけでたくさん残業代がついてしまうといった具合に。

だから、弊社に労働時間という概念はありません。お客様やチームのメンバーに迷惑や余計な負担をかけないということを大前提として、働く場所も時間も休日もすべて、社員が自由に決めていいということにしています。その中で社員が生み出した“価値”に対して対価(実力給)を支払います」

実力給は「多い人で40〜50万円、少ない人で3万円程度」と、社員間で大きな差が生まれるところだ。だが先述した通り、全社員がフラットな関係にあるので「私も含めて、社員の給与を決める人事権は誰にもありません」。そこで半年に一度の『お金の使い方会議』が実施されるわけだが、“みんなで決める”って、一体どうやって…? その方法がこれまた一般の会社ではありえないものだった。

「株式市場のように“相場”によって決めるようにしています。ここでいう相場には、労働市場の中でその社員がどれくらいの価値があるのかを示すマーケット相場と、会社の中どれくらいの価値を生み出したかを示す社内相場のふたつあります。

例えば、その仕事をアウトソースしたらいくらかかるのか?とか、同程度の能力を有する人材を同業他社が雇う場合にどの程度の給与を支払うか?といった客観的な情報から、各社員の現時点での“市場価値”を精査します。これがマーケット相場ですね。

一方、社内相場というのはマーケット相場とは違って社内の人間がその社員の能力や価値をどの程度買っているのか?という感覚値を重視します。相場を決める要素はチームと仲間への貢献度、ビジネスモデルへの貢献度、会社の仕組みへの貢献度――そこは社員の感覚を頼りに決めていくところで具体的に説明するのが非常に難しいのですが…。

例えば、エンジニアの社員の実力給を決める場合、弊社では各社員が書いたソースコードをお互いに教え合うようにしているのですが、『あの人のコードはすごくキレイで勉強になる』とか、逆に『この人のコードは雑』といったところは、同じ会社で一緒に働いているからこそわかる感覚。だからその感覚値を給与に反映させるようにしています。

その際、売上げなどの目に見える結果は重視しません。というのも、社内に売上額がずば抜けて高い営業社員がいたとして、それが強引な営業手段によるものだったとしたら会社の価値は下がりますから。また、会社の事業にはいろんなフェーズがあります。例えば、新規受注で売上げを立てるより、既存顧客のフォローのほうが大事という局面であれば、数字が出ていなくてもCS向上に貢献していれば給与は上がる。こうして、その社員の社外での価値と社内での価値を照らし合わせて実力給を決めるようにしています」

全社員で徹底的に話し合い、相場で給与を決めるこの方法はシビアな側面もある。

「仕事もせずに給与だけをもらうような“タダ乗り社員(フリーライダー)”はすぐに露呈します。するとその相場が落ちるのは当然で、場合によっては『この会社に向いてないんじゃない?』といった話にもなる。だからある意味、ウチは優しくないんです。“自然の摂理”に則っているから、自然界みたいにめちゃくちゃ厳しい」

一方、会社にとって価値のある人はどんどん相場が上がり、給与も伸びる。例えば、営業職に就く26歳の女性は営業チームのリーダー的な立場にあり、この若さで月給60万円という高給を得ている。

経営理念を持たず、上司という存在をなくし、情報の透明性を徹底して社員の給与はみんなで決める。これまでの“会社の常識”を覆す経営を実践しているダイヤモンドメディアはビジネス面でも斬新なサービスを打ち出し、不動産業界に“革命”をもたらそうとしていたーー。

★この続き、後編は7月9日に配信予定!

(取材・文/興山英雄)

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